第65話 スライムバス

「うわ、このクエスト、報酬がめっちゃ良いニャ!」


 リナが壁に貼られていたクエスト用紙の内一枚を指さし、叫んだ。

 その用紙には「害悪存在の討伐」と書かれており、害悪存在とやらの詳細がたくさん書かれている。


「なんでやしょう、新種の魔物でやすかね?」


 高い報酬に釣られたのか、ロップも興味が有る様子だ。


 最近根を詰め気味だったロップが久しぶりに明るい顔をしたので、俺も気をよくして言った。


「今日はギルド休もう」




 こうして、俺達はギルドを休んだ。


 簡単に言ってはいるものの、ご想像通りである。だから勿論ギルドを完全に停止させたわけではなく、代わりの人物を置いてきた。


「やっぱこういう時ダンジョン賊は便利だよなー」

「あいつ一応、元は指名手配犯だけどニャ?」


 そうだった。余りにも情けない姿ばかり見てるせいで、忘れそうになる。


「まぁまぁ心配しなくても、あいつ一人にギルドを任せるような無茶はしねぇよ。な、レイ?」

「うんっ! だからわたちも頑張ったんだよー!」


 俺の呼びかけに、レイが舌っ足らずな可愛い声で応じる。


 何故こんなことになっているかと言えば、彼女は分身したばかりでからだ。


 レイは分身しようと思えば出来るみたいなことを言っていたが、分身魔法が使えるというわけではない。あくまで体の一部を切断し、それを再生させているだけだ。

 まして仕事を代わらせようと思ったら程々の頭はいるわけで、レイはギルドを出る前に自分の脳ごと切り取る自己解体ショーをしていた。


 こりゃ確かに皆怖がるわと思いつつも、レイのスプラッタに慣れきってしまった俺たちは何を思うでもなく、床に血がこびりつかないように気を付けながらレイの増殖を祝福した。その調子なら自己蘇生は問題なさそうだね。


「今のレイも、いつもとは違う可愛さがあってなかなか良いな。何より普段とのギャップが良い」


 というわけで、まだ切断したばかりで修復しきっていない脳がレイを幼女化させているのである。幼女化イベントってラノベではおなじみだけど、この世界ではグロ設定を経ないと実現しないようだ。


「むぅ……。あっしは元々小柄なので、幼女化してもギャップ萌えは狙えやせんね……。いっそ幼児……。胎児……?」


 俺の言葉を聞いて、ロップが不穏なことを呟く。いやいや、無理に幼児化しようとしなくて良いし、胎児はマジで怖いからやめてくれ。


「んで、結局俺たちはどこに向かってんだ?」

「今向かってるのはスライムバスの生息地ニャ! クエスト用紙に書かれた特徴に、見事一致するからニャ!」

「スライムバス? ベスじゃなくて?」

「そうニャ。スライムベスほどは凶悪じゃないけど十分に害悪存在だし、特徴にも複数合致するニャ!」


 今回のクエストでは討伐対象が正確に記載されておらず、その特徴だけが一覧になって書かれていた。


 そのため俺達はクエスト用紙に書かれていた害悪存在とやらを推測して見つけ出さなきゃいけないわけだけど、労力に見合う報酬は出るし、何より討伐対象を探して皆で歩き回るのは楽しい。既に二体の魔物を討伐して依頼主にそれではないと言われたが、俺達のモチベーションはさして下がってはいなかった。


「あ、あれニャ! スライムバス!」


 歩き回った末にリナが指を指したのは、トラック以上の大きさを誇る、ピンク色のブヨブヨとした軟体生物であった……。

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