第二章
第18話 なんで起きないんだよっ!
ナナが攫われた事件があってから一週間が経過した。
事件というよりかはちょっとしたハプニングだな。まあ、そんな事はどうでもいいんだ。
それよりも重大なハプニングがまた起きているんだ。
「なんで起きないんだよっ!」
朝っぱらから魂が叫んでいる様に俺は地団駄を踏み、声を出した。
ちなみにこの下りをやるのは四回目だ。四日前あたりから日課になりつつある。
キュカは叩いても起きないので放置してある。というか、寝ているのに叩くと喜んでる気がするのが流石は変態といったところだ。
「また叫んでるの? ニートなんだから大人しくじっと待つことは出来ないの?」
「うるさいぞ二ーファ。仲間が一人意識不明なんだぞ」
「うるさいのはどちらでしょうかね……」
呆れたように二ーファは部屋に入ってくるなり俺に言う。
久しぶりに二ーファに正論を言われた俺は仕方なく顔をしかめながらも黙る。
ナナは一週間前に疲れで早く寝たと思っていたが、違かったようだ。
病院に連れて行ったが、ナナには呪いがかけられているそうだ。それも、何年も前に。
この街に妖精族にかけられた呪いを解くことの出来る職業を持つものはいなかったのだ。
聞くと、この世界の呪いは回復魔法によって浄化出来るが、回復魔法は同じ種族でしか効果がないとの事だ。
他種族との身体の構造は大体似てるが魔力の違いからか、ほとんど効かないらしい。
「いやな? そもそも鳥羽がナナを攫わなければ良かったんだけどな?」
「仕方ないでしょ。トバちゃんだっけ? あの子だって切羽詰まってたみたいだし」
「納得いかねえ……今度あったら金貨二千枚くらい要求してやろうか」
鳥羽はあの後この街の居酒屋で働かせて貰っているらしい。
どこなのかは詳しく調べてないが、転生者が一人居酒屋で働き始めたと、この街で少し噂になっている。
鳥羽の処遇について考えているとふと、一つ思い出した事がある。
「そういえば、転生する前に読んだ話なんだけどさ、目が覚めないお姫様を起こすには王子様のキスが必要って読んだことがあるんだけど、それってこの世界でも有効かな?」
「王子が姫を夜這いした話を寝ているナナちゃんの前でするなんて軽く死刑よ?」
「夜這いじゃないから。立派な全年齢対象のお話しだから」
「カズトのいた世界って軽く病気の人が多かったのね……」
こいつ軽く失礼すぎる。
まあ確かに、なんで王子様はキスしたんだろう? タイムリープでもしてきたのかな。
まあどうでもいっか。
「まあいいや、気晴らしに外にでも行ってくるよ。夕方までには戻るようにする」
「はいはーい、いってらっしゃーい」
寝ているナナのほっぺをぷにぷにしながら二ーファは手を降る。
俺はそう言い宿から出た。
▽
「お、カズトか?」
宿から出てしばらくぶらぶら歩いていると声をかけられた。
声をかけてきたのは、俺と同じ転生者である山下透だった。
「おお、山下か。どうしたんだ?」
「聞いてくれよ。この街に仕事で廃墟を解体しに来たんだけどよ、どっかの誰かがボロボロに壊してくれたみたいで無駄な仕事が増えて困ってるんだ」
一瞬頬が引き攣りそうになったがこらえる。
あれは俺が壊したわけじゃないしな、鳥羽のせいだからな。
何からあったら全部鳥羽のせいにしよう。
「まあ、明日には終わりそうだからいいんだけどな。ったく、どこのガキが壊しやがったんだか」
「ハハハ……」
ここのガキでございます……なんて言えない。
今度さり気なくご飯でも奢ってやるか……
俺は心の中で軽く懺悔しといた。
「それでお前はどうしたんだ? なんか元気無さそうな顔してるぞ」
「そ、そうか? そう見えるか?」
「なんとなくだがな。気晴らしに外に出てきた感じか?」
なんという洞察力。
少し驚いたな。
廃墟の件の申し訳なさも混じっているんだけどな。
「まあ、そんな感じだな、妖精族の仲間が一人呪いにかけられたっぽくてだな、今この街で治せるやつはいないそうなんだ」
「そうかそれは残念だったな……地球みたく、救急車があればいいんだけどな」
「確かにな」
この世界では病人は動かさない方が言いらしい。
馬車かなにかに乗せて送っている時に、魔族の襲撃があったら病人を守りながら戦うのはかなりリスクがあるからだそうだ。
「そういえば最近、近くにダンジョンが現れたって噂があったぞ」
「ダンジョンってなんだ?」
この世界ってダンジョンとかあるのか……
ほんと、ゲームの世界みたいだな。
「ゲームと同じと考えりゃいいんだよ。階層事に沢山の魔族がいて最深部にはボスがいる。ボスを倒すとレアなものが手に入るらしいぞ」
「レアなもの? 例えばなんだ?」
「そうだな……昔に聞いたのだと死んだ仲間を蘇生させる薬草とか、スキルを追加させる書物とかだな。難しいダンジョンになればなるほどレアになってくらしいぞ。ダンジョンはクリアされたら消えちまうんだけどな」
「なるほどな〜」
つまり、ダンジョンをクリアすればレアアイテムが手に入ると言うわけか……
ん? だったらダンジョンに入ってナナの呪いを解くラッキーアイテムとかが手に入るんじゃないか?
「ありがとな山下! いつか飯でも奢ってやるぜ!」
「ん? お、おう!」
そうと決まれば明日にでもダンジョンに行くか!
俺は意気揚々と宿に戻っていった。
俺はダンジョンの事をキュカと二ーファに話すと———
「無理よ」
「なんでだよ! 可能性があるなら行くべきじゃないのか?」
「キュカはまだしも、雑魚ニートを連れて攻略出来ると思ってるの? 廃墟の時のスーパーパワーを常時発動させてから言って欲しいわね」
確かに正論だ……
自分でもなんでステータスが上昇したのかわからないしな。
その隠しスキルとやらが分かればいいんだがな。
「それに、お医者さんが来るのだって一ヶ月後よ? とりあえずナナちゃんの身体には一切異常がない限りかなり危険だと思うわよ」
俺は久しぶりに二ーファが真面目な話しをしてるのに感動し、涙目になっていた。
「危険ではあるが、私はご主人について行くぞ」
キュカは決心したように言う。
仲間思いで良い奴じゃないか。
と思ったら
「だから、ご褒美を所望する! 私の言うことを何でも一つ聞くことだ!」
ただ単に欲望に忠実な変態でした……
俺の感動した気持ちを返してっ!
「はぁ……キュカが言うなら私もついて行くわよ。ニートはせいぜい足を引っ張らないでちょうだいね。ちなみに私はお金が欲しいわね」
「はぁ〜……わかったよ! ダンジョンを攻略したらその通りにしてやるよ!」
俺は少し葛藤したが、ナナが早く良くなるならこの位の代償は安いもんだと思い言葉にする。
「じゃあ、明日から行きましょ? 今日は準備して明日の朝九時あたりにもう一回装備を確認しておくと言うことで。私はダンジョンの情報でも集めてくるわ」
「おう、任せた」
そう言うと二ーファはさっさと行ってしまった。
「さて、俺達も準備をするか」
「そうだな」
そう言うと俺たちは黙々と剣の手入れやら、防具の手入れを始めた。
剣や防具の手入れは旅の途中に二ーファから教わったのである程度は出来る。
「そういえば、お前のして欲しいことってなんだ? ビンタとかでいいのか?」
先程、キュカが言った事が曖昧だったので聞いておく。
二ーファには銅貨一枚を贈呈するつもりだ。
「流石にドMな私でもそれはもったいないかな……あれ、やっぱりそれでも良くなってきたかも」
迷っているのかと思ったら、急にハアハアし出すキュカ。
「まあ、そこまで酷いのはやめてくれよ?」
「それは大丈夫だ、ご主人」
二人で笑い合いまた、お互いの作業に戻る。
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