第30話 はじめてのそうしき

「え、俺がリーダー……ですか!?」

「ああ、今回の強制クエスト。リーダーに相応しいのはお前しかいねぇ」


 今日の朝も新しいクエスト用紙を楽しみにしながらギルドに向かうと、係員に呼びつけられた。


 しかも今回は、参加者に選ばれただけではなくリーダーに選ばれたようだ。


「マジですか! やります!」

「え……? お、おう。まぁ、やりたくなくてもやらせるけどな」


 俺がテンション高く叫ぶと、勢いに圧されたように係員が動揺しながら頷いた。


 生前から班長とかリーダーとか小さな権力にも無縁だったから、テンションが上がるのは仕方がないのだ。


「まぁ、そんなわけで葬式はこっちで準備してやるから。大々的に、パーッとやろうな!」

「はい! ……って、え? 葬式?」


 係員から飛び出した謎の単語に、俺は首を傾げる。

 しかし、係員は俺の困惑を無視するように、言った。


「ああ、お前の葬式だ。リーダーになる奴の特権で、ギルドが葬式を準備してやるんだよ。強制クエストは明日だから今日の午後を予定してるけど……大丈夫だよな?」

「何も大丈夫じゃない!!」


 そう、俺はテンションが上がりすぎて、リーダー絶対死亡の法則を忘れていたのだった……。






「それ、マジで言ってるのニャ……?」


 俺がリーダーに言われたことをリナとロップに告げると、二人とも表情を硬直させた。


 俺達は酒場のようになっている宿屋のラウンジで話していたため、沈黙を埋めるように他の兵士……じゃない、冒険者達の喧騒が響き渡る。


「その反応、やっぱこれって、相当まずい状況?」

「相当なんてもんじゃないニャ。クエストのリーダーになって生還できた兵士なんて、本当に数えるほどしか……。最近では≪不可侵全裸フルチンアーマメント≫くらいのものニャ……」

「誰だよ!! ていうか何だよその二つ名!」


 ろっくでもねぇ!


 リナが前のようにこのナイス街にいる状況は嬉しくてたまらないのだが、それでも乱暴に突っ込まずにはいられなかった。


「見てりゃ分かるけど、リーダーがバタバタ死ぬのはやっぱ偶然でもジンクスでもないんだな……」

「そうニャ。運命学でも説明できる、れっきとした法則なのニャ。いわゆる『近似的に因果律が一定』、ニャ」

「いや知らないけど……」


 さすが魔法のある異世界。運命とか因果律までも学問の対象なのか。


 そして、学問的に俺の死はほぼ確実だ、と。なんてこった。


「それにしても、どうして俺がリーダーに……」

「手頃だったからじゃないでやすか?」


 俺の疑問に、ロップが答える。


 手頃ってワードからろくでもない話なのが凄く分かるから、めっちゃ聞きたくないんだけど……。俺の視線をどう受け取ったのか、ロップがそのまま話し始める。


「強すぎる人をリーダーにすると、良い人材が減ってしまう。かといって弱い人をリーダーにすると避雷針として役に立たないし、新人も育たない……」


 損得に敏いロップらしい分析に、俺は納得した。


 なーるほどね。俺は優良な避雷針か。なーるほどね。

 …………この野郎!


「それを踏まえると、この二週間でかなり成長しながらも、将来にはさほど期待できない……成長が頭打ちな感じのするコウタの旦那に白羽の矢が立つのも当然で……」

「やめろ! それ以上冷静な分析をするな!!」


 解説することに一生懸命になって、俺への気遣いを完全に忘れていた。


 俺の突っ込みにロップはハッとなり、言い訳を始める。


「大丈夫でやすよ! コウタの旦那は凄いでやすよ! ワンダフル! 見てたら分かりやす! えーっと、……ワンダフル!」


 褒めるところが全く見つからないのか、ロップがさっきの分析とは全然違う、適当な賛辞を送ってくる。


 リナが帰ってきてからロップは何故か、また俺をコウタの旦那と呼ぶようになっていた。

 二人っきりの時もそうなのでよそよそしく感じていたが、焦った時は俺への態度も前と同じで、少し安心する。


「えー、マジで……? マジで死ぬしかない流れなのこれ……?」


 全く現実感が湧かなくていまいち危機感を抱けないが、これはまずそうだ。


「だ、大丈夫ニャ。私が君を、なんとしてでも死なせはしないニャ。そのクエストには呼ばれてないけど、参加するニャ!」

「あっしも頑張るでやす。お得意様に死なれたら、あっし、今のプチ贅沢な生活を維持できないでやすから……」


 呆けていた俺を、リナとロップが元気付けてくれる。

 ロップはプチ贅沢のために助けてくれるらしいが、まぁ有り難い。


「レイもいれば、心強いんだけどニャ……」


 リナが呟くが、俺もロップも無反応だった。

 リナがこの街に戻ってきてからもレイをクエストに誘ったことはあるのだが、相変わらず俺への興味は失われたままらしく、相手にしてもらえなかった。


 まぁ出来ないことは仕方がない。クエストが始まるまでの間、出来るだけ準備をして、クエストに挑むしかないのだ……。






「みんな、俺の葬式に来てくれて有り難う! 用意してくれたお墓も立派で、嬉しいです!」

「華々しく散るんだぞー!」

「コウタ(故)! コウタ(故)! コウタ(故)!」


 そして今日の葬式は、ギルドの係員やその他役員を交え、大々的にパーッと行われたのであった。


 ……絶対に、死なないぞ!!

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