一つの小さな誓い
それは沈黙だった。
僕は大きな色黒のおっさんと向かい合わせでパンを食べていた。
甚大な食糧難を危惧し、他には何も食べず、おっさんは一口一口女々しくパンを口に運んでいた。
なんとも重い空気の中、打破すべく口を開く。
1番気になるのはやはりあの火事のことだ。
「おっさん料理出来ないんだな」
朝日かも夕日かも分からない陽射しの中、静寂に響いたのは僕も意図しない言葉であった。
「ああ、実はもうかれこれ35年も母ちゃんの世話になってるからな、仕方ないんだ」
そう言って無くなりそうなパンからむしる一口が、ドンドン小さくなっている。
35〜40歳が結婚する確率は5%にも満たないというが、おっさんは高身長だし、ガタイが良いから受けは良さそうなのに相手がいないらしい。
高身長過ぎてハゲていても見えないが、そこも大丈夫だろう。
よっぽと性格が悪いか、不器用か、奥手か。
「どんな人がタイプなんですか?」
おっさんへの申し訳なさが出て口調がかしこまってしまった。
けれども気にしない様子で「美人で、高身長で、鍛えていて、愛想がよくて、笑顔が素敵で、相手を立てれて…」
今までの空気が嘘の様にペラペラと話し出す。
こうはなっちゃいけないんだなと、小さく心に刻む事にした。
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