第46話 急患

 夜になり、流石に教会の仕事も明日に回すことになった。


「悪いな、寝る場所まで付き合わせちまって・・・・・・」


 寝袋の用意をしながら、レイがしおらしいことを言ってくる。


 俺達のために宿屋は用意されているらしいのだが、レイは急患が来たときのために教会を空けるわけにはいかないそうなので、俺達も一緒に教会に残ることになったのだ。


「いや、気にするなよ。流石に棺桶だらけの教会に、女の子一人を残すわけにもいかないし」

「そっか。ありがとな・・・・・・」


 そんなことを言ってる内に、寝袋の用意が終わった。勿論野宿じゃないので、それぞれの布団代わりである。


「えーっと・・・・・・じゃあ、じゃんけんするかニャ?」


 教会には人の寝られるスペースなんて殆どないので、必然的に俺達は同じ部屋で寝ることになった。

 そして彼女達の間で行われようとしているじゃんけんは、寝る場所の配置を決めるためのじゃんけんだ。


 勿論、ラノベみたいな俺の隣を争ってのじゃんけんではない。むしろ負けた方が俺の隣に行くという、貧乏くじを引かないための死力を尽くしたじゃんけんであった。いじめかよ。


「じゃんけんポン! 負けない・・・・・・絶対に負けないニャ・・・・・・!」


 気張りすぎだろリナ! どんだけ俺の隣で寝たくないんだ!


 俺は悲しみをこらえながら、先に部屋の隅っこに広げた寝袋に入った。後ろでじゃんけんやってるのがうるさい。

 まぁ、女の子と同じ部屋に寝られるだけで十分役得なんだろうけどさ・・・・・・。ダンジョン賊はリナと一緒にいると使い物にならないから、宿屋にいさせてるし。


「あっ、負けた」


 結局、寝る配置は「俺、レイ、ロップ、リナ」の順番になった。


 俺はなるべく、女の子側とは反対側に視線を向けて寝る。なんだかんだ言っても、近くに女の子が寝ていると思うだけで気恥ずかしくはあった。


「なぁ、起きてるか?」


 そのせいでなかなか寝付けず、寝始めてから二時間経ってた時に、レイの声を聞いてしまうことになった。


「ん、起きてるけど? なんだ?」

「いや、ちょっと聞きたいことがあってさ」


 レイが小声で、少し躊躇いがちに言う。


「聞く機会がなかったけどさ、結局、お前はなんで・・・・・・まだリナと一緒にいるんだ?」


 一緒に活動することが多くなって、レイは流石にリナを化け猫とは呼ばなくなっていたが・・・・・・。明らかに彼女が亜人であることを意識して、そんなことを聞いてきた。


 レイに何の関係があるのだろうと訝しみながらも、俺は素直に答える。


「何でも何も・・・・・・。俺もリナも似たもの同士っちゃ似たもの同士・・・・・・だからかな? リナと一緒にいると、もっと頑張れるって思うしな」

「そうか・・・・・・。あのさ、本当は私も・・・・・・」


 レイが何かを言いかけた、その時だった。


「誰か! 誰かいますか!」


 教会の扉が開け放たれ、誰かが入ってきた。おそらくは急患だろう。

 仕方がないので、起きていた俺とレイだけが控え室を出て教会の入り口に走った。


 教会の入り口には、20代くらいの男が、息を切らせて立っていた。おそらく走ってきたのだろう。

 しかしその体に傷らしい傷はなく、代わりに・・・・・・彼は棺桶を引きずっていた。


「助けてください! 彼女がケンタウロスに襲われちゃって・・・・・・!」

「まだ生きてるのか?」


 男が焦っている一方、レイは無表情で、何でもないことのように聞いた。


 レイの冷たい視線にさらされて男は一瞬だけ怯むが、すぐに気を取り直し、叫んだ。


「いいえ、死んでしまいました・・・・・・。でも、新鮮ですっ!」


 彼女の死体の鮮度を、そんなに堂々と主張されてもなぁ・・・・・・。

 死体の鮮度は蘇生成功率とかにも関わるんだろうけど、シュールすぎて反応に困った。


「悪いな、蘇生はできない」

「ど、どうしてですか!? お金ですか!?」

「・・・・・・そうだ。百万ゴールドは用意してくれねぇと、割に合わねぇ」

「百万ゴールド!?」


 百万ゴールドなんて、一介の冒険者が稼げる額じゃない。レイに冷たくあしらわれた男は、その目に涙を溜めて打ちひしがれた。


「おい、流石に百万ゴールドはぼったくりすぎじゃないの? 知らないけど」

「うるせぇ。言っただろ? 私は蘇生をしない主義なんだって」


 俺がレイを窘めても、一向に意志を曲げなかった。しかし。


「払います」

「は?」

「百万ゴールド・・・・・・。親の遺産も全部使えば、払えます! だからお願いします! セラを・・・・・・彼女を助けてください!」


 男はレイの拒絶にも負けじと、熱く叫んだのだった。


 流石のレイもたじろいで、観念したように言った。


「話だけは聞いてやる」






「え、えぇー・・・・・・」


 ここで話をしようと案内された部屋を見て、男が不満げな声を漏らす。扉の上に、「懺悔室」と書かれた板が貼ってあるのだ。それも当然と言えた。


 教会は棺桶だらけで座るところがなく、控え室にもリナとロップが寝ている。なので座って話せる場所は自然と限られたのだ。


「お、お邪魔します・・・・・・」


 男はしぶしぶと懺悔室に入り、対面の席に俺とレイが座る。板で仕切られているので、お互いの顔は見えなかった。


「で? なんでそのセラとやらは死んだんだ?」

「えっ?」


 てっきりお金の話になると思っていたのだろう。男はレイの突然の質問に、不思議そうな声を漏らした。


「さっきも言いましたが、ケンタウロスに襲われたんです。遠くから弓を射られて、遮蔽物もなかったのでそのまま・・・・・・」

「強制クエストだったのか?」

「え? いいえ、普通のクエストです。奇襲さえ成功すればケンタウロスは弱いと聞いていたので・・・・・・」


 質問の意図が分からないような口調のまま、男は素直に答えていく。


 だが、レイを隣で見てる俺には、彼女の機嫌がどんどん悪くなっているのが分かった。怒ってる理由は俺にも分からないけど、路線変更した方が良さそうですよ男さん!


 俺の心の叫びが通じるはずもなく、男は話を続ける。


「今日のクエストは報酬も高かったんで、割が良いなと思って・・・・・・」

「報酬が高いって事は、それだけ難易度高いって事に決まってるだろバカが!!!」


 男の話を遮り、レイがいきなり叫び声を上げた。


 彼女の直接的な罵倒を聞いたのは久しぶりな気がする。しかもここまで感情を荒げているのを見たのは、初めてかもしれなかった。


「お前ら兵士は危険なことしてるって自覚がなさすぎなんだよ! 教会の回復を頼るくらいなら、最初から危ないことするなってんだ! バカなのか? というかバカだろお前ら!」


 目の前の板を叩くレイ。ビクッとする俺。


「自業自得だ、何億ゴールド積まれたって助けてやらねぇ! お前は自分の無力さでも一生悔いときゃ良いんだよ!」

「なっ・・・・・・! 蘇生できるなら蘇生を頼るなら当たり前でしょう!? 良いですよ、助けてくれないなら他を当たります! セラの鮮度が落ちる!」


 本当に懺悔させられる羽目になった男は、レイが助けてくれないと悟ると勢いよく懺悔室を出て行った。


 彼女の死体が積まれた棺桶、水陸両用コフィンⅡ型を引き連れて、とっとと教会を出て行った。今日一日で、俺も棺桶の種類に詳しくなってしまったぜ。


「えっと・・・・・・大丈夫か?」


 俺はおそるおそる、隣で鼻息を荒くしていたレイに聞く。

 俺が聞いていても、流石に理不尽な怒り方だった。ストレスが溜まっていたのではと心配になる。


 段々と落ち着いてきたレイは、やっと何を怒っているのか教えてくれた。


「利益のために教会は秘匿してるんだが・・・・・・。完璧な蘇生魔法なんて、未だに確立されてないんだ」

「えっ!?」


 いきなりの告白に、俺は叫んでしまう。


「蘇生魔法の成功率なんて5%もないし、成功したとしても、生前と同じ状態なんて事はほぼあり得ない。大抵は記憶も人格もズタズタにぶっ壊れる」


 俺は昨日初めて蘇生魔法があることを意識したくらいだが、それでも衝撃は大きかった。


 もしかして、レイがこれまで回復を渋ったり蘇生で払えないような金額を提示したのは、それが理由なのか。


「お前らは必死に生きてるって感じがするから、わざわざ言わなくても良いんだろうけどさ。自分の命を大切にしてくれ、それだけだ。それだけの、ことだ・・・・・・」


 レイは疲れたように呟いて、控え室に戻っていった。


 深刻にしているレイを初めて見た俺は、その後もなかなか寝付けなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます