第9話 持続魔法の適正

 俺とリナが歓談・・・・・・だと思いたい話をしている内に、教室に先生が入ってきた。

 60代後半くらいの穏やかそうなおじいさんで、その体は目に見えるほどに帯電していた。


「なんでやねん」


 物理的にピリピリしている先生を見ても教室のみんなが平然としているので、俺は小声で、弱気の突っ込みを敢行する。突っ込みは主人公の義務だからこの状況下でも怠らないが。

 そんな俺を見かねてか、リナが補足の説明をしてくれた。


「『教える魔法を発動しながら教室に現れる先生』は魔法学校の名物ニャ。突っ込みたい気持ちは分かるけど、いちいち突っ込んでたら身が持たないニャ?」

「良かった、リナも突っ込みたくはあるんだな・・・・・・。みんな平然としてるからちょっと怖かったんだよ・・・・・・」


 突っ込みたくてもみんなが平然としてると突っ込み辛い日本人の心理。そもそも俺ほど突っ込みたがる奴はいないだろうけど。


「はい、皆さんこんにちは。持続魔法体系を担当する、リ・・・・・・ゴホッ・・・ガハッ・・・先生です。よろしくねー」

「その帯電魔法、絶対体に支障をきたしてるだろっ!!」


 突っ込んでもいいことが判明したので、今度は相手が先生でも臆さず、大声かつタメ口で突っ込んだ。

 よし、ラノベ主人公っぽい!


 先生の体を跳ね回る青白い電気は、喋っている先生の口にちょくちょく入っていた。

 帯電というよりは放電、放電というよりは電気の攻撃を受けているだけのように見えてきてしまう。


「いえいえ。こ、この魔法は健康にきっ・・・・・・効く、持続まほっ・・・・・・ええい、鬱陶しい!」


 先生が突然ぶち切れて、発動していた持続魔法を解除した。

 そんなことになるなら魔法使わず入ってくりゃ良いのに・・・・・・という顔を、見える限りの生徒がしている。俺も多分していた。


「はい、今回は持続魔法体系と言うことでね、今みたいな役に立つ持続魔法を教えられればと思います。もちろん持続魔法全般についての話なのでいきなり強力な魔法を覚えられたりはしないでしょうがね、魔法習得の足がかりになれば幸いです」


 今の一幕で一気に持続魔法が役に立つとか信じられなくなっちゃったけど、何にしても初授業である。大事にしよう。


「でね、判定結果を全部教えてたら時間がなくなっちゃうのでね。皆さん既に持っている持続魔法や適性があると分かっている持続魔法があれば、紙に書いといて下さいね。そこにのっていないものがあれば教えますので」


 そういえばリナはさっき、自分に合った魔法の判定結果は、判定する先生の専門によって異なると言っていた。

 既に言われたことのある魔法はわざわざ教えないということだろう。


 教室の生徒全員に紙が配られ、みんながそれに記入していく。

 もちろん俺は判定も習得もしていないので無記入だ。隣のリナはたくさん魔法の名前を書いていた。

 生徒達が紙を書き終えると、先生が教壇から降りながら口を開いた。


「はい、皆さんが何やらカリカリ書いてる間に、判定が終わりましたー。紙に書いてないものがあれば言っていきますねー」


 何やらカリカリ書いてる間にって、お前が書けって言ったんじゃねぇかよ!

 ・・・・・・という突っ込みは流石に進行の邪魔になりそうなので心にとどめておく。ラノベ主人公は、有事の際には地の文で突っ込みを済ませても良いのだ。


 それにしても判定というのは意外とあっさりしてるな。

 精密な検査をするのかと思っていたが、この大人数を一気に判定する魔法があるのだろう。予想より早く俺の魔法適性が聞けそうで、有りがたい。


 ・・・・・・などと思っていたら、判定の早さなんかよりもっと驚くべきことが起きた。

 先生の体が風船のように膨らんでいき、それが一気に破裂したのだ。


「うおっ!?」


 もしかしてさっきの発言が気に障った生徒にでも爆破されたのか? と思ったが、そうではないようだ。

 破裂した先生の欠片全てに先生の顔があり、そのことから察するに、分身魔法ならぬ分裂魔法を使ったらしい。


 一人ずつ判定結果を言っていては時間がかかるから、分裂して一気に教えようということか。それは分かったけど。


「先生の欠片がフワフワとこっち向かってくるの、怖すぎる!」


 破裂した先生は教室の大気中をさまよい、生徒それぞれのところに向かっていく。

 ファンタジーチックと表現できないこともないが、それらが全て先生の肉の色をしてるのが怖い。もう少しマシな分裂方法はなかったのか。


 机周りに先生の肉片がやってきたときは、気持ち悪くて思わず潰しそうになった。


「では判定結果を伝えますねぇ」


 俺が内心ビビってるのにもお構いなく先生の欠片が喋り始める。仕方がないので、俺もラノベ主人公らしい切り替えの速さで魔法へと意識を移した。

 初めての魔法適正判定ということで、自然と期待が高まるな。


「お、白紙ですか。あなたは適正判定初めてですかね。となると発表しなければいけない魔法がたくさんありますねぇ」

「お、おお・・・・・・!」


 先生の欠片が何故か本体よりもダンディな声で、嬉しいことを言ってくる。

 シビアな異世界なので「お前に適正のある魔法はない」と言われることまで懸念していたから、たくさんあるというのは素直に嬉しい。


 ここか? ここで俺のチートな能力が明かされるのか!?


「では、まずは一つ目、《毒の体》。攻撃してきた相手を、一定の確率で毒状態にする」

「なにその『厄介な雑魚敵』って感じの能力!!」


 なんかRPGで、二つ目のダンジョンとかに出てくるモンスターがこういう特性を持ってそう! すごく地味だし、そもそも攻撃されること前提の能力ってどうなの!


「はい、二つ目。《メタル系》」


 メタル系?

 防御力が上がるとかそういう感じだろうか?

 だとしたらなかなか役に立ちそうな魔法だが・・・・・・。


「効果は、倒されたときに相手に与える経験値が倍増」

「なんだそりゃ!」


 メタル系ってそういうことかよ!

 倒したときの経験値が上がるわけでもなく、倒されたときの経験値が上がるって・・・・・・これまたやられるのが前提の能力だ。


 しかもこの世界にはレベルの概念がないはずなので、経験値が上がるというのは俺を倒したという経験の印象が濃くなるとか、そんな感じなのだろう。

 確かに忘れられるよりはマシだけど! 俺を倒した相手に塩を送るような魔法、いつ使うんだよ!


 はぁ・・・・・・二つ目にして脳内突っ込み疲れたわ・・・・・・。歴代のラノベ主人公達は、こんなに大変なことをやっていたんだな・・・・・・。改めて尊敬するぜ・・・・・・。


 三つ目以降も、《ぬるぬるな体》・《触手耐性》・《椎間板ヘルニア》など、使えそうもない魔法ばっかりだった。椎間板ヘルニアは魔法じゃないだろ。

 もう駄目か・・・・・・と絶望していると、先生が「次で最後です」と言って一つの魔法を発表した。


「最後の一つは《支援魔法強化》ですね。支援魔法を自分以外に対して使った場合に、効果が跳ね上がります。しかも相当適性があるのか、使いこなせれば効果が二倍か三倍かになりますね」


 先生が「嬉しかろう」みたいな声音で言ってくるけど、やっぱ地味だなそれ・・・・・・ラノベ主人公みたいな派手さに欠ける魔法だ。

 まぁこれまで言われた魔法よりは使えそうだから習得はするけど・・・・・・。


 俺の後にも判定結果の発表は続き、リナは新しく《射程距離延長》に適性があることが分かった。俺とヒロインの格差がでかすぎる。

 皆に判定結果を伝え終わると、先生の欠片が教卓の方へととんでいき、ようやく人の体に戻った。


「では適正判定も終えたことですし、さっそく講義に移ります」


 先生が穏やかに宣言した。

 魔法の授業ってどんな感じか想像もつかないから、すっげぇ楽しみだ! やっぱりファンタジーチックなのだろうか!


 期待を込めて見つめていると、先生が言葉を続けた。


「今回の授業はグループワークですので、五人組を作って下さい」


 それは呪いの呪文だった。

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