第10話 グループワークvsリナ
グループワーク。それは、生前ぼっちだった俺にとっては、聞くだけで怒りを覚える単語だった。
悲しみでなく、怒りだ。誰かが傷つくことも考えず、そんな言葉を平然と口にする者への怒り。俺は体中の血が沸騰するような感覚を覚えた。
「凄いニャ……魔力が体から溢れてる……。君は魔法を使う前から、魔力の操り方をマスターしたのニャ?」
いつの間にか俺から魔力とやらが溢れ出していたらしく、リナが感嘆する。
でもごめん。多分、怒りで魔力が暴走してるだけだ。
しかしリナが声をかけてくれたことで、俺の怒りが多少は収まった。
そうだ、俺は今、一人じゃないんだ!
スライムから助けられた時よりも強い安心感が、俺を包んだ。
「ご、ごめんリナ……。俺はこの学校初めてだから、グループワーク誘えそうな人とか分からなくて……。ちょっと人数集めるの頼んでも大丈夫かい?」
そして、平気でリナを犠牲にした。
ごめんよホント! グループワークって言葉聞いてから、ラノベ主人公っぽく振る舞える気がしないんだ!
「ニャ!? ま、まぁ良いニャ。君はこの学校、初めてだもんニャ。ニャン、私が人数を集めてみせるニャ!」
俺が頼み込むと、何故かリナが動揺しながら頷いた。両目に異様な覚悟が宿ってるけど、どうしたんだ一体?
首をかしげながら見ていると、リナがカクカクとぎこちない動きで教室の席を立った。
そして、人が少なく固まっているところへと向かう。
「ニャ、ニャア。私ともう一人いるんニャけど、一緒にグループワークしないかニャ……?」
「あ、ごめーん。もう四人集まってるから、二人はムリー」
いつもの半分くらいの声量で、リナが頼むのが聞こえた。即座に断られる。
「じゃ、じゃあ、私だけでも入れてニャ!」
「あ、あー……。ごめーん、もう一人も当てがあるから、他をあたってくれるー?」
「わ、分かったニャ……。あ、ありがとニャ……」
ちょっとだけ声を大きくして粘るも、すげなく断られた。
というかちょっと待て! 今、俺を見捨てようとしてたよな!?
もしかして……と思って見てると、リナが他の集団へと向かった。
「ニャ、ニャア。グループに入れてニャ」
「ごめん」
「ありがとニャ」
また断られた。
そして、話を聞いてくれて有難うという意味だと思うが、リナはまた感謝で応えていた。
こ、こいつ、俺にも引けをとらないぼっちだぁぁぁぁぁ!
頼み方も断られた時の反応も、あまりにもぼっち臭が溢れてる!
断られた時に思わず有り難うって言っちゃう気持ち、ぼっちじゃないと分からないから! 断った方も困惑しちゃうからやめたげて!!
すごすごとこちらに向かってくるリナを見ながら、俺は涙を堪えていた。
「ニャ、ニャハハー。ごめんニャ、人、集められなかったニャ……」
「いい、いいんだよリナ! 無理をしなくて良いんだよ!」
「ニャア……」
リナが目を潤ませながら、頷いた。
これまでぼっちな感じがしなかったのは、俺があからさまに格下だから緊張してなかっただけだったのかもしれない。悲しすぎる。
まあ俺も、異世界来るまでは女の子にタメ口聞いたことさえなかったし、似たようなもんだけど……。
猫耳少女は活発で人付き合いが上手なイメージあったのに、それもラノベの中だけの話のようだ。
俺は無性に悲しい気持ちになって――そこで一つの仮説に思い至ってしまう。
「な、なあ。もしかして、リナの語尾が微妙に不自然なのって……」
「そりゃ、作ってるからに決まってるじゃん。普通、誰もニャなんて語尾つけないよ」
「リナが普通の言葉を喋った!!」
衝撃的すぎる!!
猫耳少女がぼっち克服のため意識的に語尾をキャラ付けしてるとか、そんなとこまでシビアなのかこの世界は!
てか! それがぼっちを助長してるんじゃないのか!?
「はぁ……体の改造までしたのに、一向にぼっちニャア……」
「猫耳と尻尾まで作り物かよ!!」
こいつ本当はメインヒロインじゃないんじゃないのか!?
突っ込みすぎで目眩を覚えそうだ。
今思えば、魔法学校の入学証をバックにずっと忍ばせていたのは、ギルドの回し者だからでなく単に友達増やしたかったからなのかもしれない。それはそれで怖いけど。
まぁ、こうなっては仕方ない……。俺がやってもこうなるだろうし、五人でやるグループワークを二人でやろう……。
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