第12話 実は私……Mなんだ…

 三時間ほど、昨日買った奴隷の女の子の部屋で俺は一人、部屋に置いてある本を読んで待っていた。

 ニーファとナナは、旅に出る前の準備として、買い物に出かけさせてある。

 俺は呑気に本を流し読みしていると、突然奴隷の女の子が飛び起きた。


「うっ……?」


 起きた彼女は、自分が寝ている間に何が起こったのかわからない、といった顔をしていた。

 やはり起きたばかりでも昨晩の腹痛が治って様だな。うんこの我慢のしすぎらしいんだけどな。


 俺は薬を渡し、

「これ飲んでトイレに篭ってこい。多分良くなるから」

「え、あ…うん」


 俺のハイパー紳士な対応に驚いてるな?早くも変態ニートなんて呼び名が着きそうだから気をつけなきゃな。


 彼女は俺を警戒してるようだったが、薬を飲むなりトイレに入っていく途中、

「あの…一旦部屋から出ていってくれると助かるんだけど…」


 …俺の紳士さもまだまだ足らなかったんだな。


 俺が部屋から出ていって数分経つと、

「ううううううぅぅぅ…!」


 部屋から出ているとはいえ、女性が出すような声ではなさそうな呻き声が聞こえた。


 少し心配になった俺は部屋に入り、

「だ、大丈夫か?」

「!?馬鹿!勝手に入ってくるな!」

「…ごめん」


 いくら奴隷とはいえ、完全に俺が悪かったので肩を落として出ていく。

 部屋の外で待っていると、ニーファとナナが買い物から帰ってきた。


「どうしたの?寝てる女の子にセクハラしようとしたら追い出されたの?」

「失礼なやつだな、俺は女の子のために自分から部屋を出た紳士なのにな」

「自分の事を変態って自覚持ててよかったじゃない」

「はいはい、出会い頭に下ネタ吹っかけてきた人はどこの魔人族でしたっけ?」

「この話は終わりにしましょ?というか、あの子を見てなくていいの?」

「さっき起きたから薬飲ませて今はトイレに篭ってると思うぞ」


 俺が言い終わると同時にドアが開いた。

 便秘少女がドアから顔だけを出して言った。


「おまたせし……なんだ?増えてるじゃないか」

「もう入って大丈夫か?」

「あ、どうぞ」


 何故か俺達が客人みたいな挨拶になってるが、とりあえずスルーだ。


「俺は真鍋一隼、こっちのアホっぽいのがニーファで可愛い方がナナだ」

「お兄ちゃん、初対面なんだからふざけちゃダメですよ」


「私はキュカだ。よろしく……それで、なんで今回私なんかを奴隷に選んだんだ?」

「お腹を抱えていたからな、苦しそうな可憐な女の子を見捨てるなんて出来ないからな」


 俺は白い歯をキラっと輝かせるように爽やかに微笑んだ。


「ねえナナちゃん、ニートってなんでこう残念なのかしらね。可憐な女の子ならここにいるのに」

「お兄ちゃん、かっこいいですよ!」

「ナナちゃん?!」


 外野がうるさいが、今はキュカが優先だ。


 キュカは俺の言葉を聞くと、

「なあご主人、私は過去に四回ほど、私の飼い主を殺した事があるのは聞いたのか…?」

「あぁ、聞いたぞ。だけどそれだけじゃ、お前の事なんてわからないだろ?話したくなければそのうち話してくれればいいさ、まずはお互いに信頼関係を築きたいんだ」


「ねぇナナちゃん、私初めてカズトと出会った時、疲れたから寝るとか言って私の事を無視したのを思い出したわ」

「お兄ちゃん、最高ですっ!」

「えっ?!ナナちゃん?!」

 ハンカチを目に当てるナナに驚く二ーファ。


 キュカは目をつぶり少し考える素振りをし、

「ご主人を信じよう、私も隠している事を一つ話さなければならないしな」

「なんだ隠し事って」


 まさか、さらに危険な過去とかあるとか言うのでは…?


 一拍おいたキュカは、

「……実は私はだな…」

「な…なんなんだ?」

「えっと…すまないニーファとナナには一旦出ていって貰えるか?危険な事はしないと誓うから、頼む」


 真剣な顔でキュカは二人を見る。


「まあそのくらいだったらいいわよ」

「了解ですっ」

 といい、二人はでていく。


「で、隠している事ってなんだ?」


 深呼吸をしたキュカは真面目な顔になり、

「実は私…」


 顔を赤らめた彼女は意を決したように、

「実は私……Mなんだ…」


 俺はドアを開け、

「入っていいぞ」と、二人に言った。


「ねぇ、キュカちゃん顔真っ赤何だけどカズト何かしたの?」

「何もしてないさ、キュカはMですって告白されただけだ」


 キュカが間抜けな声で「ちょっ?!」とか言ってる。


 呆れたようにニーファは、

「なにそれ」

「俺も、なにそれって感想しか思いつかないんだが」


 俺も呆れたように返事をする。

 やっぱこの世界の可愛い女の子って変わり者ばかりなんだな…。


「わ、私はただのMじゃないぞ!愛の無い暴力には感じない女だぞ!」

「なあ、ニーファ、あそこの店って返品とかって大丈夫だっけ?」

「ちょっ、ご主人!ほんとに!ほんとにやめてくれ!」

「このパーティーの変態はお兄ちゃんだけでお腹いっぱいですよ」


 ナナすら見捨てるキュカの変態度であった。

 というか俺すら見捨てられてる気がするんだけど。テクニカルに、変態呼ばわりされてるんだけども。


 キュカは諦める事なく俺の足にしがみつき、

「せっかくいいご主人を見つけたんだ!前までの四人はやばい奴だったから殺したんだ!」

「お前もヤバいって!初対面でマゾ宣言するとかヤバいって!」


 足をブンブン振り回すが一向に離す気配を見せないキュカ。


「はぁ…はぁ…!」

「興奮してんじゃねーよ!早く離れろって!」

「今のは興奮じゃなくて息切れだ!それにただ足の甲を押し当てられてもM的に嬉しくないからな!踏むなら足の裏で踏んで頂こうか!」

「俺はSじゃないから!そういうのは期待しないでくれ!」

「大丈夫だ、私が私好みのご主人に仕立てあげてみせるからな!」


 それじゃ奴隷と主人の関係が逆転してるじゃん!

 二人とも助け——って、いないじゃん!疲れちゃったのかなー?


「とにかく、一旦どいてくれないか?」

「そういって言いなりになる私だと思うか?」

 と、言うとばっと立ち上がり俺のに噛み付いてきた。


 まずいっ!と思ったが、思ったよりあまり痛くなく、歯型がつく程度だった。


「な、なんだ?」

「ふふん、ご主人、この歯型の跡を説明すれば二人になんて言い訳が出来ると思う?」

「どうなるんだ?」

「いかがわしい事の最中に私が甘えて噛んだと言えばご主人の人生も終わりだ」


 ニヤリと勝ち誇ったようにキュカは笑う。

 流石に、人生が終わりはしないが変態疑惑が加速してしまうな…。


 俺は諦めたように、

「はぁ…わかったよ。お前を選んだのは俺だしな。これからよろしくなキュカ」

「あぁ、家事全般は苦手だがこれからよろしくな。ご主人」


 さらに騒がしいメンバが加わり、俺はぐったりしたが自然と嫌な気持ちはなかった。



  ▽



「ご主人、そろそろ夕方だぞ」

 寝ている俺を起こすキュカ。

 そうだった、昨日は己の中に住まう邪心との戦いで一睡も出来なかったから仮眠をとっていたんだっけ。

 うーんと伸びをすると、

 ——ふにょん。

 そんな擬音でもしそうな感触が手から伝わった。

 地球にいた時、童貞で死ぬ俺に父親が、おっぱいマウスパッドの素晴らしさを教えてくれたがそれとは全く違う感触だった。


「おいご主人、人の胸を触っておいて無反応とは逆に失礼だぞ」

「あ、あぁ、ごめん、そこにおっぱいがあってだな」


 急な初体験に困惑する俺は上手く日本語が喋れていない。

 なんで下着姿なんだ?とか疑問にすらかんじていられない。


 ニヤニヤするキュカは、

「で、感想は?」

「感想と言われても難しいな…昔、おっぱいに似たようなものに触った事はあるが、本物とは格が違うって思ったな」


 そう、おっぱいとはそこにおっぱいがあるからおっぱいという。同じ柔らかさであろうと、同じ形であろうと、おっぱいと同じ何かであろうとそれはおっぱいじゃない。おっぱいとは、おっぱいなのだ。


「ご主人、声に出てるぞ」

「おっと、すまない」

「まあ、そこまで言われると悪い気はしないがな、むしろもっと触っていいんだぞ?」


 ドーンと胸を張るキュカに俺は、

「い、いいのか…?」

「んなわけないだろう、ニーファ達が外で待ってるから早く準備をしてくれ」


 手をワナワナさせる俺に、キュカは笑った。

 俺はキュカと着替えていると、ふと先程の疑問を思い出した。


「なぁ、なんで俺が起きた時お前は下着姿だったんだ?」

「ん?ご主人と一緒に寝ていたからだぞ?」

「え?同じベッドで?」

「同じベッドだぞ?」


 扉を開けると頬を膨らませたナナと冷ややかな視線を向けるニーファがいた。

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