第64話 星に願いを
別にドラゴンでなくたって、生きる者は環境に適応するものである。それが自分に都合の良いものであったら、尚更。
ギルドに即死魔法の研究者がやってきてから一週間経ったころには、俺も完全に彼女たちの闇に染まってしまっていた。
「クエスト用紙、何依頼した?」
「私は猫缶一年ぶんの調達クエストニャ!」
「いいねぇ、俺は英雄を褒め称える系クエストを三つ依頼したぜ。コウタの良いところを見つけ出せクエストォォォ!」
「三つも! 流石ニャー、太っ腹ニャー!」
クエストの依頼権を競売制にした後、俺達は自分の望みをクエストとしてギルドに依頼することを覚えてしまった。
クエストの以来は本来ならクエスト達成者だけでなく、ギルドに仲介料を支払わなければならない。しかし俺たちがギルドの係員であれば、その仲介料は殆ど手元に戻ってくるのである!
「私は死体調達をお願いしようかな。思い切って強制クエストにしちゃうぜ!」
「よっ、研究熱心!」
「強制クエストとは思いきったニャ!」
完全に思考と倫理を放棄し、俺達は阿呆みたいに騒ぎまくっていた。しかしロップだけはその輪に混ざらず、ひたすら帳簿に向き合っている。
「おいおいノリが悪いぜロップぅ。お前もお願い事しろよ~」
七夕の短冊にお願い事書こうぜくらいのノリで、ギルドの乱用を勧める俺。
半分は意外とストイックだった仲間への良心から、もう半分はみんな共犯になってもらわないと困るという罪の意識からの言葉だった。我ながら完全にクズである。
しかしロップは意にも介さず、ギルドで稼ぐことに熱中しているようだ。
「あっしのことはお気になさらねぇで下せぇ。大したお願い事もないので、あっしは遠慮するでやすよ」
「いやいや、大したお願い事じゃなくてもいいんだよ。どんな小さいお願い事も、用紙に書いて壁に張りゃあ兵士が解決してくれんだから」
またもクズ発言。
しかしロップは軽く微笑むだけで、また作業に戻っていった。
「ニャー、やっぱりお金を稼ぐことが趣味って感じなのかニャア?」
人に合わせがちなロップにしては珍しいことなので、リナが心配そうに俺に聞いてくる。
そもそもギルドを最大限利用しようと考え始めたのはロップなのだ。俺達だけが楽しんでいる状況は居心地が悪い。
「さぁ……。俺も、ロップが何を考えてるかまでは、ちょっと分からないな……」
ロップとも長い付き合いになるし、その性格は把握しているつもりになっていた。
しかし彼女は自分の真意を隠したがる傾向があるし、今も俺の想像と違う動きをしている。俺はまだ彼女を理解できていないのではないかと、漠然とした不安に襲われたのであった……。
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