第32話 後方待機も楽じゃない
「暇ニャ」
「暇でやすね……」
前線で逃したゾンビを撃退するため、という名目で待機し続けている俺達は、圧倒的な暇にさらされていた。
道連れに後方待機させられた他の戦士系冒険者達は、俺を恨みがましい目で睨んでいる。今回のクエストも完全出来高制なので、報酬がなくなることを危惧しているのだ。
かといってリーダーに逆らったことを誰かに告発されたら軍法会議ものなので、皆黙って俺を睨んでいるわけだ。
なんでギルドに軍法会議があるのか、なんて突っ込んじゃいけない。今更だ。
「皆、気を緩めるなよ! ゾンビの群れは進路が予測できてるけど、増えたゾンビは違う方向から来るかもしれないし!」
リーダーの威厳を保つため、一応リーダーっぽいことを言っておく。
前線が小さくしか見えないところまで後退しているのでまずゾンビに襲われることはないのだが、こうでも言わないといつ他の冒険者に刺されるか分かったものじゃないからだ。
仲間に殺されるとか、この世界だとたまにあるから気が抜けない。でも、ゾンビと戦うよりは死の危険が少ないだろう。多分。きっと。
「ニャ、あそこを見るニャ! 本当に来たニャ!」
突然、近くからリナの甲高い声が響いた。
敵と戦ってもないのに緊張感マックスだった俺は、リナの叫び声にすぐに反応する。
「うわっ、マジか!」
遠すぎて米粒のようにしか見えないが、罠を張っていたのとは違う方向から、ゾンビたちがこっちに向かって来ていた。しかも、同時に三方向からやって来ている。
あらゆる方向にゾンビが同時発生するのも、そいつらが同時にこちらを襲ってくるのも、普通ならあり得ない。
ゾンビは脳まで腐っているため、魔王がいくら入れ知恵したところで戦略的な動きなどできないはずだからだ。ということは……。
「もしかして、俺がリーダーだから……?」
運命的に、俺が絶体絶命になるためにこうなったのか……?
「それもかなりありそうでやすけど……。流石に、コウタの旦那がリーダーというだけでここまで変則的な動きをするとは思いやせん。他に理由がありそうでやすが……」
「なんにしても、倒さなきゃいけないよな……」
原因を考えている場合ではない。俺は咄嗟に指示をして、ゾンビの襲来に備えた。
「囲まれたら厄介だから、なるべく後退! 少しでも遠隔攻撃出来る人が優先的に後退して、近接攻撃しかできない人はゆっくり追随して!」
前線からこちらに来るゾンビもいるかもしれないし、前線からはなるべく離れなければいけない。
しかしこうも敵との距離が離れていると、こっちが移動しても軌道修正されて、後退した先で三方向から囲まれる可能性がある。
そうなるとこれ以上後退したら街に危険が及ぶ死守ラインにまで後退せざるを得なくなるので、近接型と間接型を二分し、近接型の方に敵を引き付ける作戦にした。
この陣形ならば近接型が囲まれても、外からなんとか対処できる。
果たして、俺達は近接型ばかりを集めた舞台なので後退できる人は少なく、ゾンビ達はそちらを見向きもせずに近接型ばかりを狙って向かってきた。作戦通りにいって安心する。
「リナも遠隔型なんだから、ちょっと後退した方が良いんじゃないのか?」
ゾンビ達の動向を確認してから、未だに俺の傍らにいるリナに声をかけた。
予想外にも、リナは首を振る。
「言ったニャ? 私が君を守るって。だからずっと側にいるニャ。そもそも、今は遠隔攻撃できないしニャ」
「え、出来ないってなんで?」
リナは前線に残らないために弓を草むらの陰に落として、さも近接型ですみたいな顔をして俺のところへと来ていた。しかし弓がないとは言え、風魔法があれば遠隔型として機能するはずだ。
俺が疑問に思っていると、リナがとんでもない告白をしてきた。
「ああ、私が風属性魔法に適性があるっていうの、あれは嘘ニャ」
「ええ!?」
嘘だとぉ!? どういうことだ!?
「スライム戦では風魔法使ってたじゃん?」
「そうニャ。つまり、私は風属性魔法はいくつか覚えてるけど、魔力を風に変換できないから周りが無風だと使えないのニャ」
マジか! だからダンジョンで、頑なに風魔法を使おうとしなかったのか!
一体、どうしてそんな嘘を……。
「鋼属性って可愛くないから、もう少し可愛い属性使ってたら友達出来るかなって思ったのニャ」
「そんな理由で!?」
動機が悲しすぎる!
「火属性だと近寄りがたいし、水属性も近寄りがたいし、土属性はクソだし、これはもう風属性しかない! ってニャ」
「クソって言うなよ!」
土属性だって、頑張ってるんだぞ! 健気で可愛いやつなんだぞ!
「ま、そんなわけで……」
言いながら、リナが魔法で鋼の双剣を生み出した。
「私は剣技も伊達じゃないって、見せてやるニャ!」
自信ありげに微笑み、リナが流し目で俺を見る。心強い……心強いけど……。
双剣を生み出せる弓兵も、どっかの誰かとキャラ被ってんなと思わずにはいられない俺なのであった。
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