第8話 この世で一番強い力は美少女の涙だ
「だから誤解だって!」
「ご、五回もキスしたのか…!」
「それも誤解だー!」
「五回なのか!」
気絶から目を覚ました俺はアンに、何故幼女にキスをしようとしたか、というニート史上最高峰の偉業について説明をしていた。
「で、でも私は嫌じゃなかったですよ…」
怒るアンにナナが慌てて付け加える。
地球だと職質されるレベルだ。
俺はナナの事を忘れてないので、どうやらキスは成功したらしいが何か納得がいかない。
忘れていた三日間の事は思い出せないがこれでナナの事を忘れずに済むだろう。
「はぁ…カズト殿の言ってる事が誤解と言うのもわかっているが何故か釈然としないな…」
「だから五回もしてないから!」
「やはり五回なのか!?」
「もうわかんねーよ!五回だか誤解だかハッキリさせろや!」
「そう五回五回と言わなくても五回なのはわかったから!」
もうダメだ…頭がパンクしそうだ…。
俺が頭を抱えているとニーファが、
「とりあえずここをどう脱出するか考えなきゃやばそうね、そろそろ運ばれそうな感じがするわ」
「と言ってもだな、まずはこの牢獄からなんとかしなければならないからな…」
…アンが案を考えてる。いや、寒いギャグ考えてる場合じゃなかった。
「なあアン、この檻壊せないのか?」
「え、壊してよかったのか?」
は?何言ってるんだこいつ?
「多分壊せなくは無いがやっていいのだろうか…一応人の物だからな…」
どこで悩んでるんだよ。それより檻を壊した後の心配をして欲しいんだけど…。
「やるじゃないアンタル、とりあえず檻を壊した後はどうするかよね、探知した所、外には何人も警備がいるしそっちが一番の難所ね」
そこでナナが、
「わ、私が行きます」
「え?ナナって戦えるのか?」
驚く俺にナナは続ける。
「いえ、戦えませんが、実は吸うと眠くなっちゃう不思議な薬を持ってるんです」
ナナはかなり小さな霧吹きみたいな作りをした物をポケットから取り出した。
それを見たニーファは、
「多分これ、眠り草をすり潰して水に溶かしたものね。かなり濃いみたいだし吸ったらすぐに寝るんじゃないかしら」
「ナナに行かせるのは心苦しいけどそれしか手はないもんな…」
アンはまだ理解してないのか、頭にはてなマークを浮かべる。
「いいか、とりあえず確認だ。まずアンが檻を壊し、ナナの事を忘れてる警備達にナナが霧吹きでシュッ!だ。」
「そんなので上手くいくのか?」
「封印される記憶の前後はかなり曖昧になるから目が覚めたら、何故か壊れてる牢獄と逃げた俺らが一晩で去ったと思うはずだ。そうすれば、俺らをかなり過大評価して追ってこないって算段だ、確証は無いけどな」
言い終わると俺は目線で確認を取る。
三人とも異存は無さそうだ。
「よし、じゃあ早速だが頼むぞアン」
「任せろ」
異世界に来て初のプリズンブレイクだ。言葉の通り、プリズンがブレイクするんだけどね。
アンが何度か鉄格子を殴っていると一本、また一本とへし折れていく。だが、その度にアンの拳も傷付き血が滲んでいく。
「大丈夫か?」
「これくらい、どおってこと、ないっ!」
職業が貴族なのに完全に武闘家に見える。
また一本、バキリと折れる。
この檻は、一本の鉄柱を上下のくぼみに入れるだけの簡素な作りだったので、一点が折れてしまえば後は引っこ抜くだけなのが救いだった。
「ふぅ…あと一本くらいだな」
アンは平気そうな顔をしてるが、拳で鉄柱を曲げつづけてる様は武術の仙人にすら見える。
俺と同じ事を思ったのかニーファは、
「私、これからアンタルのことアンタル様って呼ぼうかしら。今まで散々からかってきたけど、次からかったら脳みそが散りそうな気がするわ」
「俺もだ」
「これって私たちいらなくないですか…?私が行かなくてもアンタルさんだけで突破出来そうな気がしてきました」
三人ともアンの馬鹿力に肝を冷やす。
最後の一本が折れる。
「よし、出来たぞ…なんだ?何かあったか?」
「何も無かったわよ、探知してる限り外の警備には気づかれてないわね」
「そうか、なら作戦通りに—」
「ちょっと待った」
俺はアンを止めるとニーファとナナを呼び、二人の耳に口を近づけた。
(おい、やっぱ作戦を変えてアン一人で特攻させた方がいいんじゃないか?)
(そうね、私もそう思うわ。昔の偉い人がこの世で一番強い力は暴力って聞いた事があるわ)
そわそわするアンを無視しニーファが頷きながらいう。
(よし決定だな、作戦は変更って事でいこ—)
(ま、待って下さい!)
慌ててナナが止める。
(アンタルさんの拳はかなり傷ついてます…言い出しっぺは私ですが、これ以上傷を負わせるのは、心が痛——)
(そうだぞニーファ。今更、作戦変更なんて出来るわけないだろ?アンをもっと気づかってやれよな、それとこの世で一番強い力は暴力じゃなく美少女の涙だ。覚えておけ)
(私が悪いの?変更の立案者は完全にカズトだけど悪いのは私なの?ナナちゃん?)
(お兄ちゃんが言うならしょうがないですね)
ナナはニコニコとしてる。いい子すぎる。
悪い子代表のニーファは一人いじけてるが、予定通りに行こう。
「行ってくるね、お兄ちゃん」
「あぁ、気を付けろよ」
会話だけだとはじめてのおつかい、なのだが一歩間違えれば命が危ない場合もある。
ニーファは盗賊のスキルでナナを援護するために一緒に行ってる。
足でまといのニートや、脳筋の貴族が行ってら袋叩きにされるので今回は隠密作戦で行かなければならない。
しかしだ、ナナを近くで見れないのが何よりも心苦しかった。
三十分くらい経つと二人とも戻ってきた。
「一応、全員眠らせたわよ。他に捕えられてた人は何故かもう運び出されてたみたいね」
「運が良かった、とでもしておこう。まずはここから出るのが先だ」
「お、お兄ちゃん。私上手くできたかな…」
「完璧だぞ、ナナ」
「えへへ」
頭を撫でてやるとナナが顔の筋肉が緩んだようになる。
「ちょっとカズト、私もかなり活躍したんですけど?感謝のあまり奴隷契約させてくれとか言わないの?」
「はいはい、気が向いたらな。そんな事より俺らの荷物はあったか?」
「ふんだ!美少女の私より幼女を選ぶ奴なんかに教えてたまるもんもんで—」
「さっきそれっぽいところを見つけましたよ、お兄ちゃん」
「よし、じゃあ荷物を回収して行くか」
「うむ、そうだな」
「みんな酷いよー!」
こうして無事二度目の牢獄から抜け出しました。
それと旅の仲間に幼女がくわわりました。
…考えてみると俺って何もして無くね?ニート街道まっしぐらじゃね?
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