第17話 いないようないないような感じだな

 教会に行った俺達が廃墟に着くと、待っていたのは先程の怪しげな占い師の人だった。

 怪しげな占い師は苦しそうに寝ているナナを、お姫様抱っこの様にして運んでいた。


「ちょ、ちょっと早くない? ちゃんと教会に行った?」

「もちろん行ったさ。で、なんでおまえがナナを抱き抱えているんだ?」

「ちょっと落ち着こう? 私は——」

「いや、とりあえずぶん殴ってから話し合おうじゃないか」


 俺の言葉にビビったのか、占い師は鍵で封鎖されてる廃墟の扉を蹴り破り、一目散に廃墟の中に逃げていく。


「あ、待てって! 行くぞ二人とも!」

「ねえカズト、この廃墟すっごい不安なんですけど? 壊れる三秒前って感じに見えるのは私だけ?」

「安心しろ二ーファ、私もそう見える」

「お、お前ら……!」


 呆れた俺は二人の襟を掴み強引に廃墟に入って行った。

 廃墟の中はすでに至る所が腐っており、木でできた柱なんか触っただけで今にも崩れ落ちそうなくらいボロボロだった。

 少し奥まで入って行くと先程逃げた占い師がナナを抱っこし待ち構えていた。


「もう逃げられないぞ! このロリコンめ!」

「ロリコンがロリコンにロリコンって言うなんて頭が痛くなりそうだわ」


 二ーファは考える人みたいに手を顎に当ててるが寛大な俺は無視してやる。


「わ、私はロリコンじゃないぞ! それに私たちは知り合いじゃないか!」

「はぁ? 嘘をつくならもっとマシな嘘をつけよ!」

「嘘じゃない! この顔を見てって!」


 占い師はそう言うと、深めの帽子を下に叩きつけ俺を睨んだ。


「——誰?」


 その占い師は見覚えのありそうで無さそうな、どこにでもいそうな感じの女の子だった。

 異世界ではなく、日本でいう普通の女子って感じだった。


「えぇぇ!? 忘れちゃったのぉ!?」

「心当たりがありそうで無さそうな感じなんだが……」

「この人、転生者なの?」

「うーん、俺と知り合いって言うと転生者なのかもな。でも俺はこんなやつ知らんぞ?」


 多分、転生者なのだろうな。

 こういうやり口は地球で言うと、オレオレ詐欺にそっくりだからな。


「私は、鳥羽美海よ! 同じクラスだったじゃない!」

「あーはいはい、いたようないないような感じだな。正直俺、あまり学校行ってなかったしな」

「流石ニートね、学校に行かないなん——うにゃー! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」


 二ーファがいらない事を言うので、こめかみを拳でグリグリしておく。

 そういえば、鳥羽美海って聞いた事あるな。確か、俺のクラスの学級委員になれなくて泣いてたやつだっけ?

 というかもっとギャルっぽかった気がするんだけど。

 とりあえず質問しておくか。


「高二の時のクラスは?」

「一組」

「高校名は?」

「明日田学園」

「お、おぉ……ドン引きするレベルであってるんだが……」

「当たり前でしょ! 同じ学校だったんだから!」


 彼女が怒鳴り散らすと廃墟が軽く揺れる。

 崩れる予兆を示しているかの様に天井からパラパラと砂やホコリが落ちる。


「な、なぁ、まずはここから出ないか?」

「なんで私がここにしたと思う? それはね、逃げ場を無くすためよ。目が覚めたら知らない所に来て、怖くて道を訪ねようとしたら見た事もない獣に襲われるし、散々だったわ」

 今までの徒労を歯を食いしばる様に言う彼女。

 キュカは少し怖くなったのか、出ることを提案するが、拒否されて俺にしがみついてる。

 牢獄に転生させられるのって良かったのかもね。もしかしたら幸運なのかもね。うん。

 というか、転生させられた事が分かってないのか?


「お前って神に会ったか?」

「神ぃ? 夢の中でなら会ったけどあんなのが神とか信じられないわね」


 ごもっともでございます……

 俺もあんなのが神とか思いたく無いもんな。わかるわかる。


「私が求めるのは情報よ。ここがどこなのか、どうしたら帰れるのか知りたいだけなの」

「それで幼女を攫ったと」

「幼女を強調するな! 朝っぱらからそこのケモ耳女とイチャついてるゲス男に言われたく無いわよ!」


 い、いつ見られたんだ……?

 というかストーカーでロリコンとか、もう手が付けられないな。


 そう思った時、廃墟の崩壊が始まった。

 鳥羽の後ろの柱が折れ、ナナを抱き抱えている鳥羽もろとも潰そうとしていた。

 まずいっ!

 そう思うと、普段では出せない様な速さで柱に向かって走り、柱を蹴り倒した。


「二ーファとキュカは表から脱出してろ! こっちは裏から回って出る!」

「分かったわ!」

「気を付けてな! ご主人!」


 貧弱ステータスの俺の行動に驚いた顔をする二人は、俺に言われると走って外に出ていく。

 さて、俺達も脱出しなきゃな。

 寝ているナナと何も出来なさそうな鳥羽を両手に抱えながら、足で木を蹴飛ばし裏へと進んでいく。

 廃墟の癖に無駄に広いな。


「う、うぷ、お腹の衝撃がヤバい」

「わがまま言うな。助けてくれるだけでもありがたいと思えって」

「う、うぷ」


 吐きそうな声で返事をする鳥羽を見るとまだ元気そうだな。

 何故か普段よりかなり動きやすいのは多分ステータスが上がってるせいだろう。

 たまに見ると格段と上がってるが今回はマジで助かったな。

 テンポよく進んで行くと裏の扉があった。

 運良く木の扉だったので蹴り飛ばし外へと避難する。

 後は二人とも無事だといいんだがな。


 そう思った時、

「ニートにしては頑張ったじゃない」

「流石、やる時はやるご主人だな」

「はぁ、良かったよ。何故かまたステータスが上がっててな、それで助かったんだ」


 一足先に脱出し、裏口に来てた二人に後ろから声をかけられる。

 それを聞いた俺は、ナナをキュカに預け体力が尽きた様に座る。

 すると廃墟が完全に崩壊し、文字通りぺちゃんこになってしまった。


「ほわゎゎゎ……!」

「おお〜、かなりぺちゃんこになったな」


 廃墟がぺちゃんこになり、恐怖で変な声をあげながら涙目になる鳥羽。

 キュカはマジマジと廃墟を見るなり感想を言っいている。

 まあ、とりあえず全員無事だから一件落着かな?



  ▽



 鳥羽が泣き止むと、鳥羽はこの世界に来てからの事を話した。


「この世界に来る前に真っ白な空間みたいな所に、チャラい神を名乗る男がいたのよ」

「それは俺も同じだな」


 まだ鼻声の鳥羽だが、普通に話してくれている。


「その男がウザかったから、だんまりをきめていたらいつの間にか外にいたのよ」

「その時に何か説明されなかったのか?」

「わからない、ずっと無視してたから……」


 シュンとする鳥羽。

 チャラ神もいつものノリで話してたのが想像出来てしまうのが少し悔しい。


「鳥羽、辛いとは思うがお前は死んだんだよ」

「え?」

「お前は地球で死んだんだ」

「や、やっぱりそうだったのね……なんとなく分かってたいたけど、なかなか実感が持てなくて……」

「まあ、なんでもいいさ。これからどうするんだ?」

「適当に働くわ。この世界の事を知らなきゃならないし、勉強しなくちゃだしね」

「そっか、頑張れよ」


 少し笑顔になる鳥羽を見てると俺も笑顔になってしまう。

 日本にいた頃はかなりギャルっぽい雰囲気のメイクだったので、その面影が残っている感じも僅かにあるのが分かる。

 鳥羽は手を降って去っていく。


「ねえ、カズト」

「なんだ?」


 清々しい気持ちで、かつてのクラスメイトを送り出した俺に二ーファが聞いてくる。


「結局、あの子はお咎めなしなの?」

「あ」


 完全に忘れてた。

 まあいいか、ナナを取り戻せたしな。

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