第19話 ……よし、諦めよう
「戻ったわよー」
俺達が装備の準備が終わるのとほとんど同時に先程情報収集に行ってきた二ーファが戻ってきた。
「準備してる所悪いんだけどね、やっぱダンジョンに入るのはやめましょ? 他にも挑戦してる人もいるんだけどやっぱり無理よ」
「何言ってるんだ、行くって決めたじゃないか」
帰ってくるなり、いきなり弱音を吐く二ーファ。
「ナナちゃんの事は諦めましょ? 一ヶ月も待てば言い訳でしょ?」
「待て待て、それじゃ私のご褒美はどうなるんだ」
弱音を吐く二ーファにどこか斜め上な発言をするキュカ。ご褒美の前にナナの心配をして欲しいものだけどな。
というか諦めるって治らない病気じゃないんだから、もう少しオブラートに包んで言ってほしい。
だが、二ーファが諦めるって言うからには理由があるのだろう。
「そんなヤバいダンジョンなのか?」
「そうよ、報酬はかなりいい物らしいけどね」
「その、肝心の報酬はなんなんだ?」
「ダンジョンの報酬、まあボスを倒した報酬ね。それはどんな状態異常でも治すと言われている、ユグドラシルの枝って物よ」
なんでも治せるならナナに持ってこいじゃないか。
これは行くしか無いじゃないか。
浮かれる俺の考えとは裏腹に二ーファは不安そうに続ける。
「報酬がいいだけに、ダンジョン自体かなり危険らしいわよ。何人もやられちゃってるみたいだし」
「やられてるって……もしかして誰か死んだのか?」
「それ以外無いでしょ? ダンジョンは死ににくい場所だけど死人が出てるって事はかなり危険よ」
「ん? なんでダンジョンって死ににくいんだ?」
「ボス部屋の前に脱出ポータルがあるからよ。ボスはそのポータルを使わないから危なかったらそれで逃げるのが普通よ」
なるほどな……
目の前に脱出手段がありながら命を散らすなんてかなりヤバいダンジョン何じゃないか?
少し考えて俺は決断を出す。
「……よし、諦めよう」
「そうね、もうちょっと強くなってから行きましょ」
「ちょっと待て! じゃあ私のご褒美はどうなる!」
俺と二ーファで勝手に決断してるとキュカが声を荒らげた。
「ダンジョンに行ってないんだからあるわけ無いだろ?」
「それはダメだ! 私が許さないぞ!」
鬼気迫る勢いでずずいと詰め寄ってくるキュカ。
「どうしたの? キュカらしくないじゃない。もしかしてドM過ぎて魔族で発散したいとか言い出さないでね」
「流石に私がMでもそこまでド変態では無いからな」
二ーファの言葉にキュカはムッとした様子になる。
というかまず、ドMな時点でド変態なんだけどな……。Mな事を隠すぐらい自重して欲しい。
「いやいや、ご主人が私の言うことを聞くっていうから夜な夜な色々と想像してたのにそれをお預けなんて……! あれ、それもいいかも」
「いいならいいんじゃないか」
「やっぱダメだ、やっぱダメ! 私はダンジョンに行きたいんだ! 行きたい行きたい行きたい〜!」
駄々をこねる子供の様に床を転げ回るキュカ。
「なんでそこまでして行きたいんだよ。もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ?」
「大丈夫だ!」
「なんでだよ。というかホコリがまうからドタバタしないでくれ」
「大丈夫だ!」
もはやどっちの意味の大丈夫なのかわからない。
正直俺の考えとしては一度死んだ身なので、なるべく死ぬリスクだけは取りたくないのだが……。聞いてくれるような感じでも無さそうだな。
「しょうがないわね、仕方ないから付いて行ってあげるわよ」
「おお! 感謝するぞ二ーファ!」
言い出しっぺが二ーファなのにキュカは忘れた様に二ーファに飛びつく。
「さて、肝心のニート将軍殿はどのようにされるおつもりで?」
二ーファが言い出しっぺの癖に何故か俺が悪者にされるのは流石に頂けないな……。
だけど、二人とも行くって言ってるのだから俺も折れないといけないな。
「あーもう、わかったよ。もともと二ーファが行かないって言ったんだしな。まあ、俺は行く気マンマンだったんだけどな?」
「流石ニート将軍様ね。やっすい挑発にも軽々と乗ってしまう考え無しの神経は私でもひれ伏してしま——あっ、ちょ、ごめんなさいって!」
失礼な物言いをする二ーファのほっぺたを強めに抓っておく。
俺も俺でニートって言われるのに慣れてきてるな……。
「ほっぺが千切れる音がしそうだったわよ……」
「将軍様を怒らせた罰だからな」
二ーファはほっぺたを抑えながらジト目で俺を睨む。
それを見たキュカは何か思いついた様に言う。
「ニート将軍、私にも何か罰をくれ」
「気持ち悪いから却下だ」
「久しぶりの罵倒だけでも十分だ。ありがとうご主人」
安直な考えなのでNOと言っておく。
拒否したのに満足してくれるなら全然いいさ。正直イラッとはするがドMは無視しとくのが一番だからな。
「とりあえず明日は魔族の下見だけにしとくか。いきなり行っても俺が足でまといになるしな」
「そうね、カズトもダンジョンの何たるかをわかってきたじゃない」
「やっぱりそうか?」
俺は少し照れ隠しをするように頭をかく。
馬鹿代表の二ーファとは言え、パーティー内では一番冒険歴が長い奴に褒められると悪い気分でも無いからな。
「なにその顔、軽くキモイわよ」
どうやら喜んでいたのが顔に出ていたらしい。
キモイと言われたので軽く自分の顔を指でグニグニとほぐしておく。
「じゃあ明日、ダンジョンに行くからな?」
「わかったよ、わかったわかった」
「グフフ……ご褒美ご褒美……」
再度鼻息を荒くして聞いてくるキュカをめんどくさそうに俺は返す。
というか欲望をダダ漏らしにしてるとそんな笑い方するんだな。軽くドン引きです。
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