第9話 類は友を呼ぶ
あの後、二代目勇者も連れて街からだいぶ離れたところにある遺跡の中で野営し、焚火を囲うようにして座っている。
俺から時計回りに、馬鹿弟子、二代目勇者(魔王妹)、変態王子、勇者、勇者妹(男)の順番である。
勇者と魔妹は俺の隣に来たがったが、勇妹と馬鹿弟子が止めた(物理)ので襲われる危険はなくなった。2人に挟まれていたらどうなっていたか。
珍しく馬鹿弟子が助けてくれたことには驚いた。
「さて、改めて自己紹介してくれるか?」
「くっ……なぜ兄様の隣に座らせてくれないのよ――コホン。私は名前はミルティナ、ジャック兄様の妹です。初代勇者を超える技能を評価されて勇者となり、裏切り者と認定された初代勇者、その妹、そして魔王の殺害を先程の者達と共に命令されやって来ました」
「――師匠、私はターゲットに入ってない」
袖を引っ張って来た弟子がなぜか、不思議そうな顔で尋ねてきた。
いや、どういう思考回路になったら自分が狙われないことに疑問を覚えるんだ?
「そうだな。殺すまでもない、雑魚として認識されたんだろう。よかったな」
「――雑魚じゃない。私はやればできる子」
「そうだったね。いつもやらないだけで、やればできる子だった」
「――凄く馬鹿にしたニュアンスを感じる」
「文字通り馬鹿にしてるからね。そう感じるだろうさ」
「――変態連れオカマは黙ってて」
「好きで変態を連れているわけじゃない!あとオカマって言うな!!」
「――オカマはオカマ。事実を受け入れるべき」
唯一イジメられる相手と踏んで絡んできたオカマだったが、見事に言い返されてしまった。
まあ、どっちもどっちな気がするが。
「お前らはいい加減口喧嘩をやめろ。それで、もう殺さないのか?」
「兄様を手にかけるなんて、私には無理です。勇者は別に殺してもいいですけどね。というか邪魔なので今からでも殺していいですか?」
「ヤレるもんならやってみなさいよ!返り討ちにしてあげるわ、義妹ちゃん?」
「あなたの義妹になった覚えはありません!私は兄様の妹です!」
「うむ。俺も結婚した覚えはないな」
全くもってこれっぽっちも身に覚えが無いな。
「え?この後は二人でテントの中、熱いバトルを繰り広げるんでしょ?」
「………なるほど。テントの中で暑いバトルを繰り広げるんだな?」
「そうよ!!」
「――師匠、明らかに抜かしてはならない部分を抜かした」
「さらっと伏せたな?妹という単語を」
まだまだいがみ合っていた馬鹿弟子とオカマだったが、俺の発言に敏感に反応して同時にツッコミを入れてきた。さてはお前達、相性が良いな?
「……さて、寝床についてだが――」
「「私はダーリン(兄様)とね(ですね)」」
「「…………」」
「とりあえず、全員バラバラでいいんじゃないか?それなら喧嘩もないだろう」
「変態……お前もたまには良いこと言うな」
「――こういうときは常識人」
「常識人の皮を被った変態だけどな!」
「……あんまりではないか?その評価は」
オカマにドМ、妄想癖にブラコン。
どうしよう、常識人が俺と弟子しかいない。
実力的には申し分ないパーティだが、中身が終わってる……。
オカマとドМは比較的常識人ではあるが、一度絡まるとめんどくさいんだよな。
どうにかして変態組を切り離せないもんか………
" ――師匠、この人達置いて逃げない?"
" そうしたいのはやまやまだが、追いかけられた後のことも考えたか?さらに面倒なことになるぞ?"
" ――捕まらなければいい "
" 変態的な嗅覚を持つ勇者がいるんだ、必ず追いつかれるぞ "
" ――論理的に説得は?"
" 変態に話が通じると思うか?"
" ――――ヤッちゃう?"
" その場合、戦力は俺一人なんだが?"
" ――師匠、ファイト "
" 他人任せか!"
「おい、なに話合いをしている?お前達もテントを張るのを手伝え」
「はいはい」
"――師匠、諦めたらダメ "
" じゃあどうしろと?……お前、何か逃げるのに適した魔法は無いのか?"
" ――あるといえばある "
" よし、ならばそれを使って逃げるぞ "
" ――ただし条件がある "
" 条件?それはなんだ?"
" ――……一人なら問題ないけど、二人以上の場合は術者と肉体的接触――手をつなぐとか――をしないと魔法がかからない "
" なら問題ないだろう?手をつなぐくらい "
" ――――あの変態たちから逃げるならもっと肉体的接触が必要 "
" もっと!?なんだ、全裸にでもなれって言うのか?"
" ――それくらいは必要ってこと "
" ……………背に腹は代えられぬか…… "
何事も代償が伴うもの。
ここは断腸の思いで割り切るしかあるまい。
" ――バレたらどうなるか "
" そうも言ってられん。これ以上あいつらと一緒に居たら俺の貞操と常識と身の安全は保障されないからな! "
" ――変態はうつる "
" そうだな。というか、変態が集まるとより変態性が増す。このメンバーだとそれぞれ特徴が違うせいで際立ってもいる "
" ――変態は有害 "
" 俺達も侵(犯)される前に逃げないとな "
その時、ふと背後に死神のような気配を感じた。
あれはきっと勘違いではないはずだ。
突然、背後にあんな気配を漂わせた女が立っている恐怖を理解できるか?
勇者でもあんなものは出さんぞ?
……あいつの場合は情欲駄々洩れの気配か。
「兄様?随分お弟子さんと話し込んでいらっしゃいますね?私も交ぜてくださいませんか?これでもどこぞの勇者よりもありとあらゆる面で優秀ですから、もちろん魔法も一流ですよ――兄様に似て」
「さ…流石だな。だったらお前には違う話をした方が有意義だろう。この馬鹿弟子は不出来だからこそ、しっかりと教えているんだからな」
「まあ……素敵です、兄様。馬鹿でも理解出来るように噛み砕いて説明してあげるなんて……。てっきり、ここから逃げ出す算段でも立てているのではと邪推してしまって申し訳ないです」
見下ろす妹の目が細められた瞬間、背筋にゾクリと震えた。
み、見透かされている………
「は、ははは……そんなわけないだろう?こいつは手が掛かるから時間がかかっただけさ。心配かけてすまなかったな」
「いえいえ。こちらこそ、兄様を疑うなんて妹にあるまじき行為をしてごめんなさい。これもひとえに兄様を愛しているからこそとお許しください。では」
「あ、ああ。また後でな」
妹が去って行ったのを見届けてから掌を見ると汗で湿っており、額からは冷や汗が流れていた。
袖を引かれたために振り返ると、フードを目深にかぶり直した馬鹿弟子が憐憫の目で見上げながら残酷なことを言ってきた。
「――師匠、今日をもって弟子をやめ―――」
「逃がすと思うか?」
「――放して。私は変態たちと一緒にいるなんて耐えられない」
「それは俺も同じ気持ちだ。だがな、ここから逃げられると思うか?俺は確実に無理だ」
「――私は大丈」
「大丈夫だと思うか?あいつらには既に仲間意識が生まれているみたいだぞ?それから、勇者妹に関しては秘密漏洩を防ぐという意味でお前を逃がすつもりはないだろう。わかるか?一緒に逃げるか、一緒に残るかだ」
「――――わかった」
少しの沈黙ののち、馬鹿弟子は重く頷いた。
よし、これで道連れができた。一人だけ逃げるなど許さんからな。
「それでいい。それと、逃げ出すことを諦めたわけではないからな?機を見て一緒に逃げるぞ」
「――了解」
「ふふふ……私が逃がすと思ったら大間違い……ふふ、ふふふふふ………」
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