第12話 綺麗な花には棘(猛毒)がある

「――ねえ、師匠。こんな状況、誰が想像出来た?」

「俺が聞きてえよ! てか、お前も仕事しろ!!」

「――やってる」

「どこがだ! 自分だけ認識阻害魔法使いやがって!!」

「――だって戦えないもん」

「もん、じゃねえよ!? 手段を考えろよ!!」

「兄様、そんな役立たずは放って置いて私をもっと頼ってください!」

「ダーリン! 私をもっと見て!!」

「おい、魔王。この状況を一瞬でどうにかしてくれないか?」


 えー、ただいま洞窟内の広間のようなところにて、盗賊とモンスターの群れに囲まれた状況で戦闘中。


 さらに、仲間が面倒くさ過ぎて辛いです。誰か助けてくれっ!!

 


※※※


 

 遡ること5時間ほど前、とある酒場の中にて。


「変態が消えたことは喜ばしいこととして、これからどうするんだ?」

「そうだな。変態が消えたことは喜ばしいな。今後は……どうする?」

「――師匠が決めないと進まない」

「そうかも知れないが、どこへ行く?顔が割れている勇者二人のせいで動くこともままならない。一所に居続けるのは得策ではない。すぐにでも勇者討伐隊の第二、第三波がやってくることだろう」

「――この人達を置いていく?」

「――兄様と二人きりにすると思いますか?」

「ダーリンは私のモノよ!!」

「誰が、あなたのモノですって?」

「ダーリンに決まってるじゃない、義妹ちゃん?」



 また始まった。

 この勇者二人はいつも喧嘩してばかり。

 基本は勇者が挑発して妹がそれに乗るといった感じだ。


 非常に五月蠅いし、目立つ。二人とも喋らなければ美人だから余計に目立つ。


 というか、メンバーが見た目だけは美人(一人は男、二人は変態)の集まりだからどこに行くにも注目されてしまう。


 外套なりで隠せって?

 どういうわけか、勇者というのは纏うことをしない。

 で、勇者が纏わないから、当然オカマも纏わない。

 結果、俺と弟子だけが外套を纏って顔を隠すという変な集団が出来上がってさらに注目されるわけだ―――やってられるか!!



 酒場で無駄に時間を過ごすこと2時間。

 突然、ボロボロの外套を纏った不審者――自分たちの事は棚上げ――が俺達のテーブルにやって来た。

 夕暮れも近い時間帯で、後は宿で寝るだけというタイミングでの来客に俺は不快感ときな臭さを覚えた。


「冒険者の方々ですよね?」

「違う。ただの旅人だ。依頼ならよそにでも頼め」

「そ、そう言わずに。これでも占い師の端くれですから、人を見る目にはそれなりに自信があります。この酒場でもっとも強いのは皆さんだと察したのです」

「……それでも俺達は旅人だ。誰かのために何かをする気は無い」

「報酬として、恋愛成就の指輪を贈ると言ってもですか?」

「興味などな――」

「ダーリンやりましょ!」

「兄様、たまには人助けをしましょう!」


 なんとなく予想出来てしまった自分が嫌だ………


「俺は断固拒否だ」

「――うん。もう寝たい」

「胡散臭いよね。売れてる占い師ならもっと身なりが良いはずだから」


 ほう…?オカマが味方してくれるのか。

 これなら諦めさせることが出来るかもしれないな。


「訳あって素顔を晒せませんが、指輪の効果は保証します」

「素顔を晒せないなら余計に信用できないな」

「――呪術的な何かかも」

「指輪は私が持っているわけではありません」

「なら話にならないでしょ。報酬がないなんて」

「ですが、妹が持っています。妹を助けてくれた暁には、指輪を差し上げます」

「――ますます胡散臭くなってきた」

「だな。俺達を罠に嵌めるための口実かも知れない」

「とてもじゃないけど信用できないね」


 よしよし。このまま多数決で押し切れば無駄なことをせずに休めるぞ。

 この時、俺はまだ理解していなかった……変態の行動力を。




「さあ行くわよ、ダーリン!」

「行きますよ、兄様!」

「がっ…ぐ、ぐるじ……」

「――師匠が死にそう」

「姉様、こんな眉唾な話を信用するのですか?」

「指輪を取りに行くのよ。妹さんを助けるのはついで。別に苦でも無いでしょ」

「はぁ……わかりました。御手伝いします」

「ありがとうございます! 場所はここから北西の山の中腹です。開けた場所にある洞窟に妹は囚われています。助けてください!」



 これが今回の原因である。まったくもって迷惑な話だ。

 俺は行きたくないと言ったのに、首輪を付けて縄を絡めて引き摺るなど……!!

 

 これが勇者のすることか!!



※※※



「――師匠、現実逃避はダメ」

「この状況をどうにか出来る方法を早く考えろ!」

「お前こそ何か策は無いのか! 人に言う前に自分で考えろよ!」

「――あの2人を囮に逃げるのは?」

「賛成だ!」 「反対に決まっているだろう!」


 弟子の提案に俺が賛成、オカマが反対。

 当然睨み合いが始まるわけだが、今は譲れない。


「「…………」」

「――足手纏いもいる。早くしないと手遅れ」

「よくわかってるな。足手纏いが2人もいることを。そうだ、最も厄介なのは戦力にならない奴が2人もいることだ」

「――ねえ、師匠。私も含まれてる?」

「当たり前だろう?」

「―――――」

「珍しく物凄く歯軋りをしているぞ」

「そんなことよりだ。これからどうす――」

「――予想外なのが出てきた」

「まさかこんなところに現れるとは……」


“騒がしいから来てみれば、なんだこの状況は。”



 なんとまあ。

 いまだに魔物と人間がわんさかいる狭い洞窟に図体のデカいミノタウロスが来たではないか。

 これでは人口(?)密度が増してむさ苦しさが増してしまう。

 ………まさか、これもヤツらの作戦のうちか?そうなのか? 


“まあいい。さっさと殺して近くの町を襲いに行くぞ ”


 どうやら力量差が分かっていないらしい。

 こちらにはアホみたいに強い変態が2人もいるというのに。


「魔族ですか。まあ、同じく抹殺ですね」


“我を殺すと言うのか?面白い。やってみせろ!”


「言われずとも」





 うーーーん。

 こうまで予想通りの展開で、かつ予想通りの結果になると少し物足りなさを感じるな。もう少し粘ると思っていたのだが……



“ごふっ……貴様、何者だ!”


「え?兄様を神と崇める敬虔な妹ですが?」

「――師匠、ついに頭をやられた?」

「……痛みを消す魔法はあるか?」

 

 恥ずかしげもなくそんなことを言ってのけるなんて、あいつはどんな精神をしているんだ?


「――ない。怪我は治しても痛みは消せない」


“その強さ……まさか勇者か!?”


「敬虔な妹と言っているでしょう?」

「お前の妹は重症を通り越しているな」

「――何か言いました?」

「いや、何も。何も言ってないから、その剣を下ろしてくれ」

「――次は無いですよ」

 

 どうしよう。

 誰か、兄を神と崇める妹の対処法を教えてくれないか?


“ぐっ…今すぐあの方に知らせなくては……っ!”


「あの方?それは誰だ?」


 満身創痍のミノタウロスから情報を聞き出そうとしたところで、洞窟の入口から人の足音が聞こえて来た。ただし、人ならざる気配を発しながら。


“貴様らにはわかるまい――なっ、姫様!?”

『お前が戻らぬから私自ら赴いてやった。それで、この状況は?』

“はっ! 目の前の勇者に片腕を斬り落とされました。申し訳ありません ”

『構わぬ。それよりも、勇者だと?』


 何やら面倒くさい話の流れになってきたな。

 捕まっていた者達は解放したのだからさっさと帰って寝たいのに。


『勇者か……か?』

“実力はと遜色ありません ”

『なれば、魔神様の敵となる前に葬り去るのみ!』



 突如現れた傾国の美女。

 夜会に出る時に着るような白のドレスを身にまとうスタイルの良い魔族。

 なぜ魔族と分かるかと言うと、背中に生える小さな羽があるからだ。

 まるでそう、蝙蝠こうもりのような羽が。

 大きな胸に視線を一瞬だけ向けると背中に鋭い殺気が2本刺さった。



「兄様は胸が大きい方が好みなのですか?女性は胸で価値が決まると思っているのですか?そうなのですか?」

「ダーリン!胸なら私がいつでも揉ませてあげるから、あんな年増を見ちゃ駄目!」


 ……これは男の性だから仕方ないのだ。

 だから弟子よ、そんな蔑んだ目を向けるんじゃない。


 変態勇者がいらぬ事を言ったせいで魔族の神経を逆撫でしたらしい。

 物凄く目を鋭くして睨んできた。俺じゃないぞ、あっちだあっち。


『……年増?』

「だってそうでしょ?どう見たって若作りのババアにしか見えないじゃない」

『………魔族の恐ろしさ、身をもって知るがいい!!』


 

 変態(勇者)のせいで新たな戦いが始まってしまった。

 もう勝手にやってくれ!!


 ちなみに、弟子と一緒に2人だけで洞窟から出ようとしたら負傷しているミノタウロスに見つかってしまった。

 まだだ!まだ諦めんぞ!! 

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