第16話 捨てられて喜ぶドMは三流だな

「おい、ご主人! 起きろ!」

「な、なんだ!? 地震か!?」


 寝てると朝日と共に、下着姿のキュカが映り込んできた。

 肩を揺らされながら起こされたので一瞬地震かと思ったが違かったらしい。

 いつもは俺が先に起きるのだが、今日は珍しくキュカが先に起きている。

 前かがみになってるので下着に隙間ができ、胸の山頂が見えそうで見えないのがもどかしい。


「地震じゃない、ナナがいなくなってるんだ!」

「どっかにでも出かけたんじゃ無いのか?」

「昨日の様子を見ててそんな事が言えるのか?」

「……そうだな、とりあえず探しに行くか。ところで、お前そのままで出たのか?」

「そうだが?」


 当たり前だ、とでも言いたそうな顔でキョトンとした顔をするキュカ。

 変態はいつでも変態なんだな……

 俺とキュカは着替え、二ーファの部屋に向かった。


「おい起きろ二ーファ!」

「いやああああ! ……え?」


 俺にたたき起こされた二ーファは一瞬驚いたような声を出すが、すぐにとぼけた顔をする。


「ナナがいなくなったらしいんだ、探すのを手伝ってくれ」

「あ、そういえばナナちゃんなら、誰か知らない人に連れていかれるのを見たわよ」

「ほ、本当か! ……いや、ちょっと待て、なんで見てたんだ?」

「ん? 夜にお花摘みに行こうとしたら、知らない人が入ってきたんだけどね、ナナちゃんの居場所を聞かれたから教えてあげたのよ。それから寝ぼけてよく覚えてないけど、ナナちゃんがお姫様抱っこされて連れていかれるのを見たわよ」


 それを聞いた俺とキュカは頬をピクピクさせ、怒りを堪えていた。

 こいつにはマジで説教でもしないとダメだな。


「なあ、キュカ。ナナを探す前に二ーファの躾からした方がいいと思うだ」

「そうだな、ご主人。いつもなら私にも躾て欲しいところだが、今回は別だな」


 二ーファが後ろにジリジリ下がるが、俺達はその間を詰めるようにジリジリと前に出る。


「ね、ねえ、二人とも? まずはナナちゃんを探すのが先かなって思うんですけど? ちょっと、目が怖いわよカズ——」

「行け! キュカ!」

「ギャ—————!」


 二ーファのお仕置きが終わった俺達は、街で聞き込みをしていたが、犯行があったのは夜だったため目撃者は一人もいなかった。

 何をしたかはここでは言わないでおこう。ご想像にお任せしますってやつだ。


「美少女にギャーギャーなんて言わせる人は初めてだわ」

「全部お前のせいだろうが! 次はもっと酷くするからな。あとお前は美少女じゃない」

「なあご主人、次から私も混ざっていいだろうか? 逆に二ーファと交代制でもいいんだが」

「ほんっとお前はブレねーな! そろそろ捨ててきてやろうか!」

「捨てられて喜ぶドMは三流だな」

「そういうプレイじゃねーから!」


「ちょいと、そこのお前さん」

「あぁ?」

「ひ、ひぇぇっ」


 俺が激怒してると、横から帽子を深めに被った人に話しかけられた。

 妙に声が変に上ずってる気がするが、そういう声なんだろう。

 流れで怒りっぽく返事してしまい、リアクション芸人並にビビる謎の人。声的に女性っぽいが顔が見えず口元が見えるだけなのでよく分からないな。


「ちょっとカズト? 怖がっているじゃない。もっと落ち着いて話しましょうよ」

「いや、お前のせいだからな? ……すまなかった、なんか用か?」

「は、話しを少し聞いてしまったのですが、お困りのようですね」

「あぁ、仲間が一人連れ去られたみたいでな……」

「だったら、私の魔法で占ってあげましょう」

「ほ、本当か!?」

「ですが、タダではありません。きちんとお代は頂きますよ」

「銀貨一枚とかでいいか?」

「ぎ、銀貨? え、えぇ、それで構いません」


 俺は銀貨を渡すと、謎の人は変に銀貨の裏表をなめるように確認する。

 よほど疑り深い正確なんだな。

 話す時もかなり噛み噛みだし、人と話すのが苦手なのかな?


「でもこんな所に占い師がいるなんて珍しいわね。珍しい職業だから個人でお店を開くといいと思うのに」

「そ、そうなんですか……じゃなくて! わ、わ、私は困ってる人の役に立てればいいんですっ」

「見てみろ二ーファ、お前もこの人の様な他人を気づかうことの出来る人に育ってくれよ?」


 俺のありがたい言葉を二ーファは妙に上手い口笛を吹きながら無視する。

 イラッときたので二ーファの鼻を摘み、上に引っ張りあげると「うにゃにゃにゃ!」と絶叫する。


「ご主人……私にもそれを」

「やりません」

「こ、これも新しいプレイか……!」


 二ーファの苦しむ姿を見たキュカも顔を赤らめて言うが却下だ。

 悲しいかな。変態はどこまでいっても変態みたいだ。


「で、では、見てみましょう」


 俺らの様子に驚いたのか謎の人は慌てながらも、水晶玉っぽいのを取り出し、凝視しながら手をかざす。


「ムムム、まずは南側の教会に行ってみるといいでしょう。そこにいなかったら、東側の廃墟に行くといいでしょう。そこにあなたの探す人はいるでしょう」

「南側の教会か……ここからだとかなり遠いな。先に廃墟の方に——」

「だ、ダメですっ!」


 廃墟に行こうとした俺達は謎の人に呼び止められる。

 先程とは違っていきなり大きな声で呼び止められたので思わず肩がビクッとする。


「い、今廃墟に向かうと、と、とても悪い事になると出ました。な、な、なので先に教会に行かないとダメなんです!」

「お、おう、わかったわかった。じゃあ先に教会にでも行くか」


 俺が言うと二人とも頷く。

 安心したように謎の人も落ち着いた様にため息をつく。

 よほど酷い未来が見えたのか?

 まあ、急がば回れとも言うしな。ここは大人しく、助言に従っておこう。



  ▽



「それにしてもさっきの人、かなり胡散臭かったわね」

「まあな。だけど全く情報が無いんだからしょうがないだろ? 適当に探していてもこの広い街じゃ絶対見つからないしな」

「それもそうね、あ、教会が見えたわよ」


 先程の謎の人について色々と話していると教会に着いた。

 どこにでもありそうな、普通の教会だな。


「私は教会の周りを探してみるから、二人は中をお願いね」

「オッケー、任せたぞ」


 そう言うと、二ーファは足早に教会の裏へと走っていく。


「ちっ……いなさそうだな」

「そうだな、次は廃墟に行くとしよう」


 二人で教会の中を探すが、人がいるような気配すらなかった。

 俺が舌打ちしながら言うと、キュカもどこか呆れた様子で返事をしてくれる。


「なあ、ご主人」

「ん?」

「私も、ナナの様に攫われたら探してくれるか?」

「大丈夫だ。お前みたいなド変態は誰も攫わないからな」

「ご主人、私は本気で聞いてるのだが」


 教会から出ようとすると、キュカはずいっと顔を近づけて俺に聞いてくる。

 たまにこういうシリアスっぽい雰囲気になると、ドキドキさせられるから困る。


「ま、まあ、そうだな。仲間なんだから、そりゃあ必死に探すぞ」

「ご主人、私は仲間より奴隷の方が嬉しいのだが」

「はぁ……真面目に返事した俺が馬鹿みたいみたいだ」

「フフフ、そういうなご主人」


 俺がため息をつくと、キュカはスキップするように先に行く。


「ほらご主人、早く行くぞ。さっさとナナを見つけないとだな」

「そうだな、早く行こう」


 キュカは気分が良くなったようにニコニコとご満悦だ。

 そんなキュカを見てると少し焦ってた気持ちが和らいだ気がした。

 とりあえず、早くナナを見つけなきゃな。

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