第38話 おまけ
※一章が終わった記念に、ちょっと一話の修正前のやつを乗っけておきたいと思います。後半は投稿したことすらないやつです。この作品が長くてだるいなぁと思っている方も、修正前がここまで長かったことを知れば、作者が頑張って短くしてるんだなぁということが分かると思います・・・・・・w
異世界に行く前の話なのに九千字超えというわけ分からん長さなので、暇で死にそうな人だけが見るべきだと言っておきます。本編とは一切関係ありません。
「残念ながら、あなたは命を落としてしまいました」
「あ、もう大体分かりました。異世界への門はどこですか?」
壁のない、どこまでも続いている床の上に俺はいた。
辺り一面が青い。これまで見たことがないくらいに鮮やかな青で美しさを感じる反面、じっと見ていると気持ちが悪くなってくる色だった。
そして、床だけは白い。青い空間と白い床なので雲の上に見えなくもないが、白い床はガラスのように滑らかで、違和感の方が強く感じた。
「ちょ、ちょちょ、なんであんたそんなに平然としてるの?ああもしかして、夢だと思い込んでるみたいなやつ?面倒くさいからそういうのいらないんだけど」
俺の言葉に動揺したのか、目の前にいる少女が地を出して好き勝手言ってくる。
何でと聞かれたら答えは簡単。俺は生前にライトノベルをたくさん読んでいたため、こういう状況に慣れ親しんでいるからだ。
つい先ほどまでは自分の部屋にいたのに、いきなりキモい空間に飛ばされた上に目の前には美少女がいた。これはもう、今から異世界転生するとしか思えない。
そして異世界転生に巻き込まれた際のシミュレーションは、生前に頭の中で繰り返してきた。転生・転移・召喚、全てに対して対策済み。動揺なんて今更、したくても出来ないのだ。
しかしそれを説明するのも面倒くさい。俺は早く、異世界に行きたいのだ。
「俺が死んで、あなたが女神様なんでしょ?そういう確認もう要らないんで、いいからチートな特典の解説だけしてさっさと異世界に送り込んでくださいよ。あ、それともあなた、先住民の方?先住民には用ないんだよねー。女神様を呼んできてくれない?」
「なっ、あんた、何言ってんの・・・・・・?というかなんで私が女神だって分かってんのよ・・・・・・」
俺が願望をまくし立てると、目の前の少女が先ほど以上にうろたえる。全身真っ白な神聖さ溢れる服を着ているのだから、そりゃ分かるだろって感じだったが。どうやら気づかれてないと思っていたらしい。
それならそれで、気づいたことをもっと尊敬顔で褒めてほしかったが、目の前の少女改め女神様はこちらを気持ち悪いものを見る目で見てくる。あれおかしいな。ラノベなら褒められるパターンなんだけど。
「たとえ女神かもと思っても、初対面の女性に女神かと聞けるその精神性を疑うわー。どこのナンパ師よ、引きこもりのくせに」
「ひ、引きこもりは関係ないでしょうっ!?」
期待に反して、女神様が辛辣な言葉を投げかけてくる。俺はそれに対して、主人公の義務であるテンション高めの突っ込みをかました。これも練習済みなので、なかなか上出来である。
女神様の言うとおり、俺は生前いわゆる引きこもりだった。学校に行かず、外に出ることすら少なく、そして最後には家族の前に姿を見せることすらなくなった高校生。最後のフレーズ格好良いな。
食事は全て部屋の前に運ばれてくるという、あれはあれでセレブリティな生活だったが。
「あれ、そもそも俺なんで死んだんだ?外に出てないからトラックにも轢かれないはずだし・・・・・・。ちょっと待って言わないで下さい、考えます」
「自分の死因当てゲームして楽しい?」
女神様がいよいよ隠そうともせず気持ち悪そうな顔をする。確かにこれに関しては自分もどうかと思うけど、楽しいかと聞かれたら、正直楽しい。
これまで自分が読んだ異世界もののライトノベルを思い出して、自分に当てはまる状況を探す。当てはまるものがない場合は、生前の異世界シミュレーションを参考にする。こんなに楽しいことがあるだろうか。
果たして、導き出された答えは―――。
「部屋の中では雷には当たれないから、女神様の引き起こした大災害に巻き込まれて死亡――これしかないな」
「女神の引き起こした大災害って何よ!!」
俺はかなりの自信を持って答えたのだが、女神様の反応を見るにどうやらハズレらしい。まだまだ俺も甘いか。
女神様が、あんたの頭の中が見たくなってきたわ、と呟く。ようやっと俺に関心を持ってくれたようだったが、表情からは警戒心しか窺えない。何故だ。
「で、結局俺はなんで死んだんですか?」
「脱水症状よ。夏場は水分補給をしっかりしなさい」
なんか普通にアドバイスされた。
あー、脱水症状か・・・・・・。脱水症状で異世界に行くとは思わなかったな――。
まぁともかく、そのアドバイスは異世界で活かすとして、さっさと異世界に行かなくては。
転生前の解説場面を長くしても、誰も幸せにならないからね。
「俺の死因を教えていただき有り難うございます。では、テンプレ通りにいけば女神様の登場シーンなんてこれっきりですし、流石にそろそろ異世界に飛ばしてもらえますかね。この空間キモいし、そもそも女神様の好感度上げても仕方ないですし」
「いや、だからあんた何言ってるのよ・・・・・・。なんかすごく失礼なこと言われてるのだけは分かるんだけど・・・・・・。キモい空間だってのも聞き捨てならないし。ここは私の作り出した空間なのよ?」
うーん?なんだ?何故どうでも言い情報ばっかり喋って、転生前の一幕を引き延ばそうとするんだ・・・・・・?いらないだろここまでの一連の流れ。
あなたは死んだという報告、チートな特典あげるという連絡、だから異世界行ってという相談!この異世界転生ほうれんそうさえやりきれば、他は何もいらないんだよ!
なのに・・・・・・なのに・・・・・・!!!
「異世界行くまでが長ぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!早く俺を異世界に連れて行けぇぇぇぇぇぇぇ!てめぇは女神初心者かぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「だからその、異世界って何よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺はとうとう、我慢できなくなって叫んだ。生前、俺がどれだけ異世界に行きたかったと思ってるんだ。せっかく念願が叶いそうなのにこれ以上お預けを喰らうのはゴメンだ・・・・・・。
そんな思いを込めた悲痛な叫びだったが、途中で意味の分からない女神様の叫びが割り込んできたので、俺は思わず思考停止する。
異世界転生って何よ・・・・・・って、それこそ何?
この状況、どう考えても目の前にいる女神様は異世界転生を管理する係の人・・・・・・だよな?あれもしかして、そんなこと誰も言ってない・・・・・・?
思考がクリアになるにつれ、俺は体が重くなるのを感じていった。ちなみに、思考が冴え渡るのでなくクリアになるのは、ラノベ主人公の特権である。であるのだが。
「まさか俺、異世界転生、しないんですか?」
「もしかしてあんたの国で最近流行ってるライトノベルとやらの話?なんか聞いたことはあるけど・・・・・・。え、別に現実と混同してたわけではないよね?」
女神様は馬鹿にする風でもなく、当たり前のことだとでも言うように聞いてくる。それはさながら、高校生がサンタさん信じていないのは当たり前だと言う時の口調だ。
しかしその質問に対する俺の反応がいつまで立っても返ってこないため、女神様の顔が段々と青ざめてくる。気持ち悪がってるどころではなく、完全に恐怖にとりつかれている顔だった。
「え、でもあなた高校生・・・・・・。あれ、病気の報告とかされてたっけ・・・・・・」
なにやら失礼なことを呟きながら、俺のプロフィールだと思われる紙をポケットから取り出して読み出す女神様。もしかして俺の人生は、あのポケットサイズの紙に収まるくらい内容のないものだったのだろうか。悲しすぎる。
もちろん俺も、シミュレーションこそしていたものの、生前から異世界の存在を確信していたわけではない。あったらいいなぁ程度である。
ただ、気づけば見たこともないキモい空間にいて、目の前に白い服の美少女がいて、その子に死亡報告されたら異世界転生キタァッて思うじゃない!思うんだよ俺は!
「う、うーん、病気とかではないみたいね・・・・・・。じゃあ単純に、ヤバいやつだったと」
「ヤバいやつって・・・・・・」
訂正できる状況ではない上、言葉にも力が入らないため突っ込みが途中で途切れる。
え、異世界転生ないって、じゃあ俺これからどうなるんだよ。
深い悲しみを表現するために上目遣いで女神様を見てみるが、彼女の警戒心が上がるだけだった。
このままでは話が進まないので、口に出してこれからどうなるのか聞くしかない。今までさんざん不躾な態度をとってきたので虫が良すぎるとは思うが、仕方がなかった。
「あのぉ、俺はこれから、どうなるのでしょうか?できれば教えていただけると・・・・・・」
思わず今まで以上に下手にでてしまう。
「少なくとも私の予定では、このキモい空間に一万年ほど放置しておく予定だったけど」
さらりと怖いことを言ってきた。え、嘘だろ?何ここ地獄なの?しかも自分でキモい空間だって認めてるし!
「ど、どうしてそんなことを!」
さっきまでの無礼な態度への罰だとしたら目も当てられない、と焦りながら聞く。
しかし返ってきた答えは、予想できる次元を遙かに超えていた。
「言ってなかったけど・・・・・・というか言わせてもらえなかったんだけど、あなたたち人間ってのは私たち神々の食用に作られたものなのよ。地球という養殖場を用意して、そこで人生経験をつませたり増やしたりして、魂が肥えたらそれを食べるの」
「は、はぁぁぁぁぁ!?」
なにそのいらない設定!なんなのその突然のカミングアウト!怖い怖い、冗談だよね!?あれ、でも女神様、全くの真顔・・・・・・。
女神様は俺の動揺を気にもせず解説を続ける。もちろんそれは、俺の聞きたいチート特典の解説ではない。
「で、この空間は、人生ではなかなか肥えなかった魂を発酵させるための空間。まあ、腐らせたいわけではないから、発酵だとちょっと語弊があるけど。あんたの魂はこれ以上腐る余地ないし」
女神様が平然と俺の魂をディスってくる。
まぁ俺の魂が腐ってることに関しても反論はしづらかったので、俺は黙って女神様の話を聞く。どうやら俺の魂は碌な人生経験積んでないからクソまずく、一万年くらい放置して熟成させないと食べられたものではないらしい。
まだ体はあるつもりだったが霊体になっているのか、涙は出ない。泣きたい。
「もっと美味しくなりそうな魂は汚れるリスクを冒してでも転生させることはあるけど、その場合も生前と同じ世界に飛ばすわ。そもそも正当な養殖場は一つしかないし。維持費がかかるからね」
世界は維持費がかかるらしい。
そりゃそうかとも思うけど、やっぱりいらない情報だ。
「で、転生自体にもかなりの労力がかかるから、よっぽどご馳走として有望な魂しか転生なんかさせない。あなたは論外だし、たぶん転生させてもより汚れるだけだと思う」
淡々とはしているものの、あまりにも女神様の口撃が激しかった。おそらく、最初の方で俺に好き勝手言われた鬱憤がたまっているのだろう。まいったなぁ・・・・・・。
しかし俺は、反省なぞに気を取られる真人間ではなかった。そのお陰もあって、俺は瞬間的に、この状況を打破する策を思いつく。
実現可能性は未知数。しかし、何もしなければ一万年も放置されるのであれば、どんなことでもするしかない!発酵したくないしね!
俺は女神様の顔色をうかがい、説明が終わって気が抜けたタイミングを見計らって話しかけた。
「本当に、そうでしょうか?」
「ん?そうでしょうかって、何が?」
俺はなるべく自信げに言って、相手に聞く価値のある話だと錯覚させる。
正直これまでの会話内容が会話内容なので効果があるかは怪しいが、気にせず全力を出す。
「俺が転生しても、美味しい魂にならないってところですよ。本当にそうですか?」
「そりゃそうでしょ」
とりつく島もない!
でもこれで良いのだ。その油断を利用するのだから。
「俺の魂がここまで濁りきっているのは、現実世界という合わない養殖場にいたからではないでしょうか?そうでなければ、俺ほどのまずそうな魂、そうそう生まれないとは思いませんか?」
「た、確かに・・・・・・!」
すごく納得された。成功に近づいていると言えば近づいてるけど、そこまでまずそうだと思われるのは心外だ。しかし俺は、作戦のために平常心を保つ。
「なら、俺に合った養殖場を作れば、俺や俺みたいなオタクは美味しくなるし、これまでの養殖場では得られなかった新しい味を楽しめるのでは・・・・・・?むしろ現実世界でまずければまずいほど、違う世界で育てれば美味しいのかもしれませんよ!」
女神様に世界を作るだけの力があるのか、おいしい魂にどれだけの価値があるのか、そんなことは分からない。
しかし、これまでの話の流れから女神様の世界観を最大限予想して、そこにメリットを与えるような提案をする。これくらいしか今の俺に出来ることはない。ならば、オタクの想像力を最大限に活かして、全力を出すまでだ!
果たして。
俺の話を聞いた女神様の最初の反応は、「デュフフ」という不気味な笑い声であった。
これまでもそれなりに傍若無人な女神様だったが、流石に恥ずかしかったのか口を押さえて顔を赤らめる。ギャップもあってかなり可愛かった。
人間が神を模して作られているのか、やはり女神様はなかなか人間味のあるお方のようだ。
「ご、ごめんなさい・・・・・・。あんたの提案がそれなりに良かったから、ちょっと嬉しくなって変な笑い方しちゃった」
恥ずかしそうに、少しだけ目線を斜めにずらす。可愛い!
「それが実現できたら、自家養殖で人間食い放題ね」
やっぱり可愛くない!
しかしともかく、俺の提案は女神様にとっても魅力的だったようだ。これは俺のために新しい養殖場、つまりは異世界を作ってもらえそうな予感!
「一度世界を作れば自家養殖の方が安上がりではあるけど、面倒くさいし味も落ちるしで、結局は本職の人に任せようってなっちゃうのよね。でもまぁ、真っ正面から味で勝てなくても、食べたことのない味を楽しめるなら自家養殖の意味はあるかも」
女神様は自分に言い聞かせるように言う。どうやら人間というのは、農家の人でも自家栽培でも作れる野菜くらいの扱いらしい。なんだかなぁ。
そしてこの女神様は、人間養殖の職人からお金を払って俺を買いに来たわけだ。
「でも、俺の魂がクソまずいなら、どうしてわざわざ買ったんですか?ツンデレ?それとも貧乏なんですか?」
「あんたの想像力と無礼さには本当に頭が上がらないわね・・・・・・。別に貧乏じゃないわよ。私のおばあちゃんの歯が弱くなってて、ふにゃふにゃの魂しか食べられないからそのために買ったの。あんたは腐ってたからそのまま食べさせるわけにはいかなかったけど」
「俺、あなたのおばあちゃんに食べられる予定だったんですか!?」
まさか目の前の美しい女神様に食べられることすら許されなかったなんて!
一万年も女神様に食べられることだけを夢見て耐えた末に歯の弱いおばあちゃんに食われるとか、あまりにも悲惨な結末すぎる!
これはなおさら引き下がるわけにはいかない。
俺が決意を新たにすると同時に、女神様が話を本題に戻す。
「で、あなたが美味しくなるかもしれない環境って何?それがさっき言ってた異世界?」
「その通りです!」
俺は満面の笑みで元気よく返事をした。思った以上に誘導がうまくいっている。
「私いまいち分からないんだけど、異世界って現実以外の世界って意味よね?現実以外なら何でも良いってわけじゃないの?」
「いえいえ、俺たち日本人オタクの中で異世界といったら、それすなわち魔法が一般的な中世感溢れる世界です」
「ふーん、変なの。バカみたい」
変なのは認めるけど、最後のバカみたいって要る?
しかし怒って心証を悪くするのも問題なので寛大な心でスルーする。
「そして、異世界に行くに当たって大切なのがチート特典!誰もが羨む特殊能力を持つことで、慣れないアウェーな世界でも順当に成功できるのです」
「うーん?ちょっとそれおかしくない?異世界ってあなたたちオタクの理想の世界なのよね。なのにそれだけじゃ飽き足らず、理想の能力まで求めるの?異世界で努力して得るわけでもなく?それは、怠慢なんじゃないの?」
俺の異世界講義に、女神様が意見する。純粋な疑問として聞いているようだったが、説教にしか聞こえなくて耳が痛い。そして不意打ちだったこともあり、まともな反論が返せない。
自分の理想が非難されているのに何も反論できない俺は、なんと無力なのだ・・・・・・。俺は肉体もないのに平衡感覚がなくなるのを感じ、視界がグラグラと揺れ――うつ伏せで真っ白な床へと倒れた・・・・・・。
「ちょ、なんでそんなダメージ受けてるのよ、メンタル弱すぎでしょ!!わっ、なんか魂の一部が欠損してるし!!」
女神様の慌てたような声が聞こえるが、何を言ってるかまでは聞き取れない。俺はもう――駄目だ――ガクッ。
「消滅しようとするな――――!」
後頭部に女神様の猛烈なパンチを受け、俺は反動で起き上がる。霊体でも痛いもんは痛かった。
「はぁ、もう分かったわよ。異世界とやらを作ってあげるし、特典もちゃんとあげるわ。だからちょっとそこで待ってなさい」
根負けしたように女神様が言う。どうやら俺の必死の抵抗が功を奏したらしく、女神様がやっと異世界を作る気になってくれたようだ。
もちろん異世界に行けたところで俺が食われる未来は変わらないのだろうが、適切な環境であれば俺の魂が美味しくなることもあるかもしれない。そうなれば一万年も放置されたり、ばあちゃんに食べられることもなくなるはずだ。それに何より、念願の異世界に行けるのが嬉しい。
女神様も嫌々作るような口調で言っているが、それなりに楽しみなのか、表情は明るい。
まぁそれを指摘すると怒られそうなので、この空間から消えるように退出していく女神様を俺は無言で見送った。
それから数分ごとに女神様は戻ってきて、異世界について質問してきた。その度に、俺はうっとうしがられるほど真剣に答えた。
女神様はそこで養殖される魂が気になるだけであって異世界自体には興味がないようだったが、やはり自分の好きなものについて語るのは楽しかったし、女神様も段々と興味を持ってくれたようだった。
質問に来るまでの間隔は段々と伸びていき、質問が必要でなくなるくらい女神様が異世界を理解してくれたのだと思うと、少し嬉しくなる。
もちろん俺のためではないけれど、俺のところに来ていない間は必死に異世界を作ってくれてるのだ。俺は興奮と期待感が高まっていくのを抑えられなかった。
そして―――。
俺が異世界作りの話を持ちかけてから、百年が経った。
「出来たよー、異世界」
最後に質問に来た頃から九十九年と十一ヶ月二十五日ぶりに、女神様が俺の前に姿を現した。
俺はこの百年の間に時計がなくても時間を正確に把握できる技術を得ていたので、今の数字に間違いはない。
「いひっひひひっひひひっひひひひひひっっひ」
九十年以上も待ち望んだ再会に俺は喜びの声を上げた。もし俺に肉体があったら、喜びの涙で体の水分を全て失っていただろう。
「うわ、キモ」
しかし俺の歓喜にも一切心動かされた様子はなく、女神様は一言で切り捨てた。
それでこそ、それでこそ俺の女神様だ!
「あー、異世界作るの途中で飽きちゃって放ってたんだけど、少し前に憂さ晴らしに再開したら恥ずかしながらハマっちゃってさ。やっとのことで完成よ」
「いひひ」
「まぁやっつけ仕事だから細部は適当だけど・・・・・・正直そこまで期待してないからいっかって感じで」
「いひ、いひ」
女神様が神聖なるお告げを終えなさると、横たわる俺に近寄ってきた。
そして無言で霊体の髪の毛部分をむしり取り、口に含む。すごく痛かったが、なんだか幸せな気分だった。百年ぶりに人に触られたのだ、嬉しくないはずがない。
「うわ、やっぱゲロマズ。百年置いといたくらいじゃどうしようもないわねこれ。なんで買ったんだっけ私」
女神様が俺の味を批評なさる。
「まぁこれがどんな味になるか、まずくなるならまずくなるで、楽しみではあるわね。さぁ、このゲートをくぐればあなたの待ち望んだ異世界が待ってるわ。行ってらっしゃい」
女神様はそう言うと手の平から瘴気を放ち、それが凝り固まって空中に大きな正方形の穴を形作った。
百年待った割に、なんてあっさりとした門の出現。しかし何はともあれ、あれをくぐれば念願の異世界に行ける――――!
俺は床からのっそりと起き上がり、ふらついた足取りでその門へと向かった。
やっと、やっと異世界に行けるんだ・・・・・・。俺は両手を空中に浮かぶ門へと伸ばしていき――触れる前に、止めた。
なぜならば、異世界へ行けるという事実に思っていたほどの興奮が感じられなかったからだ。
俺はこの百年間の自問自答を繰り返して、異世界を喜べる精神年齢ではなくなってしまったようである。
あんなにも異世界を望み、異世界を好きでいられたのは、俺が引きこもり高校生で、純粋な悩みを多く抱えていたからこそだったのか―――。
だとしたら、異世界というのは――――。
「お、おぉおお、おお。おれのきおぐをぉ・・・・・・けじてくだざい・・・・・・」
一つの真理にたどり着いた俺は、女神様にこの百年間の記憶を消すように頼んだ。
異世界を望んでいた少年に、異世界を見せるため。
俺が今の俺とは別の俺に、なるために。
・・・・・・?俺はなんで、異世界行くためにこんなに苦労しなくちゃならんのだ?
「うわ、驚いた。まだ日本語覚えてるんだ。というか今思い出したのかな・・・・・・?あんたの異世界への執念、すごすぎるわね・・・・・・」
女神様が感心したように呟いて、少しだけ口角をつり上げる。
「ちょっと見直したわ。あなた、ただのクソ魂じゃないのかも。本当に、違う世界では花開いたりして」
殆ど言わなかった賞賛の言葉を呟きながら、女神様が笑みを深めた。
その笑みはどっちかというとご馳走を目の前にした捕食者の笑みだった気がするが、もう気にすまい。
たとえ食べられるとしても、俺は素晴らしい魂になることが大事なのだ。この百年で、俺はそこまでの悟りを開いていた。
「じゃあお望み通り記憶を消してあげるわ――。これが本当の、あなたの最初の転生ね」
そう言って女神様は、俺の額に触れようとする。
しかしそれを手で遮り、俺は女神様といくつかの言葉を交わした。女神様が再び微笑むのを確認してから、俺は惜しむこともなくこの百年の記憶を差し出した――。
「出来たよー、異世界」
「え、そんなにすぱっと作れるもんなんですか?異世界」
ちょっとそこで待ってなさいといわれた後に女神様が姿を消して、五分もしないうちに女神様が目の前に現れた。女神様ともなると世界を作るのなんて片手間で出来るのだろうか。
「そりゃもちろん。私にかかれば三分もかからないわ」
キリストの主神でさえ一週間かかってたらしいのに、本当に大丈夫だろうか。なんか嫌な予感しかしない。
まぁ細かいことは異世界行ってから考えよう。異世界行くまでが長すぎて、涙が止まらないんだようわぁぁぁぁぁん!
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