第33話 対ゾンビ兵器

 ゾンビが迫り来る中、俺のやることは単純だった。


「≪拡大魔方陣≫!」


 これからどんな状況に陥ってもそれなりに対処できるように、地面に大きく魔方陣を張る。それだけだ。


 魔方陣を広げる速度は、訓練次第で速くなる。≪拡大魔方陣≫をよく使う俺は速い方だが、予め大きくしておくに越したことはない。


「うおおおお! ゾンビの集団、すごい迫力でやす! これどう考えても商人が戦っていい相手じゃないでやす! うおおおお!」


 一方ロップは、意外ときびきびした動きでこっちに向かってくるゾンビを見ながら興奮気味に叫んでいた。

 多分、商人の危機察知メーターが振りきって、冷静でいられなくなったのだろう。


「ロップ! 作戦通りアイテムを使ってくれ!」


 魔方陣を広げながら、動揺しているロップに声をかける。もしゾンビに襲われた時のためにアイテムを用意してもらっていたのだが、この調子だと忘れてそうである。


「あ、そうでやした! ていやー!」


 案の定忘れていたロップは、変な掛け声とともに鞄からアイテムを取り出した。


 俺が自費で購入した、対ゾンビ専用アイテム。その名も……。


「うーじーむーしー!」


 ポンコツロボットが秘密道具を見せつける時のようなテンションでロップが叫んだ通り、俺が購入したのは蛆虫セットである。

 ロップが取り出したこの前の火炎放射器みたいな筒の中には、異世界風のが大量に入っていた。諸々の都合により、描写は省略する。


 ロップ曰く超強力な希少蛆虫らしいので、ゾンビの肉を高速で食べてくれるはず、とのことだ。

 どうやってこれを集めたのか知りたい気もするが、ろくな答えが帰ってこないと確信できるので気にしないことにした。

 

「蛆虫砲、発射でやす!」


 筒の発射口をゾンビたちに向けながら、ロップが引き金をひいた。

 すると勢いよく中身が……そう、中身がゾンビ達に襲いかかった。三割くらい地面にこぼれているのが気になるが、再び描写を省略する。


 ファンタジーな蛆虫にたかられたゾンビ達は、その身に纏った腐肉をみるみる内に溶かしていった。

 肉を失ったゾンビ達は、急激に動きを鈍らせる。ただでさえ無理やり動かしていたはずの筋肉が減れば、そりゃそうなるだろう。


「コウタの旦那! そろそろ弾切れ……じゃない、蛆虫切れでやす!」

「言い直さんでいい! 弾が切れるまでは撃ち続けてくれ!」


 ロップのお陰で、こちらに向かっていた三つの群れの内、一つはほぼ壊滅に追い込むことができた。後は二つだけ。かなり安心感が出てきた。


 持っていける量に限度がありはするが、やはり色々な商品を取り揃えてくれるロップは心強い。


「近接型は残った二方向に集中! 遠隔型は今弱らせた群れの残党を狩りつつ、余裕があれば近接型の援護をしてくれ!」


 俺は皆に指示を出しつつ、魔方陣が広がりきったので次の準備に入った。


「≪土の双壁ツインウォール≫! ≪土の双璧≫! ≪土の双璧≫! ≪支援魔法強化≫!」


 土属性魔法を防御にばかり使っていた俺は、今や一つの魔法枠で二つの土の壁を作ることができるようになっていた。

 さりげなく≪土の双璧≫という新魔法を開発したことになる訳だが、要は誰も開発しようとしないくらい微妙な魔法だということなので、あまり自慢にならない。


 五つの魔法枠内、三つを使って六つの壁を生成。一つはどんな状況にも対応できるように温存し、残り一つで起動に時間のかかる持続魔法を発動しておいた。


「ゾンビの群れ、来るぞ! 抜剣!」


 俺の叫び声に反応して、六つの壁に囲まれながら冒険者達が各々の武器を構える。相手の攻撃を受けないように、それぞれ壁と壁の間から攻撃を加えていった。


「≪硬化≫! ≪隆槍≫! ≪硬化≫! ≪土の壁≫!」


 俺も魔法枠が回復し次第、ろくに種類のない魔法を使いまくった。


 崩れそうな土の壁を硬くしたり、相手の隙を突いて≪隆槍≫で攻撃したり、その隆槍も固くして攻撃力を高めたり。そしてゾンビが大量に押し寄せてきたところは新たな土の壁で塞いで、冒険者のゾンビ化を防いでいった。


 土を作る必要がないからこそできる、属性魔法の大盤振る舞い。魔方陣を維持するために動けはしないが、それでもかなり戦闘に貢献することができた。


「ニャ! コウタが役に立ってる……!? もしかしてゾンビに噛まれちゃったのかニャ!?」

「俺が役に立ってるだけで、ゾンビ化を疑わないでくれない!?」


 ダンジョン以来一緒に戦うのは初めてなので、リナは俺の成長が信じられないようだ。

 確かにリナがいた頃は常に地面に倒れてたイメージあるけど、流石にゾンビ化した方が強かったなんてことはない……と思いたい。


「やっぱり土属性魔法は、クソなんかじゃないんだよ!」


 テンションが上がって、俺は壁近くで応戦しているリナに大声で叫ぶ。


 ――その瞬間だった。


 俺の背中から、覚えのあるグサッという音が聞こえたのは。


「ま、また……?」


 本当に、調子にのるとすぐこれだ。慣れたもので、俺は血を吐きながらも振り向いて、状況確認に努めた。


 そして見た。


 ダボダボと腐肉を纏ったゾンビではない、細身の何かが俺の真後ろに立っているのを。


「骸……骨……!?」


 どうやら、俺の背中には動く骸骨の手が、深々と突き刺さっているらしい……。

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