第25話 体はラノベでできていた

 ロップが逃げ、レイは回復に専念し、残るは狙撃が得意なリナと支援魔法しか使えない俺のみ。


 厳しい状況ではあるが、相手も狙撃型な上に重症を負っているので未だにこちらは優勢のはず……と思っていたら。


「≪魔方陣同調≫、≪領域支配エンペラー≫」


 ダンジョン賊は新たな魔法を使った瞬間、俺達に背を向けて逃げ出した。


「逃がさないニャッ!」


 すかさずリナが矢をつがえ、ダンジョン賊に向かって放つ。

 瞬間、それは地面から涌き出た水流に飲み込まれた。


「なんだあれ……」

「見るニャ、地面に魔方陣が出来てる!」


 魔法は、体にある魔孔か、魔方陣からしか出すことは出来ない。

 だから地面から水が沸き出すとしたら魔法ではないだろうと思っていたが、リナに言われて見てみると、確かに地面に魔方陣が描かれていた。


「いつの間に……!」


 魔方陣は、単純に魔孔の直径を広げる≪拡大魔方陣≫と設置できる≪設置魔方陣≫、そして作るまでに時間がかかるがどこにでも作り出せる≪遠隔魔方陣≫が基本だ。


 となるとこの魔方陣は、撤退することを見越して≪設置魔方陣≫を張っていたということだろうか……?


「多分、さっきの≪領域支配≫とかいう魔法の効果ニャ」

「なんだって?」

「見るニャ、地面の魔方陣は、一つだけじゃないニャ」


 リナが指を指す方向を見ると、確かに魔方陣はダンジョン賊の足跡であるかのように、彼の足から連なっていた。その全てから水が吹き出している。


「さっきの≪領域支配≫って魔法は、歩いた場所に魔方陣を設置できる持続魔法なんだろうニャ。≪魔方陣同調≫は自分の魔方陣全てから同じ魔法を出す持続魔法ニャから、全ての魔方陣から水が吹き出てるのニャ」


 成る程。それは使いやすそうな魔法だが……。


「でも持続魔法はともかく、全ての魔方陣から水流を出すのは凄く魔力を消費するよな……?」

「そのはずニャ」


 俺の質問に、リナが頷いた。

 もうダンジョン賊を追えないと思ってか、凄くリラックスしている。


「今が……攻め時なんじゃないか……?」

「ニャ……?」


 俺の呟きを聞いて、リナが怪訝そうな顔を作った。


「≪領域支配≫と≪魔方陣同調≫と≪水転換≫と水流を出す魔法……。あいつの魔法枠が平均通り5つなら4つも埋まってて、逃げながらはまともな反撃は出来ないはずだ。しかも魔力は残り少ない」

「そうニャけど……君はレイをここに置いていくつもりかニャ?」


 リナの目が鋭くなる。

 怒ってるようだが、俺としても引き下がれなかった。


「レイを危険に晒したのは悪いと思ってる。だから、その埋め合わせにあいつを倒すって言ってるんだ」

「あいつを倒しても何の埋め合わせにもならないニャ。そもそも……」


 リナが語気を強めた。


「本当に悪いと思ってるニャ?」

「……!」


 残念ながら、すぐには言葉が返せなかった。その隙を、リナは見逃さない。


「君は多分、自分の失敗をなかったことにしたいだけニャ。違う活躍で塗り潰そうと思ってるだけニャ」

「そんなことは……!」

「また、ラノベ主人公になるためかニャ?」


 俺の反論を聞き入れようともせず、リナが俺の思っていることを言い当てた。


 そうだ、ラノベ主人公なら、こんなところで仲間の足を引っ張っていられない。


「そういうところが現実を見ていないって言ってるニャ。自分の都合の良い世界だけを見てる……。私が人間じゃないってことも、君は忘れようとしてたニャ」

「違う! ただ気を使って話題に出さなかっただけで!」


 反論してから、しまったと思う。

 気を使っていたなんて、本人を前に言う話じゃない。


 それに確かに、俺はリナが人間でないということについて、深く考えないようにしていた。


「気を使ってくれてたのは、ありがとうニャ。でも、流石に今回は付き合ってられニャい。私はレイと残るニャ」

「ああ、分かった。じゃあ、俺一人だけで行ってくる……。あの重症なら、まだ遠くへは行ってないはずだ……」


 リナに突き放すように言われて、俺はすごすごとダンジョン賊が走っていった方へと向かった。

 流石に、ここでリナに言いくるめられて逃げ帰るわけにはいかなかったのだ。


 俺は、ラノベ主人公だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る