第7話 波乱の予感

「僕の事をどうしてそこまで買ってるのか、教えてくれない?」

「あの時、お前の中に光るものを感じた。それだけだ」

「たったそれだけの理由で僕と戦いたいって?正気?」

「いたって正気だ。無駄話はここまでだ。刀の抜け。手加減はいらん。末妹がいらぬ事を吹き込んだだろうが捨ておけ」

「僕は手加減できるほど強くないってのに」


 最初から全力で行かないとすぐに殺される。

 始めは逃げに徹して――


「――つまらん闘いはなしだぞ?」

「! ――『風身鳥かざみどり』!!」

「斬った……が、風に押されて刃が逸れたか。面白い」


 危なかった!

 選択を間違えてたら確実に腕一本落とされてた。

 速い。速過ぎる。人間を超えてる!


「分からんか?なら、分かりやすくしてやろう」

「……まさか、雷?」

「そうだ。俺は雷のように素早く動ける。だから――」

「また――っ!?」

「正解だ。今のを受けていれば死んでただろう」


 元の位置には剣が振り下ろされてた。

 地面は黒コゲ。あんなものを受けたらあっという間に感電死だ。


「さて、種明かしはここまでだ。ここからは本気だ」

「冗談キツイよ!『風飃避鎧ふうひょうひがい』」

「守ってばかりでは勝てんぞ!!」



 結論から言っちゃえば、防戦一方だよ!!

 こっちは手数で勝負するのが基本なのに、その攻撃が当たらないんじゃどうしようもないじゃないか!

 

 影も風も、火や水や土だって速過ぎて当たらないし。

 対して、向こうの攻撃は一撃でこっちを殺せるほどヤバいし。

 どうしろって言うんだよ!

 こちとら逃げるので必死なんだ! 反撃なんてしたらどんな手痛い仕返しが待ってることやら。痛いで済めばマシな方か。


 一歩動けばすぐに身体の正面から斬りかかって来る。

 背後からじゃないのは、彼の単なる矜持ゆえにでしかないんだろうね。

 真っ向から力と速さで押してくるのは僕が最も苦手にする闘い方なんだよー!

 


「ここまで躱されるとは。やはり、俺の見る目は間違ってなかったようだ」


 なんで嬉しそうに笑みを浮かべてんのー!!

 こっちは死に物狂いなんだけど!!

 楽しくないんだけどっ!!!


「俺の一撃を紙一重で躱す。それは並大抵の精神力では不可能だ。まだまだ楽しめそうだな」


 こっちはもう手一杯だっての!

 策……何か策を考えないと………ジャックみたいに色んな手段があれば、もう少し余裕があっただろうなぁ…………それか!



「なんだ、ようやく反撃してくるか?」

「逃げてばかりじゃ勝てないからね! 『風人分身』」

「手数を増やすか」

「『風刃竜鎧』」

「守りを固めたということは……」

「『韋駄天・谷渡り』」

「っ!」


 風でありったけの強化をして突貫!


「面白いが、少々単純すぎるな!」


 喰らえば即死か、よくて致命傷の一撃。

 だけど、当たらなければ脅威じゃない!


「――なるほど!」


 まずは一撃!


「だが、まだ甘いな」


 分身三人と僕の、四人同時に四方から刃が迫っているにもかかわらず、避ける素振りを見せない。これも矜持?いや、何かあるはず………これはっ!!


 危なかった! 僕はギリギリ間に合ったけど、分身たちが……



「よく気付いたな。気付かなければ分身どもと同じように焼け死んでいたぞ」


 気付いたのは奇跡だった。

 刃が触れる直前、電気が走ったのを見逃さなかったから。

 その代償として、無理な体勢からの強引な離脱をしたから体に違和感がある。


「いいな。判断力と思考力がある。それから、異能に頼らない身体能力の高さに、俺と同等の高度な制御力。戦うために人生を捧げてきた者として、敬意を払おう」

「……随分と強烈な皮肉だね」

「謙遜するか」


 まともな判断力があったらそもそも挑まない。

 思考力があったらもっと効果的な作戦を練るよ。

 身体能力は必要だったから身につけただけだし、制御力も必要だったから。

 僕は闘うためじゃなくて、暗殺するために磨いてきたんだ。

 

「一緒にしないでほしいね。僕は武人じゃない、暗殺者だ」

「だが、それでも敬意は払おう。誰であれ、技術を磨くのは生半可なことではない。お前はそれだけの存在ということだ」


 ………油断してくれたらどれだけ楽だったか。

 身長が低くて見た目が女の子っぽいから油断してくれる相手がほとんどだったのに、ジャックもこいつも、なんで強い奴は油断してくれないのかなぁ……。


「ふっ……策を潰されてもまだ諦めていない。それどころか、強者との闘いの最中で進化しようとしている。お前もまた、根っからの武人だ」


 風だけじゃ足りない。

 一撃浴びせるにはあの雷をどうにかしないと……


「こっちからも行くぞ!」

「っ!! 『風人分身』!」

「そんなもの、壁にもならんぞ!」


 なんとしてでも距離を取らないと――あれ?


「!?……何をした?」

「さあ……僕にも分からないよ」


 今、分身を斬った後に雷が消えてた。

 一撃ごとに纏わせてるわけじゃなさそうだし――……無風。いや、真空?


「何か思いついたか?」

「君に一太刀入れるための策が浮かんだかもしれない」

「面白い。やってみろ」


 相手が油断してる今しかない。

 この瞬間に、僕の全てを賭ける!!


「『風人分身』」

「さっきと同じだな。数は六つと増えたが、その程度でどうなる」

「まだまだ。『振空刃』」

「準備は出来たか?」

「いくよ……『神風手裏剣』!!」


 手裏剣で一度雷を遮ってから、分身をぶつける!


「目眩ましにもならないぞ!」


 彼が剣を払った後が唯一の隙だ。

 そこに分身をぶつけて――


「ここだ。『葉波斬り』」

「っ!」


 この隙間が唯一の勝利の道筋!!

 斬った――!?


「いい攻撃だった。確かに、今の一撃にもう少し力があったなら、俺に致命傷を与えられただろう。だが、足りなかった。あと一押しが。それが敗因だ」


 か、体が動かない……。

 右腕を押さえられてるだけなのに。


「残念だが、これで終わりだ。楽しませてもらったぞ」


 御姉様、力になれず申し訳ありませんでした。

 ジャック、ミルティナ。足手まといになってしまったみたいだ。

 僕の尻拭いをさせることになるけど許してほしい。


「苦しまずに殺してやろう」


 ああ……ここまでか。

 まだまだ旅がしたかったな………




「――御主人様を放してもらおうか!!」

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