第10話 初っ端から下ネタに走るのはやめような

「さて、アンが抜けた穴をどう埋めるかだ」

「アンの穴に埋めたい?」

「初っ端から下ネタに走るのはやめような」


 ナナがいかがわしい店に入るのを阻止した俺らは普通の宿にいる。

 領主からの支援金はかなり貰ってあるので、宿は三部屋借りてある。

 今は三人とも俺の部屋でこれからの話し合いをしてる。


「つまりだ、前衛で戦える人を確保をしたいんだ」


 俺はまだ経験値も無いのであまり戦えないし、ニーファも盗賊という職業上、前衛と言うよりサポートの方があっている。

 ナナまだ職業がわかる年齢じゃ無いがこの年で魔法が少し扱えるため、将来は俺のお嫁さ——じゃなくて、優秀な魔法使いでもなりそうだな。


「わかってるわよ、そうね、集める手段とすれば雇うかパーティーに入るか戦闘奴隷とかね」

「ほう、奴隷か」


 その言葉に少し俺はわくわくしていた。

 異世界の醍醐味といえば、奴隷もトップファイブに入るのでは無いのだろうか。

 地球ではすでに、奴隷解放宣言がされてるため奴隷などいないが、ここは異世界。奴隷として死ぬほどこき使おうが大丈——


「ど、奴隷さんを買うのなら優しくしてあげたいです…人が痛がってるのはあまり見たくないです…」

「そうだぞニーファ、何を言ってるんだ。奴隷でも優しく接する。そんな当たり前なことが出来る子だと俺は思ってたよ」

「え、私のせいなの?一言もそんな事言ってないのに私が悪いの?というか、もしかしてあなたロリコンなの?」


 俺はロリコンでは無いんだがな…巨乳よりかはちょっとばかし、貧乳の方が好きってだけだ。


「奴隷ってどこで買えるんだ?」

「ここで奴隷を売ってる商人は、なかなかいないわよ。もっと治安の悪い所なら沢山いるでしょうけどね」

「それじゃあ雇うしかないか」


 そこにナナが、

「さっき私が提案したお店に奴隷ありますって書いてありましたよ」


 んな馬鹿な。


「あの綺麗なお姉さんが沢山いる所か?」

「そうですよ、というかお兄ちゃん?あんな感じの女の人が好みなんですか?」

「よし、じゃあそこで奴隷を買おう!」

 ニーファは意気揚々という俺を無視し、

「ナナちゃん、このドスケベは私が見張っておくからここで待っててね」

「え?私は行っちゃダメなんですか?」

 ニーファは困ったように、

「あそこは大人しか入れないのよ」

「わかりました」


 何かを察したのかナナは静かに頷いた。


「あら〜、さっきのお兄さんじゃない」

「どうも」


 俺はニコニコと笑顔で先程の店に来た。ついでにニーファもいる。


「鼻の下が伸びてるわよ」

「俺が転生する前にいた動物の顔真似をしてるだけだ。だからやましい事なんて考えてないぞ」

「私はやましい事なんて、一言も言ってないんですけどね」


 ニーファが冷ややかな目を向けてくるが、別に今ここに来た目的はやましい事など一つもないから問題ない。


「今日は、なんの予定ですか〜?今の時間だったら可愛い子沢山いますよ〜」

「マジですか!…じゃなくて奴隷を買いたくてですね」

「いいですよ〜、じゃあ地下の方へどうぞ〜」


 俺たちは奥の方に隠すようにあった階段で地下に降りる。


「お兄さんは何の奴隷が欲しいんですか〜?性奴隷なら私でもいいですよ〜」

「ほへぇ?マジですか?」


 びっくりしすぎて変な声がでた。自分を奴隷にしてくれとかどんな痴女だよ…。でもこのお姉さんならありかも。


「冗談で〜す」


 お姉さんにクスクスと笑われる。

 ニーファの冷ややかな視線が後ろからザクザクささった。

 階段を降り終わったら扉があった。


「うっ…」

「この臭いはキツいわね」


 俺とニーファは鼻を抑えた。

 地上とは違い、地下はとんでもなく臭かった。

 何かが腐ったような感じの臭いだ。もしかしたら、それ以上に臭いのかもしれない。


「これでもマシな方ですよ〜。治安の悪い所だと〜奴隷さんはほとんど死にかけなんて事もありますからね〜」


 おっとりとした口調でとんでもなく怖いことをいうお姉さん。


「とりあえずお好きに選んで下さい〜値段はその場で決めますので〜」


 お姉さんは入り口で手をふる。


「じゃあ、決めるか…」

「えぇ…私も知ってはいたけどここまで悲惨だとは思わなかったわ」


 扉を開けると、とても静かだった場が一斉に騒がしくなった。


「俺を奴隷にしてくれぇ!」「俺はなんでもする!タダ働きでもなんでもするぞ!」「私ならなんでもします!朝から晩まで全てお世話するので助けてえ!」


 それはもう酷かった。ナナを連れてこないで正解だったと思った。

 誰もがここから出たがっていて、阿鼻叫喚し、己を主張し、誰もが俺らの気を引こうとしていた。

 そんな中、俺は一人の女の子に目がいった。


「あの子はどうだ?」

「奇遇ね、私も同意見よ」


 その子はこの騒がしい中、たった一人だけ声を出さないでいた。いや、苦しそうにお腹を抱えて横たわっていた、と言った方がいいのか。

 檻の端っこにはその人の特徴が大雑把だが書かれていた。


「この子獣人族ね、戦闘も大丈夫だし前衛職だからぴったりじゃない?」

「そうだな、この子にしよう。他の人達は元気そうだしな。なによりこの子が心配だ」


 俺たちは、お姉さんの所に戻り先程の女の子を指名すると、

「え〜とですね〜、その子ってかな〜りやんちゃな子なんですよ〜?歯には獣人族特有の毒がありまして〜今までに三人も殺してるんですよ〜」


 俺は少し悩むが、すかさずニーファが、

「大丈夫よ、その子でお願い」

「は〜い、わかりました〜とりあえず暴れないように、眠り草で眠らせておきますね〜」


 俺がずっしりと金貨の入った袋を渡すと、お姉さんは笑顔で女の子を薬で眠らせにいった。

 おっとりとした人だと思ってたけどかなり怖いんだな…。


 お姉さんが毛布にくるまり、眠らされた女の子を軽々とお姫様抱っこでこちらに運んできて、

「今は寝てますが〜起きたら危ないかもしれないので、気を付けて下さいね〜」


 寝てる女の子を俺は毛布を落とさないようにおぶってやる。


 階段を上がってる途中、

「奴隷用の首輪とかは、いりますか〜?」

「いや、大丈夫です。なんとかしますので」

「あらあら〜優しいんですね〜」


 クスクスと笑うお姉さん。小馬鹿にしたように笑うが見た目が綺麗なので悪い気はしない。

 それに、ナナに心配させるのは嫌だしな。


 店から出るとお姉さんは、

「今回は〜ありがとうございました〜。お兄さんは夜の時に来るのでしたらぜひ、私をご指名下さ〜い、たっぷりサービスしちゃいますよ〜」


 ニコニコと笑顔で手をふるお姉さん。


「ねえ、カズト。また鼻の下が伸びてるわよ」

「大丈夫だ、この子の胸が当たって興奮してるだけだから」

「なにそれ、アウトじゃない?」


 俺の回答にげんなりとするニーファ。


「とりあえず病院に行こうか」

「そうね」


 俺達は女の子を揺らさないよう、小走りで病院に急いだ。

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