第45話 教会の手伝い
「コンチャース、死体置いときますねー」
「俺も置いときます。オナシャース」
「オナシャース」
凄く適当なかけ声と共に、ダイソン街の兵士達が教会に入ってくる。
その兵士達の後ろには、ゴロゴロと音を立てて彼らに追従する影があった。
「なぁ・・・・・・あれなんだ?」
初めて見るものだったので、俺はそれが何なのかをレイに尋ねた。実を言えば大体予想は出来ていたのだが、違う答えを期待していたのだ。
「そういやお前は見たことねぇか。あれは棺桶だよ」
「やっぱり!」
予想していたとおりの答えが返ってきたので、俺は疲労感と共に叫んだ。
そう。俺の目の前では、五角形の黒い棺桶が床を滑るように動いて兵士の後ろを追っていたのである。
RPGゲームなんかで戦死した仲間を棺桶に入れて引きずってることあるけど、ここまで物理的に棺桶で運んでるとは思わなかったぜ!
「棺桶の裏にローラーついてるし!」
棺桶が兵士達についていけるのは、別に魔法の力でもなんでもない。
裏にローラーがついた棺桶を、先頭の兵士がロープで引きずっているからだ。不謹慎すぎるだろ!
「何が不満なんだよ。移動式棺桶は兵士の憧れなんだぜ? 最新モデルの高機動棺桶なんて、今じゃ百万ゴールドの値がついてるしな」
「兵士の価値観が分からなすぎる・・・・・・!」
俺の墓石も高く売れてたし。カルチャーショックで済ませちゃいけない問題な気がしてきた。ギルドが洗脳してんじゃねぇのか。
「でも、人気な割にはナイス街で見たことないな。ダイソン街ではこんなに流行ってるのに・・・・・・」
教会の手伝いをしながら、俺は疑問に思っていたことを軽く呟く。
手伝いとは言っても俺に出来ることは雑用とか包帯の巻き替えとかだが、それでも重傷者が多くて忙しかった。
ロップは会計役で治療費をなるべく多く巻き上げるように工夫しており、リナはお金を払わずに治療だけ受けた人をこらしめる役割だ。それぞれ忙しい。
「まぁな」
勿論レイは回復担当なので、一番忙しい。
そのためなのか、彼女にしては珍しく曖昧な返事を返した。
「ちょっと休憩するか」
八時間は働いただろうか。レイの掛け声があって初めて、俺達はまともな休憩をとることが出来た。
とっくに疲労が限界に達していた俺が、教会の控え室で倒れ込んだ。そして俺以外の手伝い組も、大変よろしくない状態だった。
ロップは他人の金をずっと触っていたせいで気が変になったのか無表情で口から泡を吹いているし、リナは治療に関わってないはずなのに服が返り血にまみれているし、色々な意味で心配。俺達は役に立てているのだろうか。
「ぶっ続けで働いてんのに、レイは元気そうだな・・・・・・。やっぱ慣れてるからか?」
手伝い組は疲れ果ててぐったりしていたが、レイだけは相変わらず毅然とした態度だ。回復魔法って消費が激しそうだけど、それでも疲れを見せないのは流石である。
「いや、私はちゃんと休憩とってるぞ?」
「は!?」
平気な顔でそんなことを言うレイ。俺達は珍しく息ピッタリに突っ込んだ。
褒めようとしたらすぐこれだ!
「でも、ずっと俺と一緒に働いてたじゃん?」
「いやいや、あれは分身だし。私は五分くらいしか働いてないよ」
「分身!?」
初耳なことが多すぎて理解が追いつかない。てか五分って何だよ五分って。
「肉属性魔法が使えるんだから、そりゃ当然、クローンもどきも作れるだろ。むしろ私は、お前らよく働くなぁって感心してたんだけど」
「マジかよ・・・・・・」
酷すぎる。なんで手伝いの方が長く働いてんだよ。
「そんなに余裕があるなら、蘇生もちゃんとしてやれよ」
俺はため息をつきながら、先ほどから教会に運ばれ続けている棺桶を見つめた。わざわざ教会まで運んでるということは、蘇生が目的なのだろう。
俺はこの世界で蘇生が出来るなんてことを意識してなかったというか知らなかったが、思い返せば、最初にレイと会ったときにそんなことを聞いた気もする。それを知っていればもう少しクエストへの緊張感も和らいだろうに・・・・・・と思ったが。
「いや、私は蘇生しない主義なんだ」
レイはあっけらかんと言って、蘇生を拒んだ。マジかこいつ。
いつも以上にレイの性格を疑いかけたが、彼女の代わりにロップが弁解してくれた。
「蘇生にはたくさんのアイテムを必要とするので、経費がバカ高いんでやすよ。なので蘇生の確約をとりつけたかったら、生命保険に入るしかないんでやす」
「生命保険?」
「保険料を払ってたら、死んだときに生命が手に入るのでやす。裏ルートじゃないと買えやせんし、兵士は致死率が高いので保険料が40倍でやしたね」
うわ、その名の通りの生命保険。そもそもお前はなんで裏ルートの事情に通じてんだよ・・・・・・。
ロップの話を聞いていたレイはうんうんと頷いて、言った。
「ま、そういうわけだ。私にはこいつらを助ける義理がねぇし、金がない奴を助けてたら首が回らなくなるってこった。棺桶を置いてった奴も、殆どが仲間の死体の置き場所に困っただけだろうしな・・・・・・」
そう呟くレイの顔は何故か悔しそうだったが、それを問いただす間もなく俺達は再び仕事に駆り出された・・・・・・。
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