第4話 運命の人だから…

 この世界でパーティーを組むには、ステータスカードにパーティーの印をそれぞれ書く必要がある。

 パーティーを組んでいると、個人が何人か集まって敵を倒しても、とどめを刺した者の経験値となるがパーティーだと、とどめを刺した者以外にも同じパーティー内のメンバーに経験値が振り分けられるそうだ。


 そしてパーティーには役割があり、リーダーが必要となる。

 リーダーにはリーダースキルというものが加わり、ステータスが微々たるものではあるが上昇する。

 かくいう俺たちもパーティーを組もうとしている。

 メンバーは貴族と盗賊と…ニートがいる。

 俺はニートではあるがステータスは平均。

 ニーファは盗賊なので足が早く、スキルが豊富にある。

 貴族のアンタルは、魔法スキルもあるが使えないらしいのでただの脳筋だな。


 リーダーはまだ決まっていないが二人のどちらかに任せる事になるだろう。

 てか、俺ってこのパーティーにいらなくない?引きこもりしてた方がよくね?


 そこにアンタルが、

「カズト殿…リーダーをしてくれないか?」

「は、はい?」


 何を言ってんだ?足でまといにリーダーはアカンやろ…


「ちょっと!パーティーの足枷を代表するニートより、私の方がリーダーに適してるでしょ!」


 ニーファの言い分も良くわかるけど普通にイラッとするのでとりあえずスルーだな。


「いやいや、俺よりも二人のどっちかの方が良くないか?一応戦闘の経験もあるみたいだしさ」

「確かに経験では私達の方が上だがな…私はステータス的に脳筋だし、こいつはバカだからリーダーには向いてないと思ってだな、それにカズト殿はステータスは上げといた方がいいと思うのだが」


 遠回しに雑魚って言われた気がする。

 まあ、確かにニーファには絶対リーダーを任せたくないのでアンタルが言うんだったら仕方ないな。てか、自分が脳筋って自覚はあるんですね…


「わかった、ニーファもそれでいいな?」

「まあアンタルよりは適任だと思うし異存はないわよ?アンタルに命令されるのだけは嫌だからね」


 アンタルのこめかみに血管が浮き出る。

 アンタルさん、怒ると笑うんすね…


「カズト殿、やはり旅に出るのは三日後にしないか?どこかのバカを聖水に三日ほど寝かせて起きたいのだが」

「ニーファが可哀想だからやめておけよ…そんな事でバカが治るニーファじゃ無いだろ」


 そうだったな、と頷くアンタル。


「あれぇ?いま庇ってくれたの?バカにされたの?」

「それじゃあ印はどうするか」


 ニーファを無視して本題に戻る。


「私の家の印を使うといい、貴族だし何かと融通が聞いて便利になるだろう」

「それって大丈夫なのか?」


 本来、印はパーティーのオリジナルで作るのが一般的なので聞いておく。


 俺の疑問にアンタルは少し驚いた顔をしながらもフッと笑い、

「気にかけてくれるのは嬉しいが大丈夫だ。それにそこらの一般パーティーより貴族の後ろ盾があった方がいいからな、まあ私がいるだけで充分なのだがな」


 今日から貴族の養子になろうかな…

 はっ!それじゃニートじゃないか!危なかった!


「ニーファもそれでいいな?」

「全然いいわよ」


 あれ?普通に否定すると思って聞いたのにすんなり了承してくれたのはびっくりだ。


 そこでニーファが、

「つまり、あれよね、私が危なくなったらこの印を見せつければいいのよね?」


 どこの水戸黄門だよ。


「そんなことをしてみろ、私がお前を危ない目にあわせてやるからな」


 ニーファは慣れたせいか、口笛をして誤魔化している。

 かなりゴタゴタしたが、ニートがリーダーのパーティーが結成しました。



  ▽



 働かざる者食うべからず。

 また、働かずに食う飯は上手い。

 そんな名言、または迷言がある。

 異世界にきて、二日目にして俺は貴族と同じ贅沢をしていた。

 なんでかって?俺もわからん。


 ただアンタルが、「これからはパーティーだからな、明日から旅をするから今日は私の屋敷にでも泊まって行くといい」というのが発端だったからだと思う。


 その時はガチニートになってしまうんじゃないかと思ったがそんな考えは出迎えてくれるメイドさんの行列で一瞬で吹き飛んだ。


 メイドカフェなんかに行った事はないが、多分本職のメイドさんとは違うのだろう。

 手の内側から美味しくなるビームを出すメイドよりも美味い料理を出すし、なにより美人揃いってのがいい。

 分化祭みたいなノリが無く、真面目に働くメイドさんっていいよね。真剣な顔も美しくていいよね。

 このまま幼児退行しておぎゃってメイドさんに囲まれた生活がしたいと、喉まで出かかったのは生涯内緒にしておこう。


 食事が終わったら風呂だ。

 予想通りメイドさんも当たり前の様に入ってきたが、流石に女性にフルパワーな状態を見られるのは恥ずかしいので遠慮しておいた。

 べ、別に後悔なんてしてないんだからなっ!


 風呂を上がった俺は書庫に行った。

 美人メイドの知識——じゃなくて異世界の知識が少しでも欲しかったので向かったのだが、メイドさんが一歩後ろについてくる。

 喉が乾いた時に暖かいコーヒーを出してくれるのもポイントが高い。


 眠くなるまで本を読んでた俺は案内された寝室に行った。

 流石に添い寝オプションは無かったが「おやすみなさいなさいませ」とか笑顔で言われるだけで、昇天してしまうレベル。

 さて、メイドも堪能した俺は寝ようかと思った時、ドアの方からコンコンとノックの音がした。


「カ…カズト殿…起きているか?」

「あぁ、起きてるよどうした?」


 ドアを開けると少し頬を赤らめてるアンタルがいた。

モジモジしてるアンタルは覚悟を決めるように言った。


「め…迷惑で無ければ…一緒に…寝てもいいか?…あ、いや、迷惑だったらいいんだが…」


顔を少し下に向けて近くに寄ってくる。


「あ、いや、全然迷惑じゃないぞ!てか、と、唐突だけど何かあったのか?」


 俺は聞くのも野暮だと思ったが、つい口に出てしまってた。童貞なんだから多めに見てほしい。


「り、理由が無くちゃ…ダメ…なのか?」


 俺は一瞬だが理性が飛んだ。頭から何かが、ボフっ!とか出ちゃう感じだった。

 涙目の女の子ってどうしてこう、魅力的に見えてしまうんですかね。そのうち美少女の涙コレクターになりそうなんだが。いや、それはキモいな。うん。


 はっ、落ち着け一隼!何を考えている!早まるな!思考速度を最大限に引き上げるんだ!あらゆるパターンを想像しシミュレートするんだ!!


「メ、メイドとかが来たら恥ずかしくないか?」


 俺のヘタレ!逃げ道を作ってちゃ大人の階段なんか登れないだろうが!


「…メイド達には朝までこの部屋の近くに近づくなと言ってある…ぞ?」


 モジモジと内股気味のニーファが言う。

 な、なんて事だ…既に俺は決戦の舞台に立っていたというわけか…!


「ニ、ニーファがまた邪魔しに来たりとか…」

「アイツには眠り草入りの食事を出しておいから朝まで寝てるだろうから心配は、いらないぞ…?」


なにそれ、メンヘラみたいで僕、怖いよ…。

 ジリジリと中に入ってくるアンタル。

 ま、まずい…いや…まずくないけどいろいろまずい気がする!ん…待てよ?このまま二人きりの世界に溶け込むのもアリじゃないのか?そうすればお互いハッピーエンドに…いやいや!出会って一日で合体ってまずいだろ!と、とりあえずだ!


「な、なななんで俺なんかを?」

「運命の人だから…」


 俺の手をとりギュッと両手で包み込む彼女の発言で完全に思考が止まった。

 ウンメーノヒト?どういう意味だっけ?


「運命って?」

「昔、本で読んだことがあるんだ。結ばれる男女二人の間には触れ合うだけで雷が落ちるような感覚があると…カードを渡した時に私達、二人の間にバチっときただろ?」


 まあ、確かに静電気が走ったけどそれってさぁ、もしかして…


「だから私は思いました。カズト殿が運命の人であると」


 俺は頭から熱が下がっていくのを感じた。親に余命宣告の月日を、三年ほど間違われた並の虚無感に襲われた。

 俺は深いため息をつくいてから、

「なぁ、アンタル」


「私の事はアンタルではなく、アンと呼んで下さい」

「じゃあ、アン」

「はいっ」

「あのだな——」


 そこからはよく覚えてないが、俺が何かを説明してアンが顔を真っ赤にして俺の部屋から駆け出していった事はなんとなく覚えている。

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