第6話 スライムの倒し方

 スライムから助けてくれた猫耳少女が、地面に倒れていた俺に近づいてきた。


 両手に保温性の高そうなフカフカの長手袋を嵌めているのに、着ているのは薄手の亜麻色タンクトップで、下に穿いているのも青いショートパンツ。

 目的の全く見えないバランスの悪い組み合わせだけど、二の腕と両脚の肌色がまぶしい!


 俺は表皮の溶けた自分の脚を見ないようにしながら、竹槍を支えになんとか立ち上がった。ちなみに、どう考えても槍と併用が出来ないので、鍋のふたは街で捨ててきた。


「ぐ、ぐぅぅぅ!」


 立つだけで痛みが走ったが、ギリギリ右脚もまだ使えるようだ。俺を襲ったスライムは消化機能の弱い子供だったのかもしれない。


 向かい合うと、猫耳少女が眉尻を下げながら口を開いた。


「完全に見捨てられて、可愛そうだったニャア。せめて君が放置プレイ好きであることを祈るニャ」


 なんか祈られた。


 いや、放置プレイ好きだとしても俺の逃走を阻害してきたのは完全にアウトだろ! 好きじゃないし!

 それにあなたも、俺がスライムに食われた時に加勢せず傍観してた内の一人ですよね……?


 叫びたかったが、彼女は命の恩人なので流石に批判は出来ず、俺はもどかしい気持ちでただただ猫耳少女を見つめていた。


 すると俺の言いたいことを察したのか、同い年くらいだと思われる猫耳少女が、少し微笑む。


「君、本当にスライムの生態を知らないのニャア……。いきなり突っ込んでいくから勝算でもあるのかと思ったら、普通にやられてるから麻薬中毒者なのかと思ってたニャ」


 また薬中だと疑われた……!

 そこまで俺ってヤバい奴なのか……?


 気になったが、それよりも今はスライムの生態とやらの方が大事だろう。


「スライムの生態って……?」

「スライムはニャ、基本的にあらゆる攻撃を無効化するのニャ。切れないし潰れないし燃えない。まぁ無敵ニャ」


 マジか!

 強いとは思っていたが、そこまでとは……!


「じゃあなんで君は倒せたんだ?」


 ラノベ主人公に憧れている俺は、それっぽい口調で質問した。

 猫耳少女が答えてくれる。


「あいつはニャ、人を消化して、血が体内を循環してるときだけ防御魔法に力を割けなくて攻撃が通じるようになるのニャ。だからスライム戦のセオリーは、仲間同士で戦って、敗れたものが食われている間に一斉攻撃なのニャ」


 なんだその悲しすぎるバトルロワイヤルは……!

 仁義がないにも程がある戦いだった。


 でもそうか、俺に吸い付いてるスライムはまだ攻撃できる状況になってなかったから、皆は俺に近づいてほしくなかったのか。つまり生贄というわけだ。


「スライムに狙われて死ぬかどうかは当たりどころ次第だからニャ。君は運が良かったニャ」

「そうだとしても、君が見捨てないでいてくれたから助かった! 有り難う……!」


 やっと事の全容が分かって、俺は素直に感謝できた。

 最近は女の子に助けられて出会うラノベも多いし、きっと彼女はメインヒロインに違いない!


「でも、あれ……? それはスライムを一体だけなぶり殺した理由にはならないよね……?」

「まぁニャ」


 猫耳少女が無表情で言った。

 やっぱりただの戦闘狂かよ!


「ま、まぁ、助けてくれたことには変わりない……。このお礼はいつか必ずするぜ! 期待しててくれよな!」


 ラノベ主人公らしく、大事なところでは威勢の良いことを言った。


 しかし、何故か猫耳少女の反応は芳しくない。


「ニャア……。ビシッと決めてるところ言っていいのか迷うけど、気づいてないようだから言っておくニャ……。君、下がビッチョビチョになってるニャ……」

「えっ」


 指摘されて、顔を下に向ける。

 すると俺の股間の辺りに黒い染みが出来ているのが見えた。

 スライムとの戦闘中、気づかない内に失禁していたらしい。


「うおっ! よし死のう!」

「無駄に決断はっええニャア……」


 恥ずかしさで死にそうになった俺に、猫耳少女が呟く。


 だって! メインヒロインに会えたと思った瞬間これだもの! そりゃ死ぬしかないよ次の異世界転生に希望を託すよ!


「しっかたないニャア……。乾かしてやるニャ、≪風車ピンウィール≫」

「ちょっと待ってそれさっきスライムを即死させた魔法だよね!?」


 猫耳少女が俺の股間に右手の平を向けるので、俺は股間を手で隠しながら全力で叫んだ。

 股間に攻撃魔法撃ち込もうとしないでよ!!!


「チッ、うるせぇ奴だニャ!」

「これは仕方ないよな!?」


 メインヒロインにうるせぇ奴と言われてちょっと傷ついたけど、流石に理不尽だろ!


 そんなことを思っていると、不意に彼女が右手をこちらに伸ばしてきた。

 フカフカの手袋に覆われたその手が、俺の股間を掴む。


「えっ!?」

「いくニャ、≪高速発熱ブレイズ≫」

「あっつううううう!」


 突如として熱くなる少女の右手と、俺の股間。

 嘘だろ!? 会って数分で股間を加熱してくるメインヒロインって……嘘だろ!?


「はー、きったねぇニャア……」

「ならやらなければ良いじゃん!」


 ぼやいた猫耳少女に、俺は全力で突っ込んだ。

 

 痛さと恥ずかしさでもう死にそうだ……。

 でも、女の子に股間を掴まれたのだと思うとちょっと興奮してしまう自分もいた。

 大丈夫か俺……。


「いや、流石に放置は出来ないニャ。だって股間が濡れてる人と一緒に歩くの、流石に嫌ニャ?」


 俺が怒りと興奮を同時に覚えていると、猫耳少女はそんなことを言ってきた。


 え。それって、ギルドに俺と一緒に帰る前提だってこと……?


 どうやって一緒に帰ろうかと算段を立てていた俺は、彼女の言葉で無性に嬉しくなって、怒りを忘れた。

 俺は生前、同世代の女の子と一緒に歩いたことなんて一回もなかったのである。


 猫耳少女が、俺に右手を差しのべてくる。

 今度は股間ではなく、目の前の空間に延びていた。


「私はリナ。よろしくニャ」


 握手だ。この異世界にも、握手の文化があるらしい。

 これもまた、生前にはした記憶がないことだった。


「俺はコウタ。よ、よろしく」


 ちょっとどもりながら自己紹介して、彼女の右手を手袋越しに握った。


 ちょっとベチャッとしてる。

 きたねぇ。

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