第12話 クエスト地点への移動も疲れる

 ギルドから新しい強制クエストが発表され、俺とリナはその参加者として指名された。


 正直、この前のスライム戦で痛い目見たので当分はクエストを受けたくなかったのだが、強制クエストとあっては仕方がない。

 それにそろそろ上納金を納めなければいけない時期だ。


「内蔵は嫌だ内蔵は嫌だ……」


 毎日の食費、宿代、魔法学校の入学費、回復アイテムの料金、竹の槍のレンタル料、捨てた鍋のふたの弁償代。

 異様に項目の多い経費をを差し引くとスライム戦の報酬では上納金に足りず、このままでは内臓で払うことになってしまう。


 だからどちらにしてもそろそろクエストに行かなきゃいけないんだけど。


「行きたくねぇ……。クエスト行きたくねぇ……」

「完全に弱気になってるニャ……」


 クエスト用紙に目を輝かせていた頃の俺は、この前のスライム戦で死んでしまったようだ。

 今は魔法の授業をたくさん受けて、魔法の先生になるビジョンすら見えてる。戦いたくねぇー。


「ま、まぁ、今回はスライムじゃないから、少なくとも生贄にされることはないニャ!」


 今回のクエスト内容は、ケンタウロス五体の討伐だった。


 ケンタウロスというのは下半身が馬で上半身は人間という見た目の神話上の生き物だが、この世界では人馬型魔獣のことをケンタウロスと呼ぶらしい。


 魔獣でこそあるものの人間の見た目に近いぶん知能は高く、その攻撃手段は主に弓である。

 街から少し離れたところにガル大森林と呼ばれる森林があり、そこに生息しているそうだ。


「ケンタウロスか……。確かに見てみたいけどね……」

「うん、行くニャ行くニャ! てか、行かないと違約金むしりとられるニャ!」


 そうなんだよなぁ……。

 仕方なく俺は重い腰を上げて、そのクエストに参加することになった。


 リナの話によれば、ガル大森林は街から遠いため、そこに生息している魔獣が街に入ってくることは少ないそうだ。

 しかし遠くにいる魔獣が街に攻め込む際の中継地点として使われているので、早急な攻略が求められているらしい。


 もちろん一朝一夕で攻略できるような場所ではないのだが、今回は攻略の足がかりとしてケンタウロスの討伐クエストが発生したのだとか。


 クエストの名前は「ガル大森林ゲリラ強襲作戦」。

 やはり、俺の思っていた「クエスト」とはなんか違う気がする。確かに冒険者ギルドと言うよりは軍隊のようだ。


「とはいえ、軍隊でも目的地まで徒歩では行かないだろうけどなぁ・・・・・・!」

「その、「とはいえ」から台詞始めるのやめてくれないかニャ? 怖いんニャけど」


 俺達は今、街から少し遠いというガル大森林を目指して行軍している。

 万年引きこもり高校生だった俺が、背中に竹槍背負って歩いてるのだ。正直かなり疲れが貯まっており、愚痴が漏れるのも仕方がないと言えた。


 その呟きを、リナが低い声で非難してくる。

 いやいや、ラノベでは地の文に台詞を続けるのとか常識だから。それをいちいち突っ込んでたら話が成立しないし、地の文を推測できない奴が悪いまである。


「なんか今、君が意味分からないことを考えてた気がするニャ」


 そうそう。その調子で地の文を推測していくんだよ、やれば出来るじゃん。

 じゃ、リナの練習も兼ねて当分頭の中だけで喋るから、頑張ってね。


 ともかく、俺たちは作戦が・・・・・・違う、クエストが行われるガル大森林へと、徒歩で向かっていた。


 もちろん俺は馬に乗れるわけじゃないので皆だけ馬で先行したりするよりはマシなのだが、やはりゆとり世代としては、遠くに行くならせめて馬車欲しかったなぁと思ってしまう。


「最悪ニャ。作戦中に馬車で移動とかなめてんのかニャ?」

「リナ、それもう読心術の域に達してないかい?」


 なんか俺のせいで変な技術に目覚めてしまったらしい。読心系ヒロインって人気でづらいから、なんか悪いことしちゃったなぁ。


「なめてるっていうけどね、実際徒歩での移動はきついよこれ・・・・・・。体力なくなったら作戦行動にも支障が出るでしょ、ちょっと休憩入れようぜ」

「いや、これくらいの移動じゃ君以外誰も疲れないと思うニャ・・・・・・」


 リナが相変わらずの呆れ顔で答える。

 もちろん呆れ顔にさせているのは俺だけども、リナは呆れ顔も可愛いので決して反省はしない。むしろ増長するのが俺だ。


「本当にそうか? もちろん俺みたいにクタクタになる奴はいないだろうけど、だからこそ感じられない疲れが蓄積されてると思わないか」

「そんなこといって、コウタが休憩したいだけニャ?」

「もちろん俺は休憩したい。だけどそれは本当に俺だけだって確信できる? 休憩したいけど作戦の邪魔をしないように我慢している奴がいるかもしれない。それにたとえ感じられなくても、疲れは疲れだ。咄嗟の判断が鈍ったりとか、なんかもろもろ、不都合があるかもしれないぞ」


 最後の具体例は思いつかずにグダグダな台詞になったが、勢いとラノベ風説得術だけで語っていく。

 リナも若干、気圧されているようだ。よし、次でとどめをさす!


「今回の作戦は街の防衛、ひいては人類の勝利にも関わる大事な作戦だ。その成功が、休憩するか否かという些細な判断にかかっている。君にその重責が背負いきれるのか? 背負いきれないだろう!!」

「わ、分かったわよ! みんなに休憩させれば良いんでしょ!」


 俺がむりやり大きくした話に対し、リナはいつもの語尾も忘れて叫ぶように言い捨た。そしてリナが行列の先頭へと向かいリーダーに休憩するよう頼む。


 リーダーもしぶしぶながら了承したようで、メンバー全体に号令をかける。

 その直後、リナが振り向いて遠くからこちらを睨んできた。不本意なことをさせられたから怒っているようだ。


 勝った。

 ヒロインの好感度を犠牲に、休憩時間を勝ち取ったどー!!

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