最終章 英雄時代

第60話 転向

「このギルドを任されてはくれませんか?」

「へ?」


 それは、魔王軍幹部を二人撃退した日の夜だった。

 俺の部屋にリナ達を集めてナイス街に帰るための準備をしていると、ダイソン街の兵士がいきなりやってきて、戸を開くなりそんなことを言ったのだ。


 準備と言っても大したことはない。

 人口の少ないダイソン街は人の管理が厳しいため馬車の御者に賄賂を送り、長期間街から出たものを連れ戻す「管理者」の弱点を事前に探り、その対策に武器を調達するだけだった。


 だから俺達は準備を一旦中断し、暗器の類をベッドの下に隠し、平然と戸を開いたのである。


「で、一体何の冗談でやすか? この閉鎖的な街がよそ者をギルドの係員にするなんて、裏があるとしか思えないのでやすが?」

「えっ、ここって閉鎖的な街だったの!?」


 ロップが兵士にした質問で、俺の方が驚いてしまう。


 特にのけ者にされたイメージはなかったが、俺が英雄呼ばわりされてるから気を使われたのだろうか?


「いや、どう考えてものけ者にされてたニャよ私達」

「寧ろこの街に英雄は二人もいらねぇって感じで、コウタが一番白い目で見られてたよな?」

「お二人とも、それ以上は言わないでやって下せぇ。きっとコウタは白い目で見られなかったことがないので、違和感に気づかなかったんでやすよ。いや、気づかない方が幸せでやす。良いことじゃないでやすか」


 リナとレイが反論し、それにロップがフォローにもならないフォローを入れてくる。


 なんかロップの言葉が一番グサグサ来るんだけど、今思えば英雄なのに街の人とロクに話した記憶がないのは異常だよな……。いつもそうだから気づかなかったや……。


「お願いできませんか?」

「いやぁ、今の話の流れだと、流石にやる気は……」

「もうあなたしか頼れないのです!」


 断ろうとした俺の言葉を、その兵士は大声で遮った。


「ギルドの係員は失踪し、実質的にギルドをまとめあげていた英雄も敵だと分かった……。このままではうちのギルドはおしまいです。同時に、この街の自衛機能も完全に破綻します! どうか、どうか……!」

「う、うーん、そこまで言われると義務感を感じてしまうなぁ……」

「ギルドの運営をする人ともなれば、この街の住人もきっとあなた方を見直すでしょう」

「やろう」


 迷っていた俺は、兵士の最後の言葉を聞いて即断した。


 冷静に考えれば見直されるまでもなく俺達は活躍してきたはずだし、そもそも英雄が市民の評判を気にしている時点で悲しすぎるのだが。これは、ぼっちの悲しき性なのである。


 この世界に来てから親しみ深くなった嫌な予感も感じてはいたが、市民の評判を稼げると聞いてリナも乗り気なようだったので、俺はそのままギルドを引き継ぐことになった。


 兵士に言われるがまま契約書にサインをし、教会に誓い、ギルドの奥に飾られていた「制約の祭壇」に指の血をたらすことで、俺達はギルドの係員になったのである。


 ……。あっ、これ絶対に騙されてるやつ!!!

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