第43話 夏だ!海だ!俺、役立たずだ!

 触手に腹を刺された俺は、地面にうつ伏せで倒れるいつもの姿勢になった。


 《不可侵全裸》もダンジョン賊も、仲間を庇うにはとにかく向いてない戦闘スタイルだ。普通に考えれば、リナ達が駆けつけてくれるまでに俺は追撃されてやられてしまうだろう。


 しかし。この姿勢だと痛い方がしっくりくる位なので、重症ながらもなんとか応戦することが出来た。


「ニャ、ニャア!? コウタ、倒れてる方が強くないかニャ!?」


 リナ達の方を向いて倒れたので、クラーケンを見ることすらなく勘だけで《土の壁》やら《隆槍》やらを使っているのだが、それでなんとかなっているらしい。

 気持ち悪いウェットスーツを着たリナが驚いていた。


「これ、助けない方が良いんじゃね?」

「いや、助けてくれよ・・・・・・」


 やっと俺の近くまで来てくれた気持ち悪いウェットスーツを着たレイも、俺を助けない方が戦いに有利なのではないかと真剣に悩んでいるようだ。

 いやいや有利不利以前にこのままじゃ死ぬから! 助けろぉっ!


「仕方ねぇか・・・・・・。《回復》?」


 疑問符を浮かべながら、レイが回復してくれる。どうやら俺を助けることに納得してないようだ。なんでやねん。


 それでもレイの回復魔法は相変わらず凄まじい。俺は即座に回復し、なんとか持ち直した。


「よしっ、リナ達も来たことだし、流石にクラーケンの本体を攻めるぞ! 触手を減らしたりしてたら俺達の魔力が切れる!」

「了解でやす!」


 気持ち悪いウェットスーツを着たロップが、彼女にしては珍しく意気込む。いつもは前線に送られることをすごく嫌がるので、成長したようで喜ばしかった。俺のせいで慣れただけか。


「よし、じゃあ俺が支援している間にみんな海の中に入ってくれ! 俺も後を追う!」


 叫びながら、予備の《土転換》で土の用意を増やす。

 その土を使って隙なくクラーケンの攻撃を防ぎ、リナ達の海への侵入に遅れを取り過ぎないように俺も海に入った。


 季節としては夏に近いようだが、今日はあまり暖かくない。

 かなり冷たい海水につかってやっと冷静になったのか、俺は大事なことに気がついた。


「海の中じゃ、土属性魔法が役に立たねぇ・・・・・・!」


 俺の決め台詞ならぬ決め地の文みたいになってるが、気づいた頃にはもう遅い。

 攻撃手段も防御手段も持たない役立たずが、ここに完成した。


 海の中でどう戦えばいいか分からない俺は、縋るように何度も土を生成する。しかし、やはり硬化する前に流されて壁の形を成さなかった。


「おい、リナ・・・・・・!」


 しかも水中で目を開けることも苦手だったので、俺は目を海水にさらす痛みを堪えて定期的に目を開いたり閉じたりする他なかった。全体を見渡すことさえ困難だ。


 それでも苦労して、五度目に目を開いたとき。


 クラーケンの触手が、リナの背後から迫っているのが見えた。


「んー! んー!」


 呼吸が苦しくなってきたのを感じつつ、俺は身長で辛うじてリナだと分かる人物に、ジェスチャーで危険を報告した。


 それを見たリナは、俺に向かって元気よくサムズアップしてくる。

 駄目だ、全然ジェスチャーが伝わってねぇ!


 俺は呼吸の辛さとリナの危険に焦るが、何も出来ることがない。


 どうすれば・・・・・・!

 焦りがピークに達したとき、俺の目の前を一つの影が通り過ぎた。


「《不可侵全裸》・・・・・・!」


 どうやら俺と同じくリナの危険を察知した《不可侵全裸》が、リナに直接危険を伝えようとしているらしい。

 まともな動きでは間に合わないが、彼は《物体透過》で海水を透過しているらしく、水の抵抗がないから落ちるようにリナの方へと向かった。


 手を動かすこともなく、スーッと移動する肌色の物体。

 それが自分に近づいていることに気づくと、リナは恐怖から慌てて逃げ出した。おかげでクラーケンの触手を避けられる。


「《完全誘導性電磁砲マリンカノン》!」


 それからは特に危険もなく、リナ達三人が目から赤いビームを一斉にクラーケンに照射して倒すという、異次元の戦闘が行われた。

 ロップがやる気だったのは、この兵器があったからかよ。


 俺は血を吹き出したクラーケンの死体を眺めながら、自分の無力を痛感するしかなかった・・・・・・。

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