第二章 万年リーダー時代

第39話 出張

「さて、今日の強制クエストだが……」

「ちょっと待って。この流れ何回目?」


 ギルドに入るなり話しかけてきた係員を、俺は思わず睨み付けた。


 ドラゴンゾンビ戦の直後は丁寧語で話しかけてきた係員だったが、俺に遠慮する意味はないと悟ったのか既にいつもの口調に戻っている。


 英雄生誕祭から一週間も経っていない本日。俺は早速、強制クエストの話を持ちかけられていた。


「完全に俺を使い潰す気でいるでしょう……」

「いやいやまさか。効率的に運用していきたいと思ってるだけだ」

「さては冒険者を人扱いすらしてませんね……?」


 この係員、基本的に律儀で物分かりの良い男だけど、仕事のためならちょいちょい腹黒くなるよな。なんというか、いい性格してやがる。


「で、今回のクエストは何なんです?」


 いくら英雄と煽てられようとも、ギルドとの上下関係は変わらない。俺は違約金を払わないために、素直にクエスト内容を聞くしかないのだ。


 立場の差に、流石の俺も思わず丁寧語を貫いてしまう。


「今回のはクエストというよりか、お前個人への命令をクエスト名義にしてるだけなんだがな」

「素直に言ったら何でも許されると思ってません?」


 なめんなよ?


「お前に≪不可侵全裸フルチンアーマメント≫と会ってもらいたいんだよ」


 俺の文句もガン無視で、係員がその命令とやらを俺に伝えた。


 《不可侵全裸》。確か、俺と同じくリーダーでありながらクエストを生還し、英雄扱いされているやつの二つ名だったはずだ。


 同じ境遇なので愚痴を言い合えたりするかもしれない……とは思うものの……一つだけ気になることがあった。


「その人、男ですか女ですか?」

「男だよ」


 嫌だ会いたくねぇぇぇ! その二つ名で男とか、もう嫌な予感しかしねぇよ!


 というかそもそも、絶対に一発ネタだと思ってたのにちゃっかり登場してくるのかよそいつ!!!


「《不可侵全裸》は海岸沿いにある街のギルドにいるから、お前にはうちの代表兵士としてそこへ出張してもらう。んで、そっちで《不可侵全裸》より活躍してくれれば、ナイス街のギルドが素晴らしいギルドだと証明できるわけだ……!」

「清々しいくらいに欲望にまみれてますね」


 多分、ギルドから英雄を輩出したことで味をしめてしまったのだろう……。逆に申し訳ない気分になる。


 しかしまぁ、こういう無茶な要望が通ってしまうからこそのギルドである。初の出張だが、行くしかなかった。


「勿論、何人か一緒に連れていきますよ」

「あぁ、誰でも好きなやつを連れていけ。ギルドの評判がかかってるからな」


 俺の提案を、係員は潔く受け入れたのだった。






「で、あっしらを連れていこうってわけでやすね?」

「だって……他に知り合いいないし……」


 いつもの宿屋で、俺はボソボソと呟いた。


 生還したリーダーが英雄になるなんて、あくまでジンクスである。一週間くらいもてはやしたらすぐにみんな飽きて、俺のことなんか見向きもしなくなっていた。


 勿論俺がイケメンだったりカリスマがあったりしたら別だったんだろうけど……。まぁね、一週間もっただけマシな方っていうかね。


「なんかいきなり泣き出したぞこいつ……」

「コウタが謎なのはいつものことでやす。気にしない方がいいでやすよ」


 今日はレイも俺達と一緒にいて、急に涙を流した俺を気味悪がっていた。ゾンビ戦の時といい、相変わらず神出鬼没というか、気まぐれなやつである。


「コウタ、気を落とすニャ! 私はずっと一緒にいるニャーッ!」

「リナーッ!」


 俺の悲しみに唯一同調してくれたぼっちの化身が、ガバッと俺に飛び付いてきた。

 その体を俺も抱き締める。


 謎のテンションに、レイとロップがより引いていた。この苦しみはぼっちにしか分からないのだ。


 前までコウタ様コウタ様騒いでいた群衆が、今では手の平を返したように俺をスルーするんだぜ? そりゃ泣きもするよ!


「じゃあまぁ、みんなついてきてくれるってことで良いのかな?」

「もちろんニャ!」

「まぁ、コウタはお得意様でやすしね……」

「私も別にいいぜ?」


 俺の質問に、皆から気持ちのいい答えが返ってくる。レイまで来てくれるのはちょっと驚きだった。


「レイは教会の仕事、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、なんとかなるさ」


 気楽な答え。


 あまりに気まぐれだから不安で仕方がないのだが、まぁ来てくれること自体は有り難い。俺は皆に感謝する。


「有り難うな、レイ、ロップ、ぼっちの化身」

「ぼっちの化身って私のことかニャ!?」


 不当な扱いに大声で叫ぶリナであった。


「んで、あともう一人だけ連れていきたいやつがいるんだよ」


 俺はリナの叫び声を聞きながら、皆の顔を見回して言った。

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