第七章

第1話 成長…?

 馬車に揺られながら神皇国へと戻って来たジャック達。

 そんな彼らを迎えようと、アズマ率いる神剣隊が門に集まっていた。

 彼らだけでなく、見覚えのある者達も立っていた。ハナやタチバナといった巫女の面々である。


「わざわざ出迎えてくれたのか。お前達は暇なのか?」


 会って早々のジャックの皮肉に、アズマ以外の全員の顔が凍りつく。

 しかし、気にせず再会を喜ぶアズマは空気をぶち壊してジャックに話しかける。

 


「はっはっは! 貴殿らがかの国を引き受けてくれたおかげで、我々は手持無沙汰になったのだ」

「平和だな。サクラに話がある。今すぐに会うことはできるか?」

「サクラ様はすでに御待ちしております」

「じゃあ、早速案内してくれるか?」

「あっ……は、はい。わかり…ました。ど、どうぞこちらへ」


 あんなにハキハキと話していたタチバナが、今日は珍しく歯切れが悪いというか、迷っているように見受けられるな。


「歯切れが悪いな。何か都合の悪い事でも起こっているのか?」

「そっ!――こほん。そんなことはございません。ええ、ありませんとも。都合の悪い事ではなく、むしろ喜ばしい事だと思いますよ、ええ!!」

『喜ばしい…?』


 ミルティナと顔を見合わせるも、心当たりはないようだ。俺達関連だとラルカかフレイくらいだが、二人が関わって喜ばしい事態など想像が出来ないな。


「さあ、すぐにでも向かいましょう。サクラ様が御待ちになっておりますから!」


 彼女からはヤケになってる感じがするのだが、一体何が起きているんだ?



 面倒な道のりを馬車で行く。うむ、断然馬車の方が楽だ。

 さすがにサクラがいる座敷の前まで行くのはどうかと考え、途中で降りて巫女見習い長のハナに預け、徒歩で座敷まで移動した。


「サクラ様、皆様を御連れしました」

「……入ってください」


 タチバナからの声掛けに対する返答に少しの間があったな。さっきのことがあって気にしすぎてるだけと自分を納得させよう。


「邪魔するぞ」「お邪魔します」「邪魔するわね」


 俺、ミルティナ、ヨルハ、アゲハの順番で入室すると、駆け寄って来るちょっと大きな人影があった。


「パパ!!」

「フレ……イ??」

「はい!!」



 一直線にジャックに抱き着いたのはなんと、100だった。



「まあ……ええっと、成長……したということですかね…?」

「――昨日、突然大きくなってた。本人もよく分かってないみたい」

「ラルカさん、突然というのはどういうことですか?目が覚めたら身体が大きくなっていたということですか?」

「――そういうこと。朝起きて隣を見たら今の状態になってた」


 サクラだけでなく、数日を一緒に行動していたはずのラルカまでもが、言いにくそうにしながら気まずげにジャックから視線を逸らしている。

 当人のフレイはというと、目を爛々に輝かせながらジャックを見上げている。

 これまでの無邪気な目から、好奇心旺盛な目に変わっていた。


「へぇ……この子がねぇ」

「御二人には似ておりませんが、大変眉目秀麗な御子様ですね」

「その……申し訳ありません」

「謝る必要はありませんよ。子供は成長するもの。この子の場合はそれがより分かりやすく、短期間で表れただけです。これは喜ばしい事ですよ」

「えへへ……」


 フレイの変化に頭がついていけてないジャックは、精一杯の力で抱き着いてくるフレイに対して何の反応も示していなかった。

 見かねたミルティナが助け舟を出そうとするのだが―――


「フレイ、兄様が困っています。ひとまずこちらにいらっしゃい」

「むぅ~、嫌っ! パパといる!!」

「――――かはっ」


 フレイの明確な拒絶にミルティナが膝から崩れ落ちる。

 いきなりの状況に、ラルカとタチバナが心配して慌てて駆け寄った。

 アゲハはその後ろから冷静に状況を見つめているのだった。


「――み、ミルティナ!?」

「大丈夫ですか!?」

「これは――愛娘に拒絶された母親のようですね。つまり精神を抉られたのでしょう。私には理解しかねますが」

「あんたはあんたで随分と容赦ないわね」

「それが私の持ち味ですから」


 ミルティナが崩れ落ちた横で停止していたジャックはここにきてようやく再起動したらしく、ゆっくりと頭を上げた。


「――――わかった。よくわからないがわかった。とりあえず今は横に置いといて、情報の共有をしよう」

「わ、わかりました……」


 ミルティナとジャックを交互に心配そうに見ながら、ここは触れるべきでないと判断してサクラはジャックの提案に従うのだった。




「――なるほど。そんなことがあったのですね」

「ああ。それで、神皇国の統治者として、ギラザールの提案を受けるか?」

「ジャック様が同意されたのであれば、私は協力しても構わないと思っています。ただ、派遣できる戦力は少ないことをあらかじめお知らせしておきます」

「兵が無理なら兵站や武器を提供するという方法もある」

「そうですね。どちらの案も協議にかけたのち、より大きく貢献できる方を提供させていただくことにします」


 サクラと必要な話は終わったし、これからどうしよう――ん?

 

「ねえ、パパ。フレイが約束を守ったから、パパも約束を守って」

「約束?……ああ、魔法を教えるってやつか」

「うん! 今からいいよね…?」

「約束だからな。どこか広い場所はあるか?」

「タチバナさん、御二人を御案内して差し上げて」

「そうだった。サクラ、お前にお土産だ」


 うっかり忘れるところだった。そんなことしたら後でどんな恨み言を言われただろうな。聞く耳持たないけど。

 この水晶を扉の四角にくっ付けたら――おっ、完成だ。


「――こんな登場の仕方になるなんてね」

「貴女は……」

「同じ血を引き、同じ異能を宿した者同士、仲良く話し合いでもどう?」


 俺達が入って来た障子戸を一時的に転移門に作り替えると、そこからマアナが現れた。サクラを見つけた瞬間、憎悪を宿した目で睨み付けながら、表面的には平和的な挨拶をした。あくまで表面的には、だけどな。


「サクラにも、マアナにも何かしら意義のある話し合いになるだろうと思って連れて来た。あとはまあ……頑張れ。タチバナが戻り次第話し合いを始めたらいいと思うぞ、立会人としてな」

「……ダーリン、それは少々無責任な気がするんだけど」

「――師匠、無責任」

「なら、二人も護衛として立ち会ってやれ。フレイ、行くぞ」

「はい!」

「――ヨルハさん、よろしく」

「あっ!――同じ国の人間として私が付き添うべきかぁ……」


 弟子め、ヨルハを置いてこっちに来たか。向こうの方が厄介事に巻き込まれると判断したんだな。まあ、その判断は間違いではないだろうが。

 案外、姉妹喧嘩みたいな感じになりそうだな。タチバナとヨルハがいるから血なまぐさい展開にはならないはずだから問題はないはずだ。



 フレイが満足するまで様々な魔法を披露しては教えること二時間。

 そろそろ頃合いかと思って戻ってみると、本日二度目の珍しい光景を目にすることになろうとは………


「――これは一体どういう状況なんだ?」

「え、ええっとですね……」

『あっちが悪い!!』

「…………」


 話し合いをしろと言ったはずなのに、どうして二人ともそっぽを向いているんだ?しかも、サクラはタチバナに、マアナはヨルハに宥められてるって……。

 ただ、二人とも相手が気になるのか時折横目にチラチラと盗み見ている………なるほど、二人とも素直じゃないなぁ。

 サクラもマアナもむすっとした表情で、どこかいじけている印象を受ける。

 要は、互いに言いたいことを言って納得する部分もあれば、受け入れられない部分もあったのかもしれない。互いの本音をぶつけ合った結果、認めたくないけど相手も同じくらい苦労しているんだ、ということに気付いて変な静寂と居心地の悪さを生み出したのだろう。


「血のつながりを感じさせるな。まるで姉妹のようだ」

『こんな妹を持った覚えはありません(ない)!!』


 二人同時に反応してきた。やっぱり姉妹じゃないのかねぇ?


「ニヤニヤしないでください!!」「ニヤニヤするな!!」


 ほらな?そっくりだろう?

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