第9話 お兄さんだけでも寄ってかない?

 牢獄を抜け出した俺らは、各々の荷物を探し出し牢獄を後にした。

 牢獄は洞窟内にあり、そこをキャンプ場としてたようだ。

 幸いな事に、洞窟からは王城の城壁らしきものが視認出来るくらい近かった。


「そろそろ王城だぞ」

「なんだかんだ長かったな」


 正直、アンとニーファの無駄な喧嘩が多すぎて時間がかかったようにしか思えないが、細かい事を気にしたら負けだ。


 門に着くと守衛らしき人が、

「通行証はお持ちで?」


 俺はもちろん持っていないので三人を見てみるが首をふるふると横にふる。


「持っていません、あとこれ、手紙を預かってます」


 守衛に手紙を渡すとすぐに開けて中身を確認する。


「通行証ありましたね。手紙の中に一緒に入ってました」


 流石はメイドさん。俺が王城でもたつく事を想定して通行証を渡してくれたんだな。

 ニッコリと笑う屈強な守衛さんは白い歯を輝かせて俺に手紙を返す。うほっ、いい男。


「じゃあ行きましょ!」


 ニーファは元気いっぱいに言うなり、走って先に行ってしまう。あ、盛大に転んだ。


「先に領主の所に行くか」

「え、なんで?」

「メイドがお前の職業を伝える手紙をお前に渡したそうだからな、多分さっき見せた手紙がそうだったんだろう」


 つまり俺は、自分でニートである事をさらけ出さなければならないと…。

 今度ばかりは流石メイドさん、とは言えないぞ…。


「アンが行ってくれないか?なんかお腹痛くなってきちゃった」

「大丈夫だ。領主の屋敷には回復師の職業もいるからな」


 心の痛みもやわらげてくれるんですかね。



  ▽



「よく来たな転生者よ、早速ではあるが職業の方を見せてくれないかな」


 領主は俺の立つ場所よりも、高い場所に取り付けられた高い椅子に座ってる。

 三人は待合室的な所で待ってるらしい。

 てか、いかついサンタみたいな風格の領主が出てきたな…。サンタって名前の方が覚えやすいかも。

 俺は渋々メイドさんに渡された手紙を渡す。


 領主は怪訝な顔をし、

「転生者よ、面白い冗談ではあるが、儂はあまりこういう事はなれておらんのだ。本当の職業はなんだ?」


 俺だってそう思うよ?これが面白い冗談ならいいのになーって何回思ったか。


 だからあえて言おう、

「それ、マジっす」

「はぁ…付き合ってられん、未使用のステータスカードを持ってこい」


 どうぞ、と渡されたカードに前と同じ様に血を一滴垂らす。


 それを見たメイドさんは困った様な顔で、

「あの…マジです」

 俺の職業って、メイドさんもびっくりしてマジです、とか言うレベルなのか。


「マジか…」


 領主もマジか…、なんて言ってるよ。

 いかつい顔の領主が今にも笑いそうな位口を緩ませてる。


「あの…もういいっすか?」

「プククク…あ、いや、待ってくれ。もう一つ話があるから少し…プクク、や、休ませてくれ」


 笑わないように努力してくれるのは嬉しいが優しさって時には暴力になる事を知って欲しい。


 領主が落ち着き、真剣な表情で、

「さて、転生者——いや、マナベカズトよ、この度はよく遠くから、この王城へ足を運んでくれた事に感謝をしよう」

「はぁ」

「急な話しではあるがしばらくアン・アンタルをここ、王城においといてほしいのだ」

「え、なんでです?」


 急すぎて話しについていけない。


「実はな、ここ最近妙な殺人事件があり、鑑定士の職業や探偵の職業を持つものが調べても犯人の足取りが掴めないのだ」

「それってつまり?」

「転生者である可能性が高いのだろう。もちろんマナベカズトで無いことはよく分かってお…いや、すまぬて、嫌味じゃないから」



 まあそりゃあそうだな。ニートだし。


「だから、強さだけなら1桁台に入るアン・アンタルがこの国を訪れたのは天の恩恵と言ってもいい」

「まあ、それは本人に言って下さいよ。俺が言うより領主様が言った方が何百倍も説得力があるだろうし」

「それはわかっておる、だがお主達はパーティーだろう?儂が言っても聞かぬのならリーダーのお前が頼りなのだ」

「わかりました」


 旅をしてまだ1週間くらいしか経ってないがアンが居なくなるかもしれないのはちょっと心苦しいな…


 しばらくして、アンが領主の前にくる。


 領主が先程の説明をアンにすると、

「うーむ…まぁ、人が死んでいるからな…仕方ないか。カズト達はどうなる?」

「人員を出すことは出来ないが、極力の支援をする事を約束しよう」

「わかった」


 アンは残念そうに目を閉じる。


 そして俺の方に向き、

「すまないカズト殿、まだ一週間しか旅をして無いが一度お別れだ、しばらく私は王城にいることになりそうだ」

「あぁ、とりあえずニーファが何かやらかしたら戻ってくるよ」

「ハハ…」

 アンは乾いた笑いをし、真面目な顔で、

「また、一緒に旅をしような」

「もちろんだ、こっちにもちょくちょく戻ってくるから安心してくれ」


 俺はアンと握手をして、領主の部屋から出た。


「カズト殿、そっちはお手洗いだぞ…」


 …この世界って俺に、恨みでもあるんですかね?



  ▽



「え?アンが抜けるの?」「アンさんいなくなるんですか?」


 俺は先程の事をニーファとナナに説明する。

 あと、屋敷を出る時に支援金をたんまりともらった。まるで親の仕送りを貰うニートとか考えてないからな?


「一旦、王城で調査みたいなのするだけだろ、よくわかんない殺人事件が起きてるみたいだしかなり警戒してんじゃないのか?」

「だったらしょうがないわね…」


 少し残念そうなニーファ。喧嘩するほど仲がいいもんな。


「これからどうするんです?お兄ちゃん」

 俺は地図を広げながら、

「そうだな、何日か休んだら西の方に行こうと思う、あそこなら魔族もそこまで強くないし経験値稼ぎにはいいと思ってだな」

「よし!じゃあ宿でも探しましょうかね!」

「こことかどうです?おっきなベッドがありそうです!」


 ナナが指さす先には綺麗なお姉さんが沢山いる店が。


 何かを察した俺は、

「そこはダメだって!すいません!ウチの子が粗相を!」

「う、ウチの子…!」

 ナナが何かボソボソ言うがそれどころじゃない。


「いいのよ〜、お兄さんだけでも寄ってかない?」

「い、いい今は遠慮しときますっ!ほら!行くぞ!」

「は〜い、いつか来てね〜」


 おっとりとした口調のお姉さんの声が、後ろで聞こえた。

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