第57話 不可侵全裸

 レイの傷は深刻でこそあったが、まだ死んではいなかった。


 とはいえこれ以上の追撃があれば流石に回復が間に合わないため、俺は≪土転換≫と≪隆槍≫を使い、手の平から槍を生み出す。


「ニャッ、どうせ効かないのニャ!? 流石に調子乗りすぎニャ!」


 リナの突っ込みが容赦ねぇ。


 盛り上がってるのは認めるけど、ちょっとは言い方を選んで! 悲しくなるから!


 しかし俺はリナに反応する間も惜しんで、一心不乱に≪不可侵全裸≫の立っているを攻撃した。


「……!?」


 攻撃に意味はないと諦めきっているリナとは違い、≪不可侵全裸≫は明確な動揺を顔に浮かべた。そして邪魔をされる前に決着をつけようと、彼の拳がレイの方へと伸びる。


 やっぱりそうだ……! 俺は記憶を失う前の自分の推測が合っていたことを確信しつつ、魔方陣を広げ≪土の壁≫でレイを庇った。


「いってぇ……!」


 ガコン、という音と同時に、いつも冷静さを失わなかった≪不可侵全裸≫から初めて焦りを含んだ声が飛び出す。


 レイを狙っていた拳が土の壁に阻まれて、指の辺りを痛めたようである。


 俺の魔法枠はカツカツなので硬化まではしていなかったが、それでも俺の熟練した魔法を以てすれば、拳を痛め付けるくらいのことは出来る。≪土の壁≫ばっか使ってたからね。


「ニャ、≪不可侵全裸≫にダメージを与えたのニャ!?」


 リナが驚いて目を見張るが、別に不思議なことでもなんでもない。俺は自分の推測を口に出した。


「もしあいつの能力が『何でもすり抜けられる』能力なら、地面にも立っていられないはずだろ? それに、俺の頭をすり抜けて脳に直接攻撃、なんて芸当も出来なくなる」

「……! 確かにそうニャ!」

「だから俺は、物質ごとにすり抜けるかすり抜けないか分けられるんじゃないかと思ったんだ。だとしたら床を削り、土の上に立たせれば……」

「土をすり抜けたら、地面に埋まるってわけだニャ!?」


 勿論、単純にすり抜けたいものとすり抜けたくないものをいちいち分別している可能性もあったが、それだと集中を切らした瞬間に無傷ではいられなくなるだろう。

 光をすり抜けたことや、俺とは対照的な傷一つない彼の体からそうではないのだろうと推測できた。


 彼の全裸が、俺にヒントを与えてしまったのだ……!


「服を着てないのも、攻撃を受けたときに服が破けてもったいないからだと思ってたけど……。本当は、すり抜けられる物質を増やすためだな?」

「いや! これは趣味だっ!」


 俺のドヤ顔の推測に、≪不可侵全裸≫が烈火のごとく反論した。

 いや、それは別に反論しなくて良いんだよっ!

 

「とうとう見破られちゃったか……。やはり君は、生かすには危うすぎる……!」


 常に穏やかな顔をしていた≪不可侵全裸≫が顔を怒りに歪め、怒った全裸男が完成した。本能的な恐怖をヒシヒシと感じる。純粋に怖い。目に毒。


「コウタッ! 勢い余って殺したりしないでくだせぇよ? 魔王軍の情報を聞き出さなければなねぇでやすから!」

「ふっ、この僕が、そう易々と口を割るわけないだろう!?」


 ≪不可侵全裸≫に気圧されていると控室の扉が開き、救いの手をさしのべるように外からロップが顔を覗かせた。


 ロップが手招きするので、既にかなり回復したレイの手を引いて取り敢えず走る。


「お前ら、いくらなんでも私の扱いが酷すぎるだろ!」

「仕方ないだろ、さっきまで有効手段なかったんだし! レイには本当に感謝してるって……!」


 レイが俺に怒ってきたので、順当すぎる怒りだと思いながらもなんとか反論した。


 すると「それなら……まぁ」とか言ってレイが許してくれたので、俺はこいつの将来が心配になった。回復できるからか分からないけど、寛容すぎだろこいつ!


 しかし突っ込んでる場合でもないので、ロップの指示に従って部屋の出口を走り抜ける。勿論≪不可侵全裸≫も追ってきたが……。


「話は聞かせてもらったぜ、英雄さんよ」


 俺達が出口を抜けた先では、十人以上の兵士が壁の裏に隠れていた。


 彼らはこれまでの控室に聞き耳を立てていたようだ。敵と味方の見分けがつかないため、ロップがギルドにいた全ての兵士に控室の状況を伝えるよう謀ったのだろう。


「魔王軍幹部の情報を聞き出さなければって話で、どうして英雄が易々と口を割らないんでやすかねぇ……?」


 ロップがしてやったりという顔で、≪不可侵全裸≫を見つめる。

 俺の指示のように聞こえたさっきの台詞は、≪不可侵全裸≫を逆上させて言質をとるための誘導だったのだ!


 敵に回しちゃいけないのは、レイよりもロップの方だったのかもしれない……。俺はゴクリと喉を鳴らした。


「さぁ、観念しな≪不可侵全裸≫! 魔法の全容がバレた今、お前なんかもう怖くないぞ!」


 内心の恐怖を叫び声でごまかすが、それは横からしたロップの声で妨げられる。


「控室で起こったこと、後でキッチリ話してもらいやすからね」


 ロップが口を尖らせて、ぼやくように言った。どうやらリナとキスした辺りの事情も、声からなんとなく把握しているようだ。


 俺は魔王軍幹部との戦闘中にも関わらず、謂れのない胃痛に襲われたのであった。

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