第34話 クエスト内容はよくご確認下さい
謎の骸骨に攻撃された後、俺を襲ったのは痛みだけではなかった。
自分の体重が一気に重くなったような違和感と、体内に氷を詰められたかのような不快感。
スライムやナイフや弓矢などのあらゆる攻撃を受けてきた、攻撃ソムリエの俺にも覚えのない感覚だった。
「う、うううううううう」
腹の底から唸るような声を出してしまう。
その時になると流石に他の冒険者達も骸骨の存在に気づき、俺を攻撃したやつと、他にも現れた骸骨達を攻撃し始めた。
しかしみんなの表情的に、俺の生存はほぼ諦められているっぽい。
「リーダーだから、仕方ないよね……」
「避雷針役、お疲れ様でした! 有り難うございました!」
俺の周りから、感謝の声が掛けられた。
いやいや、俺が今欲しいのは感謝じゃなくて回復なんですが……。
「誰か! 回復魔法使える人はいないのかニャ!?」
リナが辺りを見回しながら、俺の助けを求めてくれる。
しかし支援を行っていた俺が戦えなくなった上に敵が増えた今、誰にも俺の体調を見る余裕なんてなかった。
それに、生半可な回復魔法ではどうにもならないということが、俺には体感で分かっていた。傷自体は浅いものの、この攻撃はこれまで受けた攻撃の中で一番苦しい。
「あうっ、あううう」
「回復薬が効かない!? もしかしてこれ……怪我じゃなくて、毒でやすか!?」
ロップがなけなしの回復アイテムを俺に使ってくれるが、一向に体調は回復しない。
そこでやっと、ロップがこの苦しみの正体に思い当たったようだ。
毒状態。RPGではお馴染みの、体力が段々と削られていくやつだ。
成る程と納得しながら、俺はガクガク震えだした自分の両手を見遣った。
やっぱり実際に味わって初めて分かる事って有るよね。例えばほら、毒ってこんなに苦しいんだって事とか……。
「オェェェェェ!」
気づけば地面に胃の中身をぶちまけていた。
RPGで毒を受けながら平然と歩いてる奴、何者なんだよ!? 俺なんか毒状態になって一分もしない内に瀕死なんだけど!?
立っている余裕もなくなって、吐瀉物の真横に倒れ込む。あー、やっぱ地面に倒れてこその俺だよな。
「どっ、毒がこんなに苦しいものだなんて……」
「そりゃそうニャ。だって毒だもん」
そうだよな、だって毒だもんな。苦しくて当然だわ……。
これまでとは違いすぐに諦めるということはなかったが、かといってどうすればいいのかも分からない。ロップもゾンビ戦で解毒薬の売上は延びないだろうと見込み、全然持ってきていないようだ。
「なんで……骸骨に……毒が……。というかこいつら、なんなんだ……」
「動き出すところは見えなかったでやすが、十中八九、さっきのゾンビ達の骸骨でやしょうね。肉を溶かすことでゾンビは倒すことができやしたが、代わりにあっしらは腐肉で醸成された毒をもった魔獣、スケルトンを生み出してしまったのでやす……!」
ロップが熱く語る。倒し方が悪いと、ゾンビはスケルトンっていう違う魔獣になるってことか?
じゃあ俺が瀕死になってるのは、蛆虫砲のせいじゃねぇかよ!
「スケルトンって結局誰の骨なの? っていうのは長年の謎でやしたが、ゾンビの骨だったんでやすね。良い勉強になりやした!」
ロップが明後日の方向を見ながら感心していた。こいつ、都合の悪いことから話を逸らしたな!?
訓練の賜物か、この状況でも突っこみをいれようと俺の口がパクパク動いたが、声は出なかった。
駄目だ、毒って、受けたらすぐ死ぬもんなんだな……。ゲームじゃ分からなかった新事実……。
「あーあ、ったく……。見てらんねぇなぁ……」
流石に手詰まりか、と思われたその時。皆に無視されていた俺達に、久し振りに声がかかってきた。
少し気だるげな、荒々しい口調! そして、この登場タイミング! まさかレイが来てくれたのか!?
俺は一縷の望みにすがるように、声のする方へと顔を向けた。
笑顔でそこに立っていたのは、白いローブを身に纏った……少し小太りな中年男性。
「いや誰だよ」
逆にびっくりだよ。この流れで知らんおっさん出てきても、困惑しかないよ。
そりゃ、現実に流れもクソもないけどさぁ……。
「分からねぇのか? バカだなぁ、私だよ、私」
しかし目の前の中年男性は、初対面のはずだがナチュラルに俺をバカ呼ばわりしながら話かけてきた。
なんだこいつと思っていると、中年男性は聞き覚えのある魔法名を唱えた。
「≪擬態解除≫」
瞬間、中年男性の顔中が歪み始める。ピカーッと光るとかも特になく、グニャグニャと目の前で変形していく中年男性。
気持ち悪っ! うわ、気持ち悪い以外に表現が思いつかないくらい気持ち悪い! 死ぬ前に最後に見た光景がこれだったら嫌すぎる!
「この魔法の気持ち悪さは……まさか……レイなのか!?」
「そうだよ。てか魔法の気持ち悪さで気づくなよ」
少しだけ傷ついた様子で文句を言うのは、青い長髪の少女。そして、さっきまで中年男性だった人でもある。
「姿を自由に変えられるのか……?」
「ああ。しかもそこの化け猫みたいなちゃちな変装じゃねぇ。肉属性魔法だから体型や髪質まで変えられるぜ」
ちゃちな変装というにはリナの擬態は種族を越えまくってる気もするが……。でも確かに、リナは擬態解除しても体型や顔のフォルムとかまでは変わっていないようだった。
そんな高度な変装を、何のために? という疑問は、レイが自ら教えてくれた。
「クエスト中に司教だってばれたらすぐに回復させられるから、基本は変装してるんだよ。まったく、司教を医者と勘違いしてるやつが多すぎるぜ……」
回復をサボりたいからという、酷すぎる理由だった。
回復してやれよ、てか回復してくれよ。
「そんな物欲しそうな目をしなくても、ちゃんと治してやるよ。そのためにわざわざ変装解いたんだからな」
レイはわざとらしいため息をついて、俺に近づいてきた。
「毒程度で良かったな。ゾンビ化してたら流石にすぐには治せなかった」
言いながら、倒れている俺の両肩をむんずと掴んで、レイが俺の体を起こす。
意識が朦朧としている俺は、されるがままになっていた。
しかし、レイが次の行動を起こしたところで流石に叫んだ。
「なんで俺にとどめを刺そうとしてんの!?」
なんとレイは、瀕死の俺を立ち上がらせるや否や、俺の首すじに噛みついてきたのである!
痛い! ちょっと興奮するけど、やっぱり痛い!
「ゾンビにスケルトンに人喰い司教! 今回のクエストは敵が多すぎやしないか!?」
「人聞きの悪いことを言うなよ。治療中だ」
「どこが!?」
雑すぎる言い訳に突っ込むが、レイの声は真剣だった。
「解毒魔法は体中にまわった毒を出さなきゃいけないから、お前の体内に直接魔法を使わなきゃいけねぇんだよ」
「そういうことか……」
触るだけで解毒とか、そんなことは魔法でもできないらしい。
俺は首の動脈から血をドパドパ流しながら、何も知らずに文句を言ったことを反省した。
レイのお陰だろうけど、よくこれで死なないな俺。
「オッケー、終わったぞ。解毒してる余裕はもうなさそうだから、これからは気を付けろよ」
「有り難うレイ、マジで助かった……」
体が嘘のように楽になったので、俺は感謝しながらようやく辺りを見回した。リナとロップが俺を守ってくれていた分ちゃんと活躍しなければ、と、焦りながら状況確認。
そこでようやく、ゾンビの数は大分減っているのにスケルトンの数は殆ど減っていないことに気がついた。
「なんでみんな、スケルトンとなるべく戦わないようにしてるんだ……?」
「それは多分……報酬のせいでやす」
報酬? 俺は首を傾げながら、ロップに言葉の続きを促した。
「今回のクエストは、ゾンビの殲滅が目的のクエストでやす……。なので危険を犯してスケルトンを倒しても、報酬は手に入らず手元に残るのは人骨のみ……」
うわ、確かにいらねぇ!
でもスケルトンを生み出してしまったのは俺達の責任だ。たとえ毒が危険でも、ちゃんと倒さなければ。
「ニャ、ニャア……。じゃああれも、そういうことかニャ……?」
決意を新にしていると、恐る恐るといった様子でリナが遠くを指指した。
前線がある方角だ。そちらを向くと、見慣れない大きなシルエットが見えた。
「あれは……ドラゴンゾンビでやすか!?」
そのシルエットを見て、非力なロップは泣きそうな表情で叫んだ。
ドラゴンゾンビもゾンビの内。どんなに強力だろうと、今回のクエストでは討伐報酬が他のゾンビと同じだけしか払われない。
どうやら前線の冒険者達はそれを理解していたため、ドラゴンゾンビを倒すことなくスルーしたようだ。そして、ドラゴンゾンビはただでさえ囲まれている俺達の方へと向かってきている……。
異界の最強魔獣、ドラゴン。
俺は初めて、それと相見えようとしていた。
討伐報酬は2万ゴールド。
日本円にして、たったの2万円……!!!
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