幕間

 誰が開けたかわからない窓の隙間から吹き込む風は、時間とともに暖かくなるのがわかる。春らしさを感じながら、朝の寒さを忘れそうになる。

 母さんを失ってから何度目の春だろうか、数えることが意味のない行為だと気付いた時から大人になった気がしていた。

 「そんなことなかったんだよなぁ」

 わかっていた。逆に春が来るたびに思い出してしまう。病室から見えた景色。変わっていく外の景色とは対照的に母さんは変わらない顔をしていた。

 まだ小さかった俺に気を使ってくれていたのが今ならわかる。最後まで「俺の母さん」だったのだと思うと涙が出てくる。

 病状が悪化してからは個室へと部屋が移り、窓から見える景色も変わった。今まで見えていた表情の変わる自然は見えなくなり、部屋を変えた後の景色は再開発の進む街並の工事現場が主体になり、寂しさを感じた。

 そんな中に立っていた一本の桜の木は、春になりきれいな花を木いっぱいにつけた。風に舞う姿は無機質な金属やコンクリートには感じられない季節感を備えていた。

 病室に迷い込んだ花びらは空き部屋になった枕に静かに落ちた。 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る