第10話 前途は多難 俺は災難
あの後、馬車の残骸を集め、魔女の魔術で復元した。俺も復元の魔法は持っていたが、自身で壊した自分の馬車だからという理由で直してしまった。
で、今は元通りの馬車に乗って聖国へ向かっている。馬はどうしたのかって?俺が召喚魔法で召喚した。俺に使えない魔法はないからな!
「――師匠、召喚魔法も教えて」
「無理だな。召喚魔法は他の魔法とはまったく性質が違う。向き不向き以前に適性がない。それと、馬に触ろうとするな」
「そんなに難しいものなの?どっかから連れて来ているようにしか見えないけど。」
「召喚魔法には二種類存在する。空間を繋いで別の場所から持って来る方法と、空想の世界から創造して生み出す方法の二種類で、どちらも難しい。前者は空間魔法で、後者は創造魔法。どちらも超一流の魔法師でも使える者がいないと言われるほどだ」
空間魔法は概念を利用して世界の理を捻じ曲げるため、相応に魔力を求められる。つまり、適性があってもそもそも魔力量が足りなくて使えない者が多い。
対して創造魔法は、魔力さえあれば誰だって出来る。とは言っても、無から有を創るわけだから、想像力が無ければ具体的な物を創造することは出来ず、結果として歪な物しか出来ないなんてことはよく聞く話だ。
「でも、ジャックは使えるんだね」
「伊達に魔王と呼ばれてないからな。俺に使えない魔法はない……現状は」
「私の魔術を教えましょうか?貴方なら私以上に活用できると思うの」
「ぐぬぬ……ダーリン、剣を教えてあげる!」
「いや、魔法師だから必要ない」
「――師匠は自衛出来る魔法師」
「それが出来るからこその魔王という称号だ。まあ、蔑称とも言えるか」
提案を拒否したら勇者が分かりやすく落胆した。オカマはオカマで何か言おうとしたが、昨日のことがあるから自重したようだ。今度はサンドバックにでもされそうだな。
「――師匠、探知に引っ掛かった。魔物がこっちに向かって来てる」
「今確認した。それに、反対側からは人の反応らしきものがあるな」
「どうするの?もしかして、また聖騎士?」
「いや、違う。数は三人だ。対して、魔物は十頭ほどの群れで行動しているようだ」
「僕が行こうか?身軽だし」
「そうだな、任せていいか?」
「もちろん。タダメシ食らいにはなりたくないからね。行ってくるよ」
言うが早いか、御者台にいたオカマの姿が一瞬で消えた。やはり、忍者の身軽さは群を抜いて凄いな。
「――人の方はどうするの?」
「俺が行こう。お前達はここで待て」
本当は行きたくないが適任者がいないから仕方ない。弟子は口下手だし、勇者は斬り捨てそうだし、魔女は面が割れている可能性がある。消去法として、俺ということだ。
「――なんだ、お前か」
「あんたはこの前村に来た旅人の! ここで何をしていたんだ?」
本当は知っていた。誰がこちらに向かっているのかは。だが、あえて他のメンバーには伏せた。何か、嫌な予感がしたからだ。
「今から聖国に向かう途中だ。ようやく方針が決まったんでな」
「そうか。あそこは問題を起こさない限り居心地の良い場所だ。ゆっくりしてくるといいよ」
「そうか。それを聞いて安心した。お前達の方こそ、どこへ向かうんだ?」
「定期的な見回りだよ。これをしないと夜もオチオチ寝れないからな」
「大変だな。一応、火熊は倒したから安心だとは思うが、すぐにでも新しいヌシが来るだろうから、気を付けるんだぞ」
「そうか、倒してくれたのか。ありがとう。そのうち傭兵を雇おうかと思っている。誰かいい人間を知らないか?」
「俺はあまり顔が広くない。申し訳ないが、紹介出来る人はいないな」
「こちらこそ、不躾なお願いをしてすまなかった。旅の無事を祈っている」
「ありがとう。そちらこそ、これからは魔物の脅威が減ることを祈っている」
まあ、すぐにでも縄張り争いに敗れた魔物がここに棲みつくだろうな。そうなれば、今度はどうなるか分からない。また魔獣化した個体が来るかもしれないし、そうじゃない、そこそこのヤツが来るかもしれない。どっちにしろ、俺の知ったことではない。彼らの運命だ。
「――どうだった?」
「帰っていった。まあ、すぐに死ぬこともないだろう」
「――冷血漢」
「そう言うな。仕事はしたんだ。文句を言われる筋合いは無い。これ以上関わることも無いのだからな」
「意外と薄情なのね?」
「関わりたくないからな。食人族と関わっていいことなど何一つ無いのだから」
「なんだ、気付いていたのね」
「お前の本来の研究対象はあいつらなのだろう?魔術によって人の肉を喰らうようになった人間、
「ええ、そうよ。ただ、すぐに魔獣化した魔物が数頭現れたから研究対象を変えたの。ここに来たのは十年以上も前の事よ」
グール――魔物になりきれなかった人間。魔術によって呪いをかけられた者達ということで知られている。耐久力が高く、心臓を潰すか、首を刎ねるか、全身を一瞬で攻撃できる魔法なりでないと殺せない。それぐらい生存能力が高い、厄介な存在だ。
いつだったかは分からないが、魔術に長けた「リッチー」に襲われた一つの村から伝染するように波及していったという記述の書物を読んだ覚えがある。魔物と人間の中間という位置づけになっていたな。
「彼らはまだ理性を保っていたが、珍しいのか?」
「相当ね。これまで見てきた個体はみんな理性が蒸発していて、肉を喰うことだけのために生きているような感じだったわ。」
ふむ……つまり、もうあの村には彼ら以外はいないという事か。到着した時点で生者の気配が極端に少ないと思っていたが、人としての尊厳を守るために仲間を殺したのかもな。離れた場所に墓がたくさんあったが、おそらくそういう事だろう。
「彼らは敬意を表するに値する人間だった」
「そうね。今だに人間らしく生きていることに素直に敬意を表するわ。並大抵の精神力じゃここまでもたないもの」
「期間にしてどれくらいだ?」
「私が研究し始めた段階で、あの村には100人ほどいたけど、五年もしたら半分以下、八年経った時には今の人数ほどにまで減少したわ」
それから二年以上も三人かもう少しいるのかは分からないが、人間としての矜持を捨てずに生きてきたのか。
「殺してやった方がよかったのか?」
「ここまで生きてきたのだもの、死に方くらい彼らのやりたいようにさせてあげるべきよ」
「それもそうか……ご苦労さん。どうだった?」
「歯応えはなかったよ。臥竜がいなくなったからかな、獲物を求めて早速雑魚が湧いてたよ」
「そうか。これから騒がしくなるだろうな、この場所も」
ここら一帯を領土としていた臥竜が死んだ。ならば、彼らにも伝えたが、すぐにでも新しいヌシが生まれることになるだろう。彼らにとっても大変な時期になるだろう。
「行きましょうか。ここに留まっても何か出来るわけでもないし」
「そうだな……おい、馬鹿弟子。馬に触るなって言っただ――」
「――おお~、肌触りがいい……あれ?」
「「あっ」」
「し、ししょーー! と、止まらなーーーい!!」
あの馬鹿! 動物はデリケートだから、急に死角から触れられるとビックリするっていうのに! というか、触るなって言っただろうが!!
「ど、どうするの?」
「……追えるか?」
「無理かも。さすがに馬の脚の方が早いから」
「ねえ、ダーリン。私が追いかけようか?」
こいつにだけは絶っっっっ対に貸しを作るのはイヤだが、背に腹は代えられないか。不本意だが、本当に不本意だが、仕方ない。
「頼めるか?」
「任せて! ダーリンのためなら空を飛んで海も越えてみせるわ!!」
その行動力をもう少し別のところで発揮できないものか………
結果から言うと、変態が馬鹿を連れて帰ってきたのは、事案発生から3時間ほど経ってからだった。最近は色んな事で無駄な時間を過ごすことが多いな。疫病神にでも付かれたか……?
明日こそは聖国近辺まで行きたいものだ……今の感じだと無理だろうけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます