第24話 司教の戦い
司教がどうやって戦うのかと不思議に思った瞬間、ダンジョン賊が先程と同じように攻撃を仕掛けてきた。
さっきは油断していたから見えなかったが、今度はしっかりと、ダンジョン賊のポケットから水流が噴射したのが見えた。
小さい穴から出た水が扇状に広がりつつ、レイに迫る。
そして、普通にレイの腕が千切られた。
「あれっ!?」
自信有りげに前に出たわりには速攻で腕を持ってかれましたけど!? と、俺は後ろからレイの表情を窺う。
しかし相変わらずの笑顔だ。
「こんなに満足げな顔で……。立派に生き遂げたな……」
「いや死んでねぇから」
多分笑ったまま死んでしまったのだろうと思ったが、普通に声が返ってきた。
じゃあ、今の笑顔は空元気か……?
もう一度レイの状況を確認して、俺は納得した。
彼女の腕は、完全に回復していたのだ。
「持続魔法
ニヤリと口元を歪めながら、レイが言った。
なにそれ凄い!
しかもレイは俺と同じく腕一本なくしても動揺したりはせず、どころかより好戦的にダンジョン賊に殴りかかった。
「ちっ」
回復力の高い相手に対して奇襲などという悠長な手は打ってられないと悟ったか、ダンジョン賊はポケットから腕を出す。
その両手には、軍っぽい丸みのある水筒が握られていた。ダンジョンスターターセットにも入ってたやつだ、お揃い!
「≪
ダンジョン賊が魔法名を呟くと、両方の水筒から水が放射状に噴き出した。
レイの回復が追い付かないように、何ヵ所にもダメージを与えるつもりだろう。
しかしレイはどれだけ攻撃を受けても瞬時に回復していく。
「そんなもんか? じゃあこっちからいくぜ、≪
レイが司教らしくない魔法名を叫ぶと、指の付け根、中手骨骨頭の間から赤い針が飛び出た。どうやら血を針状に固めたもののようだ。
自然治癒力持ちで手から武器を出すとか、どっかのミュータントを思い出しちゃうんですが!
俺のデジャヴも関係なしに、レイは皮膚から飛び出たそれを、躊躇なくダンジョン賊の右の横腹と左の肩回りへと突き刺した。
ダンジョン賊がそれを警戒したタイミングで、また別の場所から血の針を出して翻弄する。
「なかなかやるな、だが、まだだっ! ≪
ダンジョン賊が叫ぶと、バックステップで後退した。そして魔力を水に転換させて、水筒の中の凶器を補充する。
攻撃手段に水筒を使うことで、水の作り置きが出来るようにしているのが強い。攻撃する時に水を作らなくて良い分、魔法枠が節約できるからだ。
この調子で相手の狙撃が止まらなければ、レイも攻めきれないか……と思ったが。
「≪拡大魔方陣≫、≪
レイが新たな魔法を使うと、ダンジョン賊が苦しんだ。
「≪過剰回復≫は、相手の怪我を必要以上に修復する魔法だ。血小板は集まりまくり、血管は縮まりまくり、肉は怪我どころか血管まで塞ぐ」
つまり、とレイが笑った。
「相手が少しでも怪我をしていれば絶大な威力を誇る魔法だな。あくまで回復魔法だから、相手の魔法抵抗力も殆ど働かない」
え、えげつねぇ……!
RPGで僧侶や神官が即死魔法を使うのが謎だったけど、まさかこんな危険な過程で即死させてたのだろうか。正体を知りたくなかった。
肩回りと横腹の肉が異様に膨れ上がったダンジョン賊はよろめき、顔を青くしてより後ずさる。
「援護するニャ!」
リナも負けじと、弓を使ってダンジョン賊に追撃を与えた。多分オーバーキル。
どう考えてもダンジョン内だと弓より魔法の方が使い勝手が良さそうだが、魔力の節約なのか弓で倒すのが好みなのか。
後者な気がするからこのヒロイン怖い。
「よし、じゃあ俺も! ≪支援魔法強化≫、≪硬化≫!」
流石に突っ立ってる訳にもいかないので、俺も魔法でレイをサポートした……つもりだったが。
「おいっ、馬鹿っ……!」
どうやら魔法が効きすぎたようで、レイが動けなくなった。
しかもレイの血が硬化された肌を貫通できなくなり、新たな針を増やせない。
「ごめん、今戻す!」
俺が支援魔法を解除すると、そのタイミングを見計らってダンジョン賊がレイに攻撃を加えた。
レイが隙をさらしていた間に狙いを定めていたようで、心臓や腹など、ダメージが通りやすい場所を的確に攻撃していく。
「うっ……!」
流石のレイも瞬時に回復は出来ない。地面に胸を押さえて倒れ込んだ。
「ごめん、俺のせいで……!」
予想以上に自分の支援魔法は強力だったようだ。自分の能力を把握できていなかったせいで、レイを危険に晒してしまった。
「残るは、二人……」
ボソリと、ダンジョン賊が呟く。
こちらを警戒してこそいるが、その目は獲物を狙う肉食動物のように爛々と輝いていた。
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