第5話 第一王女 セリナ
「もうすぐ王国の首都だよ」
「結局、一度も襲撃して来ませんでしたね」
「――いや、来たぞ」
見渡すかぎり草原が広がっていたはずの街道を行く馬車の正面に、突如森が現れた。そして、それは瞬く間にジャック達の周囲も覆っていく。
「え!?こんなのさっきまでなかったけど」
「この魔力……」
「降りてきたらどうだ?」
「――ふふっ。あなたが魔王ね?そこの二人が御供といったところかしら」
「第一王女セリナ!」
「久しぶりね、ミルティナ。勇者の称号を授与したあの時以来かしら?随分とヤンチャしているみたいね?」
「…………」
ミルティナの視線がセリナを射抜く。
セリナはそれを意に介すこともなく、悠然とジャック達の前に降り立った。
「お前が最初の相手か?」
「ふふっ! まさか。私は案内役よ」
「案内役?」
「ええ。口で説明するのは面倒だから、さっさとしちゃいましょうか」
セリナが持っていた杖で地面を突くと、先程の森と同じように、地面から太いツタが現れて三人を引き離した。
「これは…!」
「兄様!」
ツタを斬って降り立ったジャックは、すぐに周囲を確認して状況を理解した。
周囲は高い植物で出来た壁。簡単に登れるような高さではなく、また、進む道は前後にしかない。
ジャック達が連れて来られたのは、迷路だった。
ティルとミルティナの位置を把握するため、捜索のための使い魔を出してすぐに、使い魔が両断されてしまった。
「……なるほどな。わざわざ一騎打ちの舞台を整えた、ということか」
「そうだ。ようやく、あの時の再戦が出来る」
「今度こそ確実に倒してやろう!!」
待っていた第三王子カナタは、ジャックの姿を発見すると同時に斬りかかった。
それを即座に魔法を展開してジャックは迎撃する。
二人の目にはもう、お互いしか見えていなかった。
※※※
「ジャックもミルティナも、近くにはいないか」
周囲を見回すティル。試しに壁となっている植物を切るも、すぐに再生。
溜め息を吐き、自分にできることは何もないと考えて歩き始める――も、すぐに大きな広場にたどり着いた。
そこには………
「まさか、ここで戦うことになるとはね」
「待ちに待った機会だ。ここには俺達二人だけ。邪魔者はいない。存分に殺し合うぞ!!」
「僕も負けるわけにはいかないからね!!」
そこには、第二王子ザドウェルが地面に剣を突き立てた状態で待っていた。
前回と同じく、軽装にやや大きめの両刃剣のみ。
その目には闘志と、これから始まる死闘への期待が宿っていた。
※※※
降り立ったミルティナの前に悠然と佇むセリナ。身に纏うのはドレスのみ。
その表情には余裕が感じられた。
「私の最初の相手は貴女ですか」
「ちょっと違うわ。少し、様子を見に来ただけよ。私が相手をするに値するかどうか、小手調べにね?」
「今ここで殺してあげます」
「ふふっ……そんなに殺気を漲らせて。ゾクゾクしちゃうわ」
一息で間合いを詰め、無造作に剣を薙ぎ払うも、斬ったのは木偶人形だった。
セリナは木偶人形と入れ替わり、生えていた大樹の枝に座っていた。
「貴女の魔法は、植物を操ることが出来るのね」
「ふふっ」
現れた無数の木偶人形を次々に斬る。
二体まとめて斬る。
近付いてきた五体を斬る。
一体斬るたびに一体が生えてくる。
無限に生えてくると察したミルティナは、風を纏った刃を振るって全てを斬り伏せた。
「こんなもの、私にとっては壁にすらならないわよ」
「でしょうね」
「……いつまでこんなくだらないことを続けさせる気?」
「そうね。もういいでしょう」
セリナが持っていた杖の先が光ると同時に地震が起き、その揺れに気を取られたせいで壁の変化に対応できず、ミルティナはセリナを見失ってしまった。
地震が終わったことを確認したミルティナは、先程の木偶人形が現れることもなかったため、変化した迷路の道を行った。
迷路の先にあったのは、大樹がある大きな広場だった。
そして、大樹の根元で待っていたのは―――
「迷路を変化させた……といったところですか。それで、貴女が本当の相手ということでよろしいですか?」
「――今度こそ決着をつける」
「兄様はいませんから、一切の容赦も手加減もなく地に伏せさせてあげます!」
互いの姿を目視したと同時に剣を抜き放ち、すぐに戦闘が始まった。
二人は自分たちを観察している存在など気にも留めなかった。
※※※
「愉快だっ! 貴様と思う存分戦えることがなぁ!!」
「俺はちっとも楽しくない! 戦闘民族のお前と一緒にするな!」
攻めたてるカナタと、ギリギリのところで攻撃を防ぐジャック。
カナタの斬撃で広場には無数の斬撃の跡が生まれているが、今のところジャックは無傷でしのいでいた。
「そうは言うが、口の端が上がっているぞ。お前も強者との戦いに楽しみを見出しているのだろう?」
「……そうだな。楽しみを見出してはいる。だが、戦いそのものが楽しいわけじゃない」
「それで十分!!」
興が乗ってきたカナタは、さらなる力を漲らせてジャックに襲い掛かる。
その右目は赤く染まっていた。
前回よりも増していた膂力に危機感を覚えたジャックはそれまでの余裕を捨て、自分の今ある全力を出そうと決意するのであった。
「ふふっ……さて、誰が最初に勝ち上がるかしら?」
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