闇蜘蛛

1.左京院煌子

 その女のかおは、誰も知らない。


 女を抱いたはずの男達はみな、女の容貌に対して言うことがまちまちで、アテにならない。

 異口同音に発するは、煌子が差す口紅は、鮮血と見まごうほどに紅かったということ。丸一日、愛撫していても飽きぬその豊満な身体。少しパーマネントのかかった長い髪の毛からこぼれる、狂おしいほどに甘い、蠱惑的な香り。

 そして、女の背中には巣を張って男を待ち構えるかの如く、漆黒の蜘蛛が描かれているということ。


 ただいま東京府を騒がせている【怪盗 黒蜘蛛】

 左京院煌子さきょういんきらこについてわかっているのは、ただ、それだけである。

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