第49話 水中戦のリベンジ

「お前らの語尾、なんとかならんの?」

「今更っ!?」


 道を歩いていると、ふと俺の口から愚痴がこぼれ出た。


 ロップが驚いたように叫ぶが、俺だって今更なのは分かっている。緊張を紛らわせるために何か話したかっただけだ。


 今、俺達は出張の目的であるドラゴン退治のため、クエストが行われる地点へと移動している最中だった。マンドラゴラのクエストが終わったと思ったら、すぐに命令されてしまったのだ。


「なんとかと言いやしてもねぇ・・・・・・。やんす、って語尾だとスタイリッシュさに欠けやすし・・・・・・」

「お前の語尾だってスタイリッシュさは欠片もねぇよ」


 話題に困っただけなので実際には彼女らの語尾にもう不満はないのだが、ロップは真剣に悩んでくれているようだ。

 まぁ、商人だからへりくだった感じの語尾にしたいと思った結果、今の語尾に落ち着いてしまったのだろう。


「商人だからって、「やんす」と「やす」の二択である必要はないだろうよ・・・・・・。なぁ、お前、誰かを近くに呼び寄せる時ってどう言うの?」

「おいでやす」

「やっぱり! もう違う意味になってんじゃん!」

「ええ、不満でやすか・・・・・・? じゃあ、お兄ちゃんの喋り方を真似しやすかねぇ」

「それはもっとやめろ!」


 人の言葉ですらねぇから。


「コウタ、私の語尾は問題ないかニャ?」

「いや問題大アリだけど。ニャを文末につければいいとだけ思ってるだろ、たまに分かりづらいよ・・・・・・」


 俺の語尾鑑定に興味を持ったのか、リナも話しかけてきた。

 こいつ、語尾にかけては全力過ぎるしな・・・・・・。


「そんニャことニャいニャ?」

「直すにしても極端すぎるだろ! 逆に分かりづらいわ!!!」


 ニャだけでゲシュタルト崩壊起こしそうだ。


「そうじゃなくて・・・・・・レイみたいに、もっと自然な感じに喋れないのかねってことだよ」

「「「えっ?」」」


 俺の発言に驚いたのか、リナとロップとレイが同時に素っ頓狂な声を出した。


 ちなみにダンジョン賊も貴重な戦力なので流石に連れてきたが、リナを知覚しないように目隠しして耳栓して、エコーを使って俺達についてきてるらしい。無駄にすげぇ。


「私の口調、自然か? こんな男っぽい口調なのに・・・・・・」

「いや少なくとも、リナやロップよりか自然だろ。あー、一人称がオレだともっと良いなとは思うけど・・・・・・」

「「「はぁ!?」」」


 レイ達はまたもや驚いて、俺を趣味を疑うような目で見てくる。

 この世界ではレイみたいな口調も普通なのかと思っていたけど、自分でも自覚があるくらいには変だったのか。


「そ、そんなことしたらもっと変になるだろ・・・・・・?」

「いやいや、オレっ娘くらい常識ですよ。むしろ中途半端はよくない! 全然変じゃないから、レイも言ってみろよ!」


 レイは否定こそしているが、自分の口調が良いと言われたの自体は嬉しかったのか満更でもなさそうだ。そんなに自分の口調に違和感あったなら、やめれば良いのに・・・・・・。


 なんか褒めまくればいけそうだったので、折角だし強引に提案してみた。


「ええっと、じゃあ、試してみるぞ?」

「うん」


 すんなり乗ってきた。ちょろいなレイ。


「オ、オレ・・・・・・?」

「・・・・・・」

「いや駄目だ! やっぱ駄目だこれ! 私は私だ!」


 一応オレと口に出してから、レイは顔を真っ赤にして喚いた。なにその新鮮な反応。可愛いんだけど。


 語尾とか口調とか、他愛ない話でも盛り上がれて。口調を気にしてることとか、そんな小さな事でも知っていって・・・・・・。

 こういう何気ない時間も、やっぱり大切で、かけがえのないものだよな・・・・・・。


「あっ、着いたニャ。あそこにもうドラゴンいるニャ」


 うん知ってた。だから現実逃避してた。


「グロオオオオオオオォ・・・・・・ッ!」


 予定では《不可侵全裸》と二方面に分かれて移動し、海にいるドラゴンを挟撃するはずだった。


 しかし《不可侵全裸》の率いる部隊は遅れているのか、まだ姿を現していない。代わりに、海からは予定より早くドラゴンの巨体が覗き、しかも俺達に気がついたのか叫び声を上げた。


「なぁ、あれ・・・・・・」

「ええ、海に《環境適応》したせいで、体が殆ど水分になってるっぽいですね」


 俺達を待っていたドラゴンは実体すらない、蛇の形をした水の塊だった。


 わぁ、強そう。

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