第3話 職業適性は…ニー…ト…でした

「うぇ…こぷぉ…」

「おいおい、こんな所で吐くなよせっかく牢獄から出れたんだからゲロでお返しとかやめろよ」


 ニーファの言ってた事はほとんど嘘で俺をからかって遊んでたらしい。

 怒りで俺がニーファの頭をシェイクしたせいか、かなり酔っているような感じだった。


「誰のせいだと思って…うっぷ…」

「あ、ちょ…マジでヤバそう…ちょ、ちょっと守衛さーん!バケツ!バケツヘルプ!」


 ニーファの頬が膨れ上がってきたので守衛が急いで木製のバケツと水筒を用意する。


「ぷはぁ…はぁ…美少女からゲロ吐き美少女にジョブチェンジしそうだったわ…」


 美少女は変わらないのか…


「さて、ゲロゲロ。お前はもう帰れ」

「ふん、私があなたの言う事を聞くとでも?」


 アンタルとニーファの間からメラメラと炎が上がるようにみえるんだけど。

 てか、ニーファはなんで開き直ってるんだか…


「聞かないのなら盗もうとした分の金を払ってからにしろ」

「…ねえ、もうちょっとだけ私を牢獄にいれてみない?ご飯は結構美味しかったから-、って痛い!痛いって!わかったから、やめてやめて!」

「こいつめ!まだ懲りてないな!脳みそに直に聖水を流し込まないとわからないのか?!」


 アンタルがニーファの顔をギリギリとアイアンクローをする。

 この世界の美少女って色々と怖いな…


 ニーファの制裁?が終わったアンタルは、

「さて転生者殿、どこかの度を越したバカ、略してニーファのせいで遅れてしまったが私はアン・アンタルだよろしく」

「どこが略してなのかわからな…」


 笑顔のアンタルの拳からバキボキッと、音がするとニーファは静かになった。

 アンタルさん怖いっす…


「えー、俺は真鍋一隼です」

「マナベカズトか、やはり噂通り転生者の名前は少し変わっているのだな…」


 ちなみにあだ名もなんですけどね。


「まあいい、カズト殿、ステータスカードを持ってないか?」

「ん?なんだそれ」

「わからないのも当然だろう、おい!未使用のステータスカードを持ってこい」

「ハッ!」


 アンタルが守衛に命令する。

 すぐに守衛は戻ってきて、

「こちらに」

「ありがとう、スフィル」


 守衛さんの名前はスフィルらしい。影が薄くて洋風忍者みたいなので覚えておこう。


「じゃあこのカードに血を垂らしてくれ」

「お、おーけー」


 地球ではアニメみたいに血を流す習慣がないせいか、少し躊躇する。

 ってかナイフってかなり怖いな…


 カードに血をつけた俺は、

「これでいいのか?」

「ありがとう、これでカズト殿の職業適性がわかるな」


 しばらくすると、じわじわとカードに文字がでてくる。


「フムフム…まずはステータスは普通だな…転生者にしては低くないか?」


 まあ、わかってはいたが、言葉に出されると軽く泣きたくなるから言わないで欲しかったんだけどね。


「それで職業の方は…」


 急に困った顔をするアンタル。

 ん?何かおかしな事があったのか?


「ちょっと、ニーファこっちに来てくれ」

「何よアンタル何かおかしな事でも…」


 ニーファもステータスカードを見た瞬間、固まってしまった。


 …もしかして勇者とか?そこまで高望みはしてないけど選ばれし者に与えられる職業なのか?!


「お、おい俺の職業適性はなんなんだよ、もしかして勇者とか?」


 アンタルは依然として固まったままだが、ニーファは俺とは逆向きにしてプルプルと震えている。

 そ、そこまでヤバい職業なのか…?


「お、おい!アンタル、聞いてるか?」


「はっ!」っと、目が覚めたようにアンタルは意識を取り戻した。


「それで、俺の職業適性はなんなんだよ」

 アンタルはモジモジしながら、

「その…だな…カズト殿の職業適性はな…」


 そこまで勿体ぶるなって、俺だって男だ覚悟くらいはとっくにできてる。


「……………トだ」


 ん?声が小さくて聞こえなかった。


「すまない、もう一回言ってくれ」


「カズト殿の…職業適性は…ニー…ト…でした」

「…ブフッ!アッハハハハハハ!ヒーッ!ヒーッ!」


 堪えていた笑い声が破裂したかのように床を転がり回るニーファ。

 なるほど勇者ではなかっ…………

 ……は?

 ちょっと待て。ちょっと待たれよ。


「な、なんかの間違いだろ?サプライズか何かか?もしかして今日、俺の誕生日だった?」

「…すまないが、誰の誕生日でもない…ちなみにスフィルの誕生日ではあるが…」


 スフィルが照れるように頭をかく。


「いやいや、やり直しを要求しますよ。ニートなんてわけのわからない職業なりたくないですし」

「まあいいが…これ結構高いんだぞ?」


 知ったことか。不良品を渡す貴族が悪い。


「では、もう一回やってみ…いたっ」


 カードを渡そうとした手に触れたせいで静電気が走った。


「チッ、運が悪い…」


 もう一度新品のステータスカードに血を垂らした。


「変わらないな…」

「変わればよかったな」

「ブフフ、変わったら面白くないって」


 俺、アンタル、ニーファは声を揃える。


「まず、職業適性ってなんなの?」

「職業適性とは、15歳の時に一人一つまで保有できるものだ。保有する職業によって覚えるスキルが変わるし、ステータス上昇値もかなり関わってくるな」


 って事は、職業がそのまま強さになるということか…


「…で、ニートってなんなのか?」


 隣でニーファが腹を抱えて笑うが無視だ。


「それがわからぬのだ、この世界にもニートはいるものの職業としては見たことがない」


 なるほど、そしたら俺は異世界初のガチニートになってしまったって事か?

 ならばする事は一つだろう。


「よし、死のう」

「ちょ!ちょっと落ち着け!まだスキルを見てなかっただろう、それを見てみろ!だからまだ死ぬんじゃない!」


 スキルを見てみるとやはり俺にもスキルが一つだけあった。

『買い物上手』というスキルだ。嫌な予感しかしない。


「これはなんだ?」

「…買い物の時に2%引にされるスキルだ」

「ありがとうアンタル、この世界で君にあえて嬉しかったよ。縁があったら別の世界で会えるといいな」

「カ、カズト殿!待って!待ってください!死ぬのはやめてー!」と、俺を羽交い締めにする。

「ちょっと!わたしにお別れぐらいしていきなさいよ!」


 ニーファの場違いな発言がその場に轟いた。



  ▽



 俺が自殺を諦めるのにそう時間はかからなかった。

 誰でも経験を積めばステータスは上がるらしいのでそれにかけるしかない。

 俺を抑えるのに必死だったアンタルはもうかなり消耗していた。


「はぁ…はぁ…もう疲れた、スフィル、カズト殿の職業だけ王城の方に送っておいてくれ」

「え、なんで俺の恥晒しの職業が王城まで知らされなきゃならないの?死ぬより辛いんだけど?」

「転生者の職業は全て王城に知らせなければならないからな。出身がどこかわからないものが何をしでかすかわからないから、王城で管理するのだ、許してくれ」


 ぐぬぬ…確かに一理あるが俺の場合、王を笑い殺すくらいの破壊力がある職業なんですけど。その場合ってテロリスト扱いにならないよね?

 そんな事よりまず先に確認しておこう。


「とりあえず、職業ニートってなんだ?」

「先ほども言った通りわからない、が答えだ。前例のない職業はほとんど無いのだが転生者に限っては、元の世界の経験が職業となる傾向が多いらしいな」


 なるほどな。つまり俺はずっと病弱で何もしてこなかったからニートになったのか。それにしても、もっと柔らかい表現とかあるでしょ?てか、もっとオブラートに包めや!

 異世界でも弱者に厳しいんだな。


「ちなみに、お前らの職業は?」


 ニーファとアンタルが答える。


「私は盗賊よ」「貴族だ」


 続けてニーファが、

「盗賊は何かを盗むと経験となり、ステータスが上がるわね。普通に訓練するよりも盗んだ方が効率がいいと思うわね」


 なるほどな、職業には職業に合うやり方の方が強くなるのか…

 その考えだと、俺はゴロゴロしてるだけで強くなるんだけど…んなわけないよな。


「貴族はどうなんだ?」


 俺はアンタルに問いかける。


「貴族は目立ったスキルは無いが元のステータスを大幅にあがるくらいだな。後は魔法があるが、私は全く鍛錬してないから戦闘では全く役に立たないな」

「魔法ってなんなんだ?」

「魔法はスキルだな。魔法というスキルの無いものは魔法を使えない、それだけだ…ただ、魔法のスキルがあっても長い年月鍛錬しないと戦闘で使うのは難しいぞ」


 って事は、俺ってマジでニートなんじゃ?

 異世界に来て早々にして、リタイア宣言って許してくれますか?


 しょんぼりとしてる俺にニーファが、

「だ、大丈夫だって!美少女である私がついて行ってあげるからさ!カズトに迷惑かけた分しっかり働くからさ!だから元気だして、ね?」

「うぅ…ニーファ…使えないとか言ってゴメンよ…」

「ヨシヨシ」

「ニーファ様に一生ついて行きますぅ…」


 涙目の俺はニーファの腰に抱きつく。

 鬱陶しい魔人族ではあるが、今だけはニーファが聖母にしか見えない…


「うむ、カズト殿、私も一緒に付いていってやろう」

「え、本当ですか?!」

「あぁ、もちろん昔から冒険がしたかったのだがあまり機会がなくてだな…最近じゃ、わたしに回ってくる仕事もなくて退屈だったからいい機会だと思ってな」


 なんて事だ!アンタル様がいきなりパーティーに入るなんて!最高じゃないか!


「ただしニーファ、あなたはだめよ」


 アンタルが笑顔でニーファを指さす。

 どこかのアフロの鼻毛使いのネタみたいに言うなよ…


「フン、何よ、後から出てきた乳の化けモノの誘いに私のカズトが行くわけ-」

「うるさいぞニーファ、早く森におかえり」


俺はすぐにアンタル様に乗り換えることにしました。


「えー!裏切るのはやくなーい?!流石ニートね!真性のクズよ!……フ、フーンだ、いいもんね!後で来てくれって言ってもぜったい行かないんだからね!」


 頬を膨らませて怒るニーファ。


「はいはい」


 俺がテキトーにあしらうと、

「え、ホントに行かないのよ?これがラストチャンスだよ?」

「お前は村にでも帰れ、これからは私とカズトで二人で冒険するからな」


 アンタルがトドメをさしにきた。


「うぅ…ひどいよ…貴族とニートが虐めてくるよ…」


 えぇ…しゃがみこんで泣いちゃったよ…。

 てか、ニートって言わないでくれ…俺も泣きたくなっちゃうからさ…。


 流石に泣く女の子を追撃する精神は無いので、

「…アンタルさん、やっぱりニーファも連れて行きませんか?」

「…ふぇ?」


 ニーファが涙目で驚いたように顔をあげる。


アンタルはあきれたように、

「はぁ…カズト殿が言うのならまぁいいだろう…それと、このまま放っておいたらまた悪さをしかねないから手元に置いてた方が安心だしな」


 一応、この世界で初めに出会った奴だからな。

 おちょくられてたとはいえここで別れるのはちょっと心苦しいしな。


「うぅ…カズト、アンタル、ありがとおおおおお」

「おわっ」「ちょっ!」


 感極まったニーファは泣きながら俺とアンタルの首に抱きついてきて、その勢いで倒れた。

 女の子に抱きしめられるのって悪く無いなと思いました。

 あと、首の方マジでキツイっす。そろそろ苦しいからマジで離して。

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