第13話 勇敢なるかなリーダー
ガル大森林の前までつくと、リーダーから指示があった。
大まかな指示は街の中でされているが、細かい指示は作戦地点の状況を見てからリーダーが即決して伝えることになっているらしい。
確かに街から距離のあるフィールドでは想定外の天候だったり、予想していなかったモンスターが居座ってたりもあるだろうから合理的だ。
しかし今回は想定外のことは起こっていないようで、リーダーの指示は再確認に近かった。
曰く、この森林の中では索敵魔法が正常に発動せず、目標のケンタウロスは目で探すしかない。
しかし集団で移動していると遠距離攻撃が出来るケンタウロスの格好の的になってしまうので、いくつかの部隊に分かれて潜伏しつつ発見し次第各個撃破すべし、とのこと。
敵に見つかった場合は配布された閃光弾を打ち上げて場所を知らせるようにとも言っていた。
「潜伏ねぇ……」
外側から件のガル大森林を見てみる。
大森林と言うだけあって大木がうっそうと生い茂り、内側は一切見通せないほど暗い。
確かに潜伏にはこれ以上ない適所に思えるが、逆に言えば敵も見つけづらいわけだし、こんなところで敵に見つからないようにひっそりと行動するとか怖すぎる。
近寄る前に見つかったら最後、遠距離から矢で射られ、反撃もままならぬまま死に至るだろう。相変わらず無駄にハードだ。
「帰りたい……」
ゆとり世代の俺から、思わずそんな呟きが漏れてしまうのも無理からぬことだった。
「人類の勝利にも関わる大事な作戦って言ったの誰ニャ……」
リナは無駄に記憶力が良かった。猫のくせに。
リナの突っ込みに俺がふてくされていると、何の前触れもなく森の中から矢が飛んできて、リーダーの頭を撃ち抜いた。
狙われづらい場所で結界も張りつつ作戦の指示を行っていたのだが、今の矢は結界も打ち破る特別製の矢だったようだ。
俺が驚きを隠せない中、仲間の男性が一人、みんなの前に歩み出た。
「リーダー戦死! 以後、指揮はサブリーダーの私が務める!」
「「「イエッサー!」」」
「えええええ!?」
メンバー全員、まるでリーダーの死などなかったかのように、平然とサブリーダーの次の台詞を待っている。
なんだこの無駄に疾走感のある展開は!
突っ込みどころが多すぎて、俺はただ叫ぶことしか出来なかった。
「どうしたニャ?」
俺の様子を見て、リナが不思議そうに首を傾げる。
「いやいやいや、どうしたニャじゃなくて、こんなあっさりリーダー死んだのに無反応ってどういうことだよ! せめて驚くとか焦るとかあるだろう!」
いやそれ以前に、と俺は言葉を続ける。
「リーダーが遠くから撃たれたんだし、ここにいたらみんな撃たれちゃうんじゃないの!? 早く撤退しようぜ!?」
俺にしては珍しく真っ当なことを言ったはずだが、しかしリナは小馬鹿にするように鼻をならした。
「リーダーが死ぬのは宿命みたいなものだから、気にしない方がいいニャ」
「えぇ!? なんだそれ!?」
叫んでもリナは意に介さず、淡々と説明を重ねる。
「モンスターはどいつもこいつも知能が高いから、古来からリーダーは集中砲火されるものだったのニャ。でもそんな状況が続いていく内に、リーダーに選ばれた人間は因果律さえもねじ曲げて、「クエスト中に死ぬ」という結果が宿命づけられた存在になってしまったようだニャ。実際、この場所にいてケンタウロスの矢が人に命中する確率なんて、本来ならほぼゼロと言っても過言ではないのニャ」
意味が分かんねぇ!
なにそれ? 冗談なのか本当なのか、それとも単なるジンクスなのか、判断にも反応にも困るんだけど!
でも確かに、スライム戦でもリーダーあっさり死んでたなぁ……。
「ちなみに、あまりにもリーダーが死ぬもんだから、最近は能力の低い奴が率先してリーダーに選ばれてるニャ。真のリーダーはサブリーダーなのニャ」
「なんだよその本末転倒!!」
というかそんなことしてるからリーダーが死ぬんじゃねぇのか。
俺達が話してる間に、サブリーダーが再び作戦指示を始めた。本当だ、さっきのリーダーの指示よりも分かりやすい!
リーダー戦死ルールはかなりのカルチャーショックだが、それだけこの世界では死が当たり前だということなのかもしれない。
こういうところに関しては、異世界だからと割り切るしかないのだろうか。
聞けばリーダーも単なる生け贄ポジションではなくて、リーダーになった上でクエストを生き残ったら英雄になれるというジンクスがあるらしいから、そこだけは安心だ。
こっちはあくまでジンクスだとリナは断言していたが。
俺は内心で結構なショックを感じながらも顔には出さず、日本人らしくみんなに同調してリーダーの死をやりすごした。
「では、これから部隊分けを行いまーす!」
作戦指示の後は部隊分けが行われたが、それは「みなさん好きな人とグループを作りましょう」みたいな軽いノリだった。
大事なところはゆるいな。これケンタウロス見つけても戦力的に仕留められない部隊とかできたらどうするつもりなんだろう……。
自己責任なんだろうな、この世界……。
もちろん友達のいない俺とリナは同じ部隊……じゃない、グループを組み、二人だけの少数精鋭グループと相成った。
「わ、私だって友達いないわけじゃないニャ? 本当ニャ?」
リナがなんか言っているが、涙目である。やはり異世界に来てまでこういう辛さを味わいたくなかったな。
まぁ、一人とはいえメンバーがいるのは俺にとっては素晴らしい幸運だし、それがリナのような可愛い女の子なので現実より断然幸福なのだが。
あれ? やっぱり最高じゃないか異世界!
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