第15話 人のご褒美を奪うなんて無粋な真似は出来ないさ

 ティンジェルに着きナナとキュカには、宿探しを頼んだ。

 しばらくはこの街の周りで経験値を溜めようと決めてたので、長期滞在の出来る宿を指定しておいた。


 しばらく二ーファと二人で街を歩いていると、掲示板に目が止まった。


「へぇ、ここでもあの殺人事件が起こってるんだな」

「話しによると、今じゃ起こってない所の方が少ないらしいわよ」


 俺が呟くと二ーファが答えた。

 アホな癖に、地味に情報網が広いのは、天は二物を与えずってやつだな。妙に納得できるな。


「まあ今じゃ、王城で頻繁に起きてるらしいからな。といっても、一ヶ月に一人死んでるらしいからな」

「はやく捕まるといいわね。アンが死なないか心配だわ」

「え?」

「何よ?」


 二ーファの発言に俺は少し驚く。


「お前、アンの事嫌いじゃないのか?」

「私がアンの事が嫌いかだって? 嫌いだったら元から旅なんて行くわけ無いじゃない」


 へぇ、思ったよりこいつはこいつなりに仲良くしてたんだな。


「それにね、貴族の家に遊び感覚で泥棒するのって楽しいしね。普通の貴族だと死刑にされてもおかしくないしね」


 多分照れ隠しなんだろうな。

 そうじゃなきゃ、感心した俺が恥ずかしいだろ?

 多分、アンも二ーファの事を心配してたし喧嘩するほど仲がいいってやつだな。


「おいご主人、宿を見つけたぞ」


 しばらく街を散策しながら歩いていると、宿を見つけたキュカがいた。


「ナナは?」

「宿で待ってるぞ」

「そっか、じゃあ行こうか」



  ▽



「なあ、なんで三部屋しか借りてないんだ?」

「仕方ないだろう?長期滞在できる部屋は三部屋しか無かったのだから」

「本当か?ナナ」

「一応、本当ですよ」


 一応って部分が気になるが、とりあえずナナが言うなら本当なのだろう。

 二ーファはどっか買い物にいったしうるさのが一人減ってよかったよ。


「じゃあ俺は一人で寝るから、キュカは二ーファかナナと相部屋でもしてくれ」

「なっ!ご主人、いくら私でもそのプレイは興奮出来ないぞ」

「プレイを言ったんじゃねーよ! お前と一緒に寝ると二ーファとナナに変な誤解をまねくんだよ!」

「いいではないか、ご主人も私と同じドM街道に——」

「行かねーよ!」


 二人で騒いでいるのに、ナナはボーッと虚空を見つめるような顔をしていた。


「大丈夫か、ナナ?」

「あ、はい、大丈夫です。旅で疲れちゃったかもですね。今日はちょっと早めに寝させてもらいます」

「あ、あぁ。何かあったら声かけろよ」

「はい、おやすみなさいです」


 ナナは元気が無さそうに部屋を出ていく。

 少し心配だな。寝て治ればいいんだが。


「ご主人は優しいな」

「ん? どうしてだ?」

「ふ、なんとなくだ」


 ニヒルな笑い方がイラっときたので、とりあえずビンタしといた。興奮されたけどね。


 二ーファが戻って来たので夕食を食べに下の階に行く。

 ここの宿は朝と夜の飯を出してくれるので、とても助かる。

 ついでに風呂付きなので、とても便利だ。


「ナナちゃんは?」

「疲れたから寝るってさ」

「ふーん、ニートの方が体力ないと思ってたんだけどね」

「……お前後で覚えてろよ?」

「ねえキュカ、後で私を助けてくれない?」

「ふっ、人のご褒美を奪うなんて無粋な真似は出来ないさ」

「私はドMじゃ無いんですけど」


 なんだかんだ話している内に、俺たちは夕食を食べ終わった。

 風呂も部屋に付いているから多分二人と会うのは明日になるだろうと思ってた。

 そう、思ってたんだ。


「なんで俺の部屋にいるんだよ」

「いいじゃないかご主人、それに、二ーファの部屋の散らかしっぷりは、病的なまでに酷すぎるから正直行きたくないんだ」

「我慢しろ」

「そういうプレイは好きじゃない」

「お前のプレイって都合良すぎないか?」

「それもプレイのうちだ」


 キュカのドヤ顔にイラッとしたのでビンタをしておく。

 もちろん、また興奮されたけどね。


「いいか? 絶対入ってくるなよ?」

「分かっているって、ご主人が入ってから入ればいいんだな?」

「違うから! 俺が入った後に入れって言ってるの!」

「つまり、ご主人が入ってから入ればいいのだな? 何も問題ない」


 問題大ありですよ。

 全裸の俺は風呂場から顔だけを覗かせて、キュカに言っておく。


「そうだな、じゃあ、ナナの様子でも見てきてくれよ。合鍵ならそこに置いてあるからさ」

「まぁ、そういう事にしておいてやろう。そういうご主人も、嫌いじゃないからな」


 しばらく風呂に浸かり、風呂から上がるとステータスカードが目に付いた。


「はぁ? なんでまたステータスが上がってるんだ?」


 意味の無い所で上がってるステータスカードを睨みつける。

 魔物戦うと弱体化する能力なのか? つかえねーじゃねえかよ。

 まあ、隠しスキルも、そのうち分かるだろ。

 上がったとしても上級の魔物を倒せるか、倒せないか位だしな。今の俺じゃ下級すら倒せるか倒せないかだけど。

 ボーッと考えていると、ナナの様子を見に行ったキュカが戻ってきた。


「ナナの様子は特に異常は無かったぞ。私が入っても気付かない位ぐっすり寝ていたな」

「そっか、ありがとな」

「お、おぅ」


 急にそわそわするキュカ。


「なんだよ」

「い、いや、そういえばありがとうなんて言われたこと無かったなって思ってだな……急に恥ずかしくなったのだ」

「お前は普段から恥ずかしいから大丈夫だぞ。さっさと風呂でも入ってこい」

「ご主人もご主人で、中々のスルースキルだな」

 キュカがニヒルに笑い風呂に行く。


 あれから、風呂に入って二時間が経った。

 遅いな……

 もしかして……風呂で寝ちゃったとか?

 軽く気になったので風呂場のドアの前で声をかけてみる。


「おい、キュカ大丈夫か?」

「……………」


 返事がないただのしかばねのようだ——ってそんな事やってる場合じゃない!

 慌てて扉を開けると、ぐったりとした様子のキュカがいた。

 よかった、溺れて無かったみたいだな。

 見た感じだと、のぼせているだけに見えたなのでキュカを風呂から出し、濡れたままベッドの上に寝転がらせた。

 もちろん、上から布を一枚被せましたよ?


「んあ……」


 しばらくパタパタと仰いでやってるとキュカが起きた。


「おう、おはようだな。いや、夜だからこんばんはだな」

「……ん? 私は風呂に入ってたはずでは」

「のぼせてたんだよ。二時間も入ってたからびっくりしたぞ」

「ご主人が後から入ってくると思って待っていたのだが……一時間を超えた当たりから新しい扉を開いた感覚があってだな……」

「はぁ……変な扉を開かなくてよかったよ」


 死の門はドMでも感じさせるらしい。


「まあ、何にせよ助けてくれてありがとな、ご主人」

「お、おぅ」


 普段見せない様な屈託のない笑顔で言わたので一瞬たじろいでしまう。

 普段からそういう風にしてればいいのに。


「ん〜? ご主人はこういうのに興奮するのか〜? 純愛主義なのか〜?」


 俺のたじろいだ様子を見てキュカはニヤリと笑う。

 いつもの様子に戻っちゃったよ。


「興奮はしないが普段のお前よりは、さっきの方が万倍マシだな」

「ご主人、Mというのは跳ね除けられると快感を覚えるのだぞ?」

「だからなんだよ」

「つまり、今の発言はご主人はMでもイけるって——あふっ!」

「なわけねーだろっ! 過大解釈どころじゃねーぞ!」


 怒髪天をつくような発言をするキュカをビンタしておく。

 やっぱり変態は腐っても変態だな。

 まあ、こういうキュカも嫌いじゃ無いけどな。

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