第61話 魔王軍幹部の置き土産

「騙された」


 俺が呟いたのは、ギルドの運営を任されてすぐのことだった。


 ギルドの仕事は地味な事務作業が多く英雄の名声なんて不要であったし、何より仕事が辛い!

 俺達はいいように言いくるめられて、めんどくさい仕事を押し付けられただけのようだった。


「この仕事を頼んできた兵士はギルドメンバー交代の混乱に乗じて街の外に逃げ出したようで、もう足取りすら掴めやせん。もしこの仕事を投げ出そうと思ったら、誰かに代わってもらわなきゃでやすね……」

「でも、この街の人はギルドの実態を知ってるから代わってくれるわけないニャ?」


 ロップとリナが、絶望的な事実を突きつけてくる。


「他の街から探そうにも、よそ者は殆ど入れないしな。てか……」

「だから俺達が選ばれたのか! よそ者だけど、ギルド長になってもギリギリ許されるだけの活躍をしたから!!!」


 俺に台詞を取られたレイが、不満そうな表情で俺を睨む。

 彼女の扱いは相変わらず不遇だったが、ヒロインになるのが遅かったキャラはメインヒロインを食う勢いで出番があるか、存在感が一切ないかの二択と相場が決まっているのだ。


 恨むならメインヒロインを恨め、と脳内で呟いてから、いやいやメインヒロインって誰だよと自分の思考に突っ込んだ。

 無意識の内に顔がリナの方へと向いてしまい、慌てて目を逸らす。


「あー、何よりきついのは、仕事を人に任せられないってことだよな」


 気を取り直して、レイが目下の問題を口に出す。


「えぇ、未だにギルドの中に何人魔王軍が紛れ込んでるか分かりやせんしねぇ……」

「押し付けられた仕事は、魔王軍である心配がない私達でやるしかないニャ。まぁこの仕事を受けなかったらこのギルドは本当に潰れててもおかしくなかったし、別にコウタは間違ったことしてないニャ」


 そう。未だにこのギルドには、幹部とは言わないまでも魔王軍が紛れ込んでいる可能性があるのだ。


 だから下手に知らない相手に仕事を押し付ければどんな悪用をされるか分からないし、俺達だけでなんとかするしかない。ギルドの仕事は、魔王軍との水面下での戦いも兼ねているのである。


「で、まず片付けなきゃいけない仕事は……」

「多大な借金ニャ」


 逃走経路を確保するためのギルド改造費、魔王軍への横流しだと思われる不透明な金銭の流れ、その他生活用品など。

 ダイソン係員の完全なる私的運用によって、このギルドには金が残されていないどころか借金ばかりが山積みになっていた。


 一方、≪不可侵全裸≫はギルドの経費で落ちる制服さえ未購入という仙人まがいの節制をしていたため、ギルドの会計的には凄く助かる。もちろん不審者なのは変わらないが。


「やっぱ、ギルドの頭を魔王軍に抑えられたらやりたい放題だよな……」

「てか、こんな失敗があったのに審査もせず俺らにギルドを任せるとかガバガバすぎんだろ!」


 レイの呟きに頷いて、俺はこの街の適当さ具合に突っ込んだ。いつもはうるさいと窘めてくるリナ達も、全く同じ気持ちだったためかげっそりとした顔で黙っている。


 と、そんな閉塞した状況を打破するように、俺たちがいたギルドの控室に来客があった。

 大きな黒い袋を抱えた男の市民が遠慮なく俺たちのいた机まで歩み寄ってきて、机の上にその袋を置く。


「これで、お願いを聞いてはくれませんか」


 まさかと思ってその袋を開けると、案の定中にはぎっしりとお金が詰まっていた。

 流石にギルドの借金を全て返済することは出来ないが、かなり助けにはなるだろう。しかし。


 あぁもう、この大金! 嫌な予感しかしねぇ……!

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