第6話 不意の遭遇

「――師匠、魔物が近付いている」

「お前の魔法でどうにかしろ。修行の一環だ」

「――無理。私の魔法は対人間用。魔物には効かない」

「役立たずだな、貴様は!ああ、もう!『射貫く風』!!」

「――おおー、さすが師匠。かっこいい」

「……少しは攻撃魔法を覚えようとはせんのか?」

「――私は既存の魔法に適性がない」

「これが魔法使いか……」

「――そう、私が魔法使い」



 今更ながらに説明すると、魔法を使える者を「魔法使い」と呼び、魔法を使い魔法を創り上げる者を「魔法師」と呼ぶ。

 ちなみに、魔族だけが持つ「呪力」を用いた魔法は「魔術」と呼ばれ、「魔術」を使う者を「魔術師」と呼ぶ。ただし、「魔術」「魔術師」は人類の敵という認識であり、蔑視されている。

 もう一つ付け加えると、「魔神」という、魔族を支配している存在がいる。「魔王」は魔法使いの王様という意味合いで付けられたらしい。

 で、「魔神」は「魔王」という名称があったために仕方なく付けられたらしい。なぜ伝聞系かというと、このアホ弟子に教えられたからだ。

 しかし、今では「魔王」も「魔神」も混同されていて、どっちも悪者扱いである。ヒドイ話だ。以上閑話休題終了。



「――師匠、私のために魔法を創って」 

「稀代の天才魔法師なんだろう?自分で創ればいいだろう」

「――それが出来たら師匠のところに来ないし、魔王の称号も私のモノ」

「自分で創れない?だが、確かに魔法を」

「――私の魔法は全て補助魔法。攻撃魔法は一切ない」

「なんだ?つまり、攻撃魔法だけ創れないのか?」

「――そう。なぜか創れない。創ろうとすると途中で歪んで壊れる」

「…………」


 攻撃魔法だけ創れない?そんなことがあり得るのか?


 確かに、攻撃魔法と補助魔法では最初こそ同じ工程だが、途中から分かれる。

 それぞれに専門的な知識と技術が必要ではあるが、片方が出来ればもう片方も出来るはずなのだ。

 勿論、歴史的に見て片方だけという例は少ないながらも2、3あるが、ほとんどは両方出来る者ばかりだ。今の時代になるほどに、その存在は顕著だ。ここ最近の魔法師は皆、両方創れて当たり前。昔よりも知識が集約されている今ならば当然の結果と言えよう。


 しかし、この馬鹿は片方のみ。


「何か原因はわからないのか?」

「――何も思いつかない。特に嫌いでもないのに」

「……お前がわからないと俺にも判断しようがないぞ」

「――師匠、ヘルプミー」


 補助魔法は確かに創れていた。

 俺でも出来ない技巧でもって編み上げられた最高峰の魔法だった。

 しかし、高すぎる技巧のせいで他の者は扱えず、本人以外では改良出来ないだろう………俺は例外だが。


「とりあえず今は置いておこう。すぐに解決する問題でもあるまい」

「――さすが師匠」

「お前が褒めるたびに馬鹿にされている気分だ。それで、勇者は今どこにいる?」

「――探知魔法でも発見できていない」

「そうか。ということは現状いつ遭遇してもおかしくないということか」

「――でも、妹の位置はわかる」

「妹?――ああ、あれか。どこにいるんだ?」

「――物凄いスピードでこちらに向かって来ている」

「は?こっちの居場所がバレているのか?」

「――結界魔法は正常に起動中。おそらく勇者が近くにいる」

「勇者を目指して走っているというわけか。しかし、勇者には追跡されているということだな?」

「――たぶん。探知できないから確証はなし」

「ならば急いでここを離れるぞ。支度をしろ」

「――了解。今度こそ撒く」

「期待はしていない」



※※※


 バレた…?でも、探知魔法は掻い潜っているはず。バレる理由が無い。

 しかし、逃げる以上は追いかけないと。あと少しなんだから。

 ハァハァ………ダーリン、待っててね。

 これまでの溜まってる分を吐き出さないとそろそろ発狂しそうなんだから!

 三日三晩は寝かさないわよ!!



※※※


 なんでずっと追いかけて来るんだ!

 こっちは補助魔法を併用しているんだぞ!!

 もう5時間は走り続けているのにっ!!!



※※※



「そういえば今更だが、お前の名前は何だ?」

「――そういえば名乗ってなかった。ラルカ」

「ラルカか。普通だな」

「――なら魔王は?」

「俺か?――忘れたな。名を呼んでくれる相手がいなかったから」

「――寂しくない?」

「今は魔王が名前だからな。気にしていない」

「――そう、ならこれまで通り師匠で」

「そうか、馬鹿弟子」

「――名前で呼んでくれないの?」

「呼ぶか。呼んでほしかったら俺を認めさせるんだな」

「――すぐに認めさせる」

「今のままでは当分先だろうな」



※※※


 それにしても、ダーリンの隣のあいつは誰?

 歩き方からして女だけど……まさか浮気相手!?

 いやいや、どう見ても子供でしょ。じゃあ隠し子?

 まさか、童貞だからあり得ないわよね。じゃあ誰?

 まさかまさか、魔王は噂のロリコン!?

 だから私になびかないと!!?

 ………これは、大人の女の良さを教えないといけないようね。



※※※


 まだ追いかけて来る!?

 もうそろそろ御姉様を視認出来る距離に入るのに!!

 このままでは御姉様に迷惑をかけてしまう。それだけは避けなくては。

 御姉様に禁じられたが、かくなる上は――


「おい、変態王子!今ここでその息の根を止めてやる!!」

「君のキスでか!?それとも情熱的かつ暴力的な抱擁でか!!?」

「――キスなんてするわけないだろうが!まして抱擁なんて!!殺すってことだ。恨むなら自分の人しぇい――人生を恨むんだな!」

「噛んだことをなかったことにしようとするなんて可愛らしい。そのうえ、私に真の姿を教えてくれるほどの優しさ。君以外の誰を愛せようか!!」

「――話にならない。もう死んでくれ。」

「さあ愛を確かめ―――」

「苦しみも痛みもなかっただろう?それがせめてもの僕からの慈悲だ」

「――――」


 ちゃんと死んだようだ。

 気分はあまり良くないが、こればかりは仕方ない。


「これで御姉様に追いつける」

「――むっ…少しばかり気絶していたようだ」

「――は?」

「いやーなに、少しばかり頑丈なのが取り柄でね。だから、君からどれだけイタブられても俺は平気だ! さあ、今度こそ愛を確かめ合おうじゃないか!! 大丈夫、愛の形は人の数だけあるものだからっ!!」

「――――いやー!!来るなー!!!」

「はははっ。鬼ごっこがしたい気分なんだね。本来なら俺が追いかけられたいが、今回は俺が追いかける側になろう。待て待てー」



※※※


 よし。バレてないわね。これなら問題なく近付けるわね。

 あとは寝込みを襲って既成事実を作ってしまえば……ぐふふ…!

 さあ、ダーリン。このほとばしり溢れ出す愛を受け止めてもらうわよ!!

 ………ん?


「御姉様!助けて下さい!!へ、変態が追いかけて来ます!!!」

「は?変態??」

「あの変態王子です!殺しても死なない変態屍王子です!!」

「殺しても死なない?…あんた何やってるのよ!仮にも王子よ!!」

「でも変態です!!超絶怒涛の変態なんですよ!!僕の手には負えません!!!」

「そんなこと、私の知ったことでは――ってあんたのせいで魔王たちに気付かれたじゃない!どうしてくれるのよ!!千載一遇のチャンスだったのに!!!」

「それよりも変態が……く、来るなー!!」

「ちょっ!?こっちに突っ込んで来ないでよ!――あっ」

「ちょっと!御姉様も巻き込むつもりか!!――えっ」



※※※


「――師匠。謎の物体が一直線にこちらに接近中」

「謎の?勇者の妹とか言うヤツじゃないのか?」

「――勇者と勇者妹を巻き込みつつ、こちらに飛んで来てる」

「……は?飛んで?」

「――文字通りの飛行。といっても巻き込まれて、という状態を考慮」

「障壁を張れ。そして、軌道を算出してらせろ」

「――障壁展開完了。ただ、軌道変更は手遅れ」

「手遅れ?―――そういうことか。これでは軌道を変えられんな」

「――どうする?」

「放置するぞ。構っている暇はないからな」


 俺が諦めた理由は、三人が一塊の弾丸となって突っ込んできたからだ。

 勇者のせいで、展開した障壁魔法は無効化されてしまったため、仕方なく避ける選択肢を取った。触らぬ神に祟りなし、だ。


「――待て魔王! 御姉様が貴様に用がある!」

「知らん。俺は旅の途中だ。邪魔しないでくれ」

「――さすが師匠。塩対応」

「黙れ馬鹿弟子。さっさと行くぞ」

「――師匠はせっかち。早く禿げるよ?」

「ならば貴様の無駄に優秀な補助魔法でどうにかしろ」

「――髪に対しての魔法なんて聞いたことが無い」

「なら創ればいいだろう?稀代の天才魔法使いなのだから」

「――任せて、この稀代の天才魔法使いに」

「ふん、期待はせん」

「――待って魔王」

「なんだ勇者?」

「話があるの」


 あの勇者が、しおらしい姿を見せるだと…?

 一体何を考えているんだ?

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