第7話 このド腐れ犯罪者がぁぁぁあああ!

 旅が始まって一週間が経過した。

 予定なら四日前には王城に着いてるはずなのに、何故かまた俺は牢獄の中にいる。

 前と違うのは牢獄に、アンと幼女がいる事だな。

 綺麗で白く長い髪を持つ幼女に、俺はどこかであったような既視感をかすかに感じていた。


「ねえ、アンタル、あなたってもっとオツムのいい方だと思ってたのだけどがっかりね」

「本当にすまない…」


 アホなニーファがアンに説教してるのはなかなか見れないので新鮮だな。

 幼女も幼女で、この場を楽しんでいる。


「ねえ見てよ、あなた私だけでなく年下の女の子にまで馬鹿にされてるのよ?恥ずかしいと思わないの?今すぐここで腹を切る覚悟とか見せないの?」


 切腹はやめてやれよ…。


「わかった、刃物が無いから…手で構わないか…」

「「「え」」」


 幼女すらびっくりな顔してるよ!手でどうするんだ?!まさか抉り出すとか発想はしないよな?


「じ、冗談だって、だから右手をお腹に突き立てないでね?」


 ニーファは両手をわちゃわちゃさせながらアンをなだめる。


「あの…」


 幼女が俺の服をクイクイと引っ張る。この動作可愛いな。


「お兄ちゃん、なんでニーファさんとアンタルさんはまた喧嘩してるの?」

「お、お兄ちゃん…?!」


 お兄ちゃんですって…!?

 お、落ち着け。幼女からのお兄ちゃんなんておじいちゃんと同じ意味じゃないか。まだ脳内はクールだ。こいつらの喧嘩はいつも通りだからスルーだ。冷静になれ…!


 俺が苦悩してるとニーファが、

「このアンタルってお姉ちゃんが馬鹿やっちゃったからなのよね」

「うるさいぞ!ニーファ!」


 いつも通りで構わないのだがもっと冷戦レベルで静かに喧嘩して欲しい。

 はぁ…思い出したくないが、この一週間で何があったか俺は振り返っていく。

 災難が起きたのは、旅が始まって二日目あたりの事だったな。



  ▽



「ふんっ!」


 現在、ニートは魔物と交戦中。

 文字だけで見ると、両親を泣いて喜ばせていることだろう。

 しかし、俺はやる気のあるニート。そんじょそこらのダメニートではない。


「せあっ!」


 一攫千金なんて夢を見ず、地道な努力で己を鍛える男だ。すなわち!エリートなニートなのだ!


「でりゃああ!」


 魔物を斜めに両断する。

 約三十分間も死闘を繰り広げ、俺は魔物との戦いに終止符を打った。


「ん?終わったの?おつかれー」


 ニーファの後ろには何十匹かの魔物の死体が転がっている。


「初めてしては意外と早かったわね、最初は当たらないし、斬れにくくて投げ出す人が多いのよね」

「最初ってそうなのか?私はメイドが弱らせた所にトドメをさす方法だったのだが…」


 ただの寄生プレイヤーじゃないか。


「ここら辺はよく人が通ってるから魔物が少ないわね、今日はここら辺がいいと思うわ」

「そうだな、そろそろ疲れてきたしここらで寝るか」

 と、アンも了承する。


 ニーファが旅の経験が豊富なおかげで、野宿するのにそこまで悩まずに済んでいる。


 食事は携帯食料の『ヌーバ』という異世界独特の食べ物だ。

 味はほとんどしないのだが、自然と腹が膨らむ。聞くと栄養も高く万能食らしい。


 食事が終わるとアンが、

「さて、今日は私から見張り番だな」

「あぁ、頼むよ。昨日のニーファみたいに途中で寝るなよ?」


「だから!あれは近くに魔物がいなかったから寝たんだって!近くに魔物がくれば飛び起きて瞬殺してやるわよ!」


 ニーファが怒るがアンは無視し、

「大丈夫だ、とりあえず早く寝たらどうだ?明日も今日と同じペースで行くからな」

「そうするよおやすみ」


 あからさまに無視されるニーファは「うぬぬ」と、唸っている。

「私も寝るからね!アンタル!絶対に寝ちゃダメだからね!おやすみ!」と、言うなりサッと寝るニーファ。


 アンタルはふぅと短くため息を吐き、その場に座る。

 少し時間が経つと足音がする。

(この足音は人か…?)

 木の間から五人程の男達が出てくる。


 男は驚いた顔一つせず尋ねてきた、

「お、やはり人がいたな、アンタら旅人かい?」

「そうだ」

「よかったら俺らが見張りをしてやろうか?」

「い、いいのか?」


 躊躇うも、アンも疲れているのでついつい聞いてしまう。


「ああ、もちろんだ。ここで会ったのもなにかの縁だしな」

「では、お願いしよう」

 と、言うなりアンは寝てしまった。



  ▽



 気がつけば牢獄の中にチェックインしてたってわけだ。

 男達が寝てる俺らを起こさないよう魔法やなんか使って牢獄に閉じ込めたってわけだ。

 俺らがいる牢獄は奴隷商人の所有するものらしい。

 この世界の奴隷には、主人となる者に首輪をされ、奴隷としての契約がされるらしい。

 奴隷となったら主人の命令は絶対となる、そして、主人以外の手で首輪を外せないとの事だ。


「だから私が悪いのではない!騙したあいつらが悪いのだ!」

「騙した方も悪いけど騙された方も悪いのよ!しかも、会ったばかりの人を信用するとか、あなたもしかしてド変態じゃないの!?寝込みを襲われるとか思ってないの!?」

「うるさいうるさい!そんな事よりここをどう出るかだろ!」


 かなり現実逃避してたのにまだ喧嘩中ですか…。四日目になるのに二人とも元気ですね…。


「ん?」


 あぐらをする膝に違和感があったので見てみると、幼女が俺の膝を抱き枕にのように顔を乗せて寝ていた。

 見た感じは幼いけどほのぼのとした寝顔は癒されるなぁ…。


「持ち物も全て没収されたのにどうやって出るのよ!大人しくしてるって一昨日も、昨日も同じ結論になったじゃない!」

「頭の足りないやつだな!考えなければなんともならないだろう!」


 二人を止めようとするが幼女が膝をぎゅっと離さないのでその場に止まる。

 はぁ…俺も寝るか…。

 ニートは、幼女と一緒に寝ました。まる。


 起きたら目の前に幼女の顔があった。


「お、おはようございます」


 どうやら幼女に膝枕をしてもらってたらしい。地球だと軽犯罪になると思う。

 辺りを見てみるとニーファとアンは疲れからか、寝てしまっている。


「おはよう」


 俺も言うと幼女が照れたように


「お、おはようございますっ」


 …なにこれ、かわいいっ!

 もう一回言ってみよう。


「おはよう」

「お、おはようございますっ」


 うーんこの安心感凄いな。

 やはり、どこか他人とは思えないというか…。


「ところで君は誰なんだ?」


 聞いてみると幼女の肩がビクっと震える。

 何かまずい事でも聞いちゃったか…?


「やっぱ忘れちゃいましたか…」

「…え?どういう事だ?」

「とりあえず4度目ですが説明しますね、私はですね—」


 聞いてる内に思い出してきた。

 彼女は、ナナ=レーヴァン。妖精族と人間のハーフらしい。

 ハーフといっても見た目は人間と変わりない。

 ナナはある種の呪いにかかっており、自分を見たり聞いたり、覚えたりした者はある行為をしないとナナに関する記憶が寝てる間に勝手に封印されるらしい。

 記憶の封印は消すのではなく、封印した内容に近い事を見たり聞いたりすることで限定的に解けるらしい。

 そして、ある行為と言うのは接吻だ。

 幼女との接吻。ただでさえニートなのだからそんな事したら地球から警察が来るっつーの。

 一応、ニーファとアンは初日に説明された時にナナとキスをしたが俺は四日も渋ってる。


「あぁ、何となく思い出せたよ…」


 ナナはパァァと笑顔になる。


「でも、なんでお兄ちゃんなんだ?」

「そ、それはお兄ちゃんを初めて呼ぶ時、間違ってお兄ちゃんって呼んじゃって、そしたらお兄ちゃんがお兄ちゃんって呼んでいいって言ったのでお兄ちゃんって呼んでます…お兄ちゃんの迷惑だったら今すぐカ—」

「お兄ちゃんでいいぞ、むしろお兄ちゃんがいいな」


 お兄ちゃんの絨毯爆撃を受けてしまったのでもう心がヨロヨロだ…幼女恐るべし。


「お、お兄ちゃん…」

「なんだ?」

「キ、キスなんだけど…」


 そ、そうだったな…

 お兄ちゃん爆撃がかなり強烈だったので忘れていたが、本命の核弾頭がまだ残っていたな…。


「迷惑だったらしなくていいんです…また私が説明すればいいので…それにこれから一緒に旅に出ますし…解決策もあるかもしれないですし…」


 困った顔されるとキスしなきゃいけなくなっちゃうじゃないか…

 てか、え?一緒に旅にくる?

 あれ、そんな事…あ、あぁ、確かに約束したな…思い出してきた。

 俺は何度か考えるが、やっぱり結論は同じだ。


「…ナナはいいのか?」

「お、お、お兄ちゃんなら、だ、だだ大丈夫です」

「じゃあ…するか」


 地球だと軽く重犯罪にあたると思う。

 ナナの顔が一瞬でリンゴみたいになる。


「は、はひっ」


 仕方ないもんな!これは不純な理由ではなく互いを尊重し合った末に行き着いた結論だから人口呼吸みたいなもんだな!

 ナナがぎゅっと目をつぶっている。


 そっと、俺が顔を近づけ、肩に手を置くとナナも顔を近づけ、互いの口と口が交差——しようとした時、

「こんのド腐れ犯罪がぁぁぁあああ!」

「ふげらっ!?

 いつの間にか起きてたニーファが後ろから俺を、横薙ぎに蹴飛ばし俺はアホみたいな声を出し、壁に張り付かされた。


「お、おおおお兄ちゃん?!」


 急な事に驚くナナが近寄ってくる。

 一瞬、ナナと口と口で触れた様な気がしたが痛みが先行して意識が飛ぶ前に親指を立てて、

「ククク…ミッション…コン…プリー…」


 ガクッ。

 俺は気絶した。

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