第6話 余談ですが本職は殺し屋です
「おう、おはようだな」
昨晩の事が何も無かったように振る舞う一隼は着替えて出てきた。
「お、おはようカズト殿…」
廊下で膝を抱えてうずくまるアンがドアの前にいた。
「それで?昨晩二人でなにをイチャイチャしてたの?」
「も、もう許してくれ…もうあれだけ説明しただろうが…!」
な、なんだ?俺が着替えてる間に何かあったのか?
「頼むからカズト殿も、昨晩は何も無かったと言ってくれ…!」
昨晩のことを知られてしまったのか…
「何も無かっただと?あれだけ俺を興奮させてから一瞬にして萎えさせておいて何も無かったと言い張るつもりか?ん?」
とりあえず、俺の心を弄んだ罪で断罪しておく。
アンは、あぅ…あぅ…と涙目で口をパクパクさせる。
「え?女メイドの言ってた事だと、昨晩は二人で愛を確かめあう事をしてたって言ってたわよ?」
そっか、俺とアン以外は昨晩のことを何も知らないのか。
「何も無かったぞ。どっかの貴族様が静電気が起きただけでコロッと恋に落ちてしまう、お茶目な性格をしてただけだからな」
「どゆこと?」
「もうやめて…」
うずくまってるアンが何かを言うが、無視して昨晩の出来事をニーファに説明した。
「アハハハハ!アンちゃん可愛いわね!」
ニーファはアンに抱きつきながら笑う。
もはや、何も言う元気のないのかアン。
そろそろ可哀想なのでやめておいてやるか…。
「そこまでにしといてやれよ…」
「ヒィ…お腹痛いぃ…プフフッ」
「…アン様」
アンをいじるのが一段落が着いたところでメイドさんがくる。流石はメイド、完璧なタイミングだな。
消沈してしまったアンのほっぺを、ぺちぺち叩いて起こすメイドさん。
「アン様、荷物の準備ができました」
「あ、あぁ、ありがとう」
メイドさんはペコリと綺麗に、お辞儀を去っていく。
「荷物って?」
「旅に持っていくものだ、なるべく不自由のない方がいいと思って最低限のものを揃えておいたんだ…」
一度、深呼吸をしたアンはキリっとし、
「よし、ニーファ一応装備の試着をするぞ」
「私の分も用意してくれたの?」
「あぁ、カズト投稿の分も用意してある。キリカ、案内してやってくれ」
「はい、ではこちらに」
いつの間にか俺の背後にいたメイドさんがお辞儀をする。
「んじゃ、また後で」
俺がひらひらと手をふるとニーファが、
「メイドさんを襲っちゃダメだよ〜」
誰が襲うか!
メイドさんに案内された部屋にはいくつもの装備品があった。
とりあえず足でまといにならないようにあまり重そうな装備ではなく軽めのをチョイスした。
「サイズはどうでしょうか」
「あぁ、戦闘をしてみないとわからないけど一応はこれでいいかなって思う」
「よかったです。それとカズト様」
ニコニコと笑うメイドさんも綺麗なだな。
「それで、アン様に手を出したんですか?」
…はぁ、またその話か。
「なんもしてないってば。アンが勘違いしただけで何もないよ」
大雑把に説明してやると、
「よかったです。もし手を出していたらカズト様は今頃、ひき肉にされていたでしょうからね」
…え?マジで?
「いったいなんで俺がひき肉にされるんだよ」
「犯人は私ですね」
流石はメイドさん。嘘を付かず、仕事に私情を持ち込まない姿は素晴ら——って違うだろ!目の前で殺害予告されたようなもんじゃないか!すでに俺はキルゾーンに入っていたのか!?
メイドさんは表情を変えずに続けて、
「私の嫉妬心といいますか、長年アン様を守ってきたメイドとしてのプライドが許せないといいますか、私以外によって汚されるのが許せないですし、アン様にずっと片思いしてきたのに他の男にかっさらわれるなんて許せないじゃないですか?」
こ、怖い…!この部屋から出なきゃ…!
「そ、そうですね、じゃあボクはこれにて」
「まぁまぁ、旅の前に少しお願いがあるのですがきいてくれませんか?余談ですが私の職業はメイドではなく、殺し屋です」
余談過ぎるわ!なんで殺し屋がメイドさんやってるんだよ!本物の冥土さんじゃん!
流石に殺されはしないとわかってはいるが大人しく椅子に座る。…殺さないよね?
「ありがとうございます。早速、頼みたい事なのですが、この手紙を王城に届けてほしいのです」
渡されたのは二通の手紙だった。
「まあ、このくらいだったらいいよ。まだどこ行くかも決めてなかったしな」
「助かります、あとですねアン様を助けてあげてほしいんです」
「いや俺の職業って」
「わかってますよ。戦闘面でなくですね、常識の方での話しです。もちろん戦闘面においても助けてあげて下さいね?できれば命を散らす勢いでお願いしたいのですが」
完全に肉壁じゃん…この人サイコパスなの?ニートだって人権くらいあるんだよ?
「アン様は初対面の人には疑う事をしないのです。相手に悪意があっても気が付かないので、常識さしか取り柄のないカズト様にフォローして頂きたいのです」
常識的な事が取り柄とか取り柄無しじゃね?とか聞くと首無しになりそうなので飲み込んでおく。
「あぁ、わかったよ」
「命を散らさないのは残念ですが、ありがとうございます」
命を散らすと喜んじゃうの?バカなの?死ぬの?いや死ぬのは俺だわ…。
「そこまでアンが心配なら旅に出さなければいいんじゃないのか?」
「今のアン様はかなり世間に疎いです。言ってしまえば頭の中が常にお花畑な状態です」
例えが酷すぎるだろ…
「だからアン様には外に行かせた方がいいのですよ。それに可愛い子には旅をさせた方がいいって言いますしね」
「まあわかったよ、俺的にもアンが来てくれると嬉しいしな」
俺が言い終わるとメイドさんは、では、と言って退出した。
殺し屋のキルゾーンに踏み入ったとはいえ、メイドさんのツンデレが見れたから良しとしよう。
俺は荷物をまとめ、俺も外に出ると、
「遅いよカズト」「かなり待ったのだがな」
ニーファとアンが待っていた。
異世界と言うのは思ってたより、はちゃめちゃな世界だったが不安よりもこれからの旅にワクワクしてる自分がいる。
「とりあえずどこに行く?まさかノープランでしたってオチは無いよね?」
「あぁ、とりあえず王城に行こうかと思う、手紙を渡して欲しいとメイドから頼まれたからな」
流石はメイドさんだ。俺がノープランで旅に出ることを予期して手紙を託してくれたんだな。それを叱咤するために殺し屋という嘘をついて俺を激励してくれたんだな。というか、そう思わないと胃に穴があきそう。
ニーファに俺が答えてやると、
「え、いいのか?カズト殿?」
何に驚いているのか分からないが、
「まあ、やるって言ったしな」
職業はニートでも心まではニートではないのが俺だ。
「まあいいか王城までは大体3日ほど歩くぞ?」
「私は大丈夫だわ。逆に温室育ちの貴族様は大丈夫なの?」
「私は大丈夫だ。カズト殿は?」
「野外活動は未経験だがなる様になると思う、じゃあ行こうぜ」
俺は言い終わると歩き出す。
「お、おい、王城はそっちじゃなくてこっちの道だぞ」
……ちょっとくらい、カッコつけさせてくれよな。
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