幕間 ジャックの簡単解説 魔法編1
さて、ここで一度、この世界の魔法を紹介しよう。聴講者はラルカ、ミルティナ、フレイの三人だ。御馴染みだな。新鮮味はないがそこは諦めてくれ。
では、まず魔法とは何かだ。
魔法とは、この世界の人間ならばほとんどが持っている魔力を使って生み出される超常現象である。ただし、技術は必要だ。魔法を使おうと思ったら、まずは体内の魔力を活性化。次に、起こしたい現象を想像し、活性化した魔力を道具――一般的には杖――に流し込んで揮う。これが魔法使いの基本だ。感覚的なものであるため、適性が無ければ使えない者はどれだけ努力しても使えない。つまり、教える人間次第で優秀な才能を持つ人間が一生開花できずに人生を終えるなんてことはざらということだ。
さて、次はなぜ道具を使うのか。大きな理由は補助のためだ。補助として使う道具には杖、魔導書、指輪、宝珠がある。
初心者が使うのは魔導書だ。一枚の紙につき一つの簡易魔法陣が刻まれている。魔力を流せば魔法陣は起動するため、初心者が魔法を使うのにはうってつけだ。
次に杖。これはとある場所にのみ生えている特別な木の枝から作られており、杖そのものに魔力が宿っているとされている。
少し話が戻るが、魔導書がなぜ初心者向けなのかというと、魔法陣は二度までしか使用できない事、記述された魔法陣しか使えないため汎用的でないからだ。
そのため、数種類の魔法を会得した者は、次の段階として杖を触媒として数種類の魔法を扱えるように訓練する。
そして指輪。これは宝珠とそこまで差はないと言われている。実際にはかなり差が出たりするがな。指輪に嵌められている宝石が魔法発動の触媒として使われる。この宝石は貴重なため、持っている者は少ない。ただし、触媒としてはかなり優秀で、上級魔法の発動に使えるほどだ。
そして、宝石よりも一層貴重なのが宝珠だ。これは遺跡でのみ発見できるため、希少価値は桁違いだ。市場に出れば十人は余裕で一生を遊んで暮らせるほどの価値になるだろう。
じゃあ大きくない理由は何かと言えば、イメージの補完だ。と言ってもこの理由は杖にしか当てはまらない。杖の先に火を灯したり、指した場所に氷の礫を飛ばしたり、と基礎的な事を体験しながら学ぶために杖を使う。これが出来ると他の物でも応用できる。俺達ならば剣のようにな。
ここからは魔法の種類についてだ。魔法には攻撃魔法と補助魔法の二つに分類される。
補助魔法は、その名の通り使用者に様々な恩恵をもたらしたり、先に使ってみせた結界など、それ単体では攻撃性がない魔法のことだ。実は、補助魔法は意外と難度が高く、使用者の能力次第で大きく効果が変化する繊細なものだ。想像力がものを言う。それに加えて地味ということもあり、魔法を志す者は攻撃魔法にばかり固執する。
攻撃魔法は単純……なように見えて意外と奥が深い。同じ魔法でも、発動者の心情次第で微妙に変化するからだ。特殊な例ではあるが、過去に一度だけ見たことがあるのが、心が憎悪で満ちた者が生み出した炎が「黒炎」へと変化したことがあった。まだまだ検証が必要だが、攻撃魔法は使い手の心情次第で発動結果が変化することが分かっている。
ここからは俺やラルカが使っている、「詠唱破棄」「
この三つには実は明確な差がある。前者の「詠唱破棄」は使い慣れた魔法であること、そして中級魔法以下であることが条件だ。破棄するということはその魔法そのものをしっかりと理解出来ていなくてはならない。でなければ、そもそも破棄しても発動すら出来ない。破棄出来るということは、その魔法を手足の如く扱えることと同義だ。俺ならば指を揮うだけでいきなり炎の鳥を生み出せる。つまり、「詠唱破棄」と言っているが、実のところ詠唱も名称も省略する技術なのだ。ちょっと紛らわしいがな。
次に「名励」について。これは名称を呼ぶだけで魔法を発動できる、中級以上で活用する技術だ。弟子がヨルハにやってみせた、話すように魔法を発動するというのもここに含まれる。〈おすわり〉というやつだ。短文詠唱よりも短いが、詠唱破棄まではいかない。これが最も分かりやすい説明だろう。
先の戦闘でヨルハに対して使った『炎蝶』もこれに該当する。簡単な魔法のようだが、実は要素が多いため中級魔法なのだ。炎の塊、飛ぶ、蝶の形、爆発する。これはイメージしやすい魔法だからこそ「名励」出来るのだ。魔法を創る時は、イメージしやすい、というのは意外と重要だから忘れるな。
最後に「短文詠唱」。これは詠唱を切り詰める独特の技術で、才能次第では「名励」に限りなく近付けることが出来る。これはそれぞれの才能でどれくらい短くするのか、どこを省くのかが変わってくる。例としてはそうだな……
〈集う風 吹き荒れろ 天まで昇れ〉『暴風天領』
これを例にしよう。補助魔法ではあるのだが、攻撃魔法の要素を含んでいる特殊な魔法で、弟子には使えない。
この魔法は上級補助魔法に分類される。補助魔法の上級である「結界」は、上級攻撃魔法を習得しなければ扱えない。『暴風天領』は風の上級攻撃魔法「風帝」と、上級補助魔法「結界」を組み合わせて出来た魔法だ。
〈 四点に四天 鋼鎖で交叉 繋ぎて留めよ 〉『天四鋼陣』
こっちは……魔道具を使ったが、魔法陣は上級だ。光の上級攻撃魔法「残光」と「結界」を組み合わせている。「残光」ってのは、触れるモノを弾く光を作り出す魔法なんだが、一瞬だったら弾くだけで済むが一秒以上接触し続けると段々と消滅し始めるという性質を持っている、意外と強力な魔法だ。
話を戻そう。「短文詠唱」を使う理由は、戦闘において上級魔法を行使するためだ。強い魔法になるほど発生する事象の規模は大きくなり、それに伴い魔法の発動には繊細さと莫大な魔力が求められる。当然、詠唱は中級の三倍以上の量にまでなるものもある。そんなものを戦闘中に使おうと思ったら、厳重に警護してもらっているなか発動するか、限界まで切り詰めて可能な限り詠唱を短くするしかない。前者は軍に所属しない限りありえない状況だ。結果として詠唱を短くする技術が求められた。ただし、先程も言った通り繊細さを求められる。一秒縮めるのにも相当苦労するから、実際のところ上級魔法を使える人間はごく少数だけだ。
「兄様、質問です。誰かが短文にした上級魔法ならば、他の者にも扱えるようにはならないのですか?」
良い質問だ。少し前に「才能次第で」と言ったのを覚えているか?あと、心情によって魔法に変化が生じることも。つまり、同じ魔法であっても一人一人微妙に異なるものなんだ。だから、俺が短文にした魔法であっても、ミルティナやヨルハでも使えない。魔法はそれぞれの使用者の色に染まる、という認識を忘れちゃいけない。
「分かりました。……もう一つ質問ですが、兄妹でも無理ですか?」
兄妹でも、だ。リーンがいればもう少し説明がしやすいんだが、いない以上はしょうがない。人それぞれ魔法の適性が異なることは、魔法を学んだ人間なら常識として知っているはずだ。これは、兄妹でも違いが出るものなんだ。俺は苦手とする属性がないが、ミルティナは水系統が苦手だろう?確かに得意な魔法が似ることはあるが、細かく調べると兄妹であっても適性に差が出る。
だから、血の繋がりのある間柄であっても、魔法の共有は不可能なんだ。ただ例外として、双子に関してはそう言い切れない。さすがに、片方は火属性が得意で、もう片方は水属性が得意、なんてことであればあり得ないんだが、奇跡的に適性が一致した場合は共有も可能だろう。まだ例は少ないがな。
今日の講義はここまで。次回は「天体魔法」と「究極魔法」についてでも話すとしよう。復習を忘れるなよ?
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