第12話 話し合いという名の雑談
「さて、英気も養ったことだし、話し合いを再開しよう」
「――でも、何を話すの?」
後日集まった前日の面々。集まった場所は山頂の社。現在太陽が頂点にさしかかったところ。昼食を摂ってからの集合だった。
いざ話し合い!、というタイミングで始めから話の腰を折ったのラルカだった。
「出鼻を挫くな、バカタレ」
「――でも、ここにいる人達で何を話し合うの?」
「御姉様のこと!」
「王国軍ですね」
「王国そのものでは?」
ラルカの問いかけに、ティル、ミルティナ、サクラの順番で答えたが、同じことのようで微妙に異なるものだった。
「王国に対しては巫女神楽で話し合え。軍に関してはこの国の軍部に任せろ。俺達にとって目下重要なのはあのバカだ」
「っ! いよいよジャックも御姉様と結ばれる覚悟が決ま――」
「何か、言いました…?」
身を乗り出して興奮気味に話していたティルだったが、ミルティナに刃を向けられ、両手を上げて引き下がっていった。昨日の事もあってか、ミルティナを必要以上に恐れるようになったらしい。自業自得である。
各自の席の位置は、上座にサクラ、その左後ろにタチバナ。サクラの右にジャック。ジャックの右にミルティナ。サクラの左でジャックの正面にティル。ティルの左隣でミルティナの正面にラルカという配置だ。フレイはジャックの膝の上。
「ティルが大人しくなったから話を再開するぞ。俺達としては一刻も早くこの国を離れたい。だが、多少関わりのあるアイツも、少しだけ世話になったサクラたちのことも放っては置けない」
「――面倒事を避けてる」
「当然だ。誰が好き好んで面倒事に自ら首を突っ込むものか。今回は例外だ。些か不本意ではあるが、俺達も無関係ではなさそうだから手助けをする」
「私は兄様に従います」
「フレイも!」
「――弟子だから、不本意だけど手伝う」
「だそうだ。ただ、戦う前に聞きたいことがある。完全に忘れていたんだが……ティル、アイツはどうして国に帰ったんだ?」
「………すごく今更な事を聞いてきたね」
「どうでもよかったから忘れていたんだ。それで、理由は?」
ティルは一瞬迷うような素振りがあったが、これこそ今更秘密にすることでもないかと考え直して姿勢を正した。
「御姉様は、ジャック達の命と引き換えに王国に戻ることを強要されたんだ」
「……は?俺達の命と引き換え?」
「まあ、信じられないよね」
「――いつから狙われてた?」
「いや、御姉様が戻らなければ暗殺部隊を差し向けると言ってきたんだ。ジャックは言うに及ばず、ミルティナも腕は確かだから、こんな要求は斬って捨てても構わなかったんだけど……」
「……そういう事か。弟子を含め、非戦闘要員を巻き添えにした大規模攻撃を匂わせたのか。そうなると俺達でも守り切れないと判断して」
「うん……。だから、御姉様は戻ることを決意したんだ」
ティルの話を聞き、ラルカは顔を俯かせていた。ジャックは――憮然とした雰囲気を出していた。顔には出ていなかったが、手の動きが物語っていた。
「パパ…?」
「舐められたものだな。アイツにも、王国にも」
「ジャック…?」
「本気を出してもいないのに、実力を知った気になられること程気に入らないことはないな」
「――え?師匠、本気出してないの?」
「それはそうだろう。出したのは竜と戦った時の一瞬だけだ」
「あぁ……あの時か。そういえば、天体魔法って言ってたけど、カイゼルの時には使わなかったね。なぜだい?」
「決まってる。威力が高すぎるからだ」
「……もしかしてだけど、御姉様を倒せるくらいじゃないよね…?」
「さっき言っただろう?竜を殺せると。竜ほどに大きい獲物ならば丁度良い大きさだが、人間相手では過剰だ。だから普段は決して使わない」
「――師匠……まさか、使う気?」
ラルカの一言に、ジャックを除いて場は騒然となった。ミルティナは目を見開き、サクラとタチバナは口に手を当てながら唖然としていた。ティルはまさか、という表情でジャックを見つめていた。フレイは何となくジャックを膝上から見上げていた。
「状況によっては、魔法の実験がてら試し打ちをしようかとは考えている」
「王国に敵対することも辞さないのですか?」
「既に刃を向けられた。反撃する理由には十分だろう?」
「兄様、それはつまり、ヨルハさん諸共……」
「だ、ダメだよ! 御姉様を殺すなんて!!」
一同からの言葉に、ジャックは溜め息を吐きつつも応えた。
「状況によっては、と言っただろうが。一応、アイツの身柄の確保が最優先だ。一応な。それから先は状況によって変わる。この国の手に負えないなら俺が実験のために使わせてもらうし、問題ないなら俺達はさっさと下がって出国の準備でもさせてもらおう」
「――師匠、素直じゃない」
「……どこからそういう感想が出てくるんだ?」
「ジャックもいよいよ御姉様の魅力に気付いたんだな!?」
「では、私の愛剣の性能調査を先にさせていただいてもよろしいですか?」
「剣の性能を確かめる必要があるか。なら、俺も試すとしよう。実験は後回しだ」
ティルの発言を無視してミルティナに顔を向けるジャックであった。
サクラとタチバナはほっとしたのもつかの間、ミルティナとジャックの兄妹がヤル気満々であることを察し、どうしようかと密かに話し合っていた。ヒソヒソと話している内容は、防衛部隊をどうするかや、戦闘中に二人の行動を監視する役目を誰に任せるか、であった。二人の姿に、手出し無用とは言い出せなくなったようだ。
「それで、御姉様をどうやって捕まえるの?」
「まず周りにいる連中の排除だな。アイツ一人をどうにか誘導出来れば話は早い。俺が引き受けられるなら、魔法で拘束すれば済む。ミルティナが引き受けるなら、気絶させてくれればいい」
「うっかり加減を間違えて首を落としてしまうかもしれないですけど、よろしいですか?」
「うっかりなら仕方ないな」
「いや、ダメでしょ!! 身柄確保が最優先じゃないの!?」
「アイツさえいなくなればあとは実験の被検体にできるから、俺としてはどちらでもいいんだが?」
「兄様に纏わりつく害――虫ケ――邪魔者を排除する千載一遇の機会。逃す手はないでしょう?」
二人のあんまりな物言いに、ラルカは呆れた目で師匠を見ていた。サクラとタチバナは、あれー?という感じで三人のやりとりを眺めていた。ジャックは素直じゃないと思っていただけに、兄妹ともに冷淡な反応を返して、「あれ?私達何か勘違いしてる?」と二人で混乱していた。
「まあ、半分冗談は置いといて、俺達は他にも警戒しておく必要がある」
「――それは?」
「『ハウンド・ウルフ』と、俺達を狙う暗殺部隊。それらの排除も並行して行う必要があるだろう」
「ああ、言ってなかったね。暗殺部隊の名は『ロット・クロウ』。隊長は王国軍の少将だけど、構成員は全員傭兵。ありとあらゆる手段で暗殺する常識が無い集団だ」
「では、我々は一旦戻り巫女神楽を開きます。ジャック様とミルティナ様の御二人が戦場にて自由に行動できるように配慮させるつもりです。それから、今日より一月ほどこの都市の警備を強化いたします。以前よりも皆様の自由に行動できる範囲が狭くなってしまいますが御容赦を」
「こっちは色々と便宜を図ってくれているだけでも十分にありがたいんだ。これ以上望むことはない」
「いえ、手助けしていただいているのですから、これくらいの事では足りません」
ジャックはミルティナと顔を合わせた後、こっそりと溜め息を吐いた。サクラの配慮はありがたいのだが、必要以上に自分達に配慮してくれることに二人は居心地の悪さを覚えていたのだった。
話し合いが終わり、サクラとタチバナは揃って部屋をあとにした。
ジャックは一人腕を組んで考え込んでいたが、考えが行き詰ったのか、腕組を解いて顔を上げた。
「……ミルティナ、一つ確認したいことがある」
「なんですか?」
「さっきだが、アイツは聖剣を握っていたか?」
「…………いえ、覚えている限りでは違ったかと」
「やっぱりか」
「――何?何の話?」
フレイと魔法で戯れていたラルカが、こちらに顔を向けて訊ねてきた。直後にフレイが発動した初歩魔法の「風弾」が顔面に当たっておでこを押さえていた。当てたフレイは大変喜んでいる。
「アイツが持っていた聖剣が、もしかしたら王国にあるかもしれないって話だ」
「――人質?」
「人ではないがな。理由はわからん。だが、そうなると面倒事がまた一つ増えることになる」
「いっそ聖剣なんて捨てちゃえば?御姉様ならどんな剣でも扱えるしさ。わざわざ敵地に行く必要はないと思うよ」
ティルの発言にまた頭を悩ませるジャックとミルティナであった。
……ラルカがムキになってフレイと魔法の撃ち合いを始めたために中断せざるを得なくなってその日は更けていった。
「潜入成功だ。目標を発見次第始末しろ」
「最優先目標は『大巫女』『神皇』だ。次いで、『魔王』『二代目勇者』だ。いいな?」
『――了解』
ジャックたちのすぐそばまで脅威は迫っていた。
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