第2話 美少女ですから!

「起きろよ〜…うぅ…起きてえぇぇ」


 隣でうるさい声が聞こえたので目が覚める。

 村長の娘が変な踊りを踊っていた…

 見た感じは可愛いのに何やってんだコイツ…

 そしてなぜか目の下に真っ黒なクマを作っていたんだけど…もう寝ろよ…


「何踊ってんだよ…呪いでもかけるつもりか?」

「やっと起きたわね…あれから七時間…ずっと騒ぎ続けて…私は死にそうよ…」


 マジで何やってんだコイツ…


「フフ…美少女の私を放っておいて安眠するとは恐れ入ったわ…嫌がらせにすらなっていなかったなんてとても…悲しい…グハッ」と、いいながら白目を剥きぶっ倒れた。


 てか、七時間も騒ぎ続けたのかよ…成人式の若者でももっと慎ましやかだと思うぞ…

 まあ、バカは放っておいてだ、まずはここから出ることを考えなきゃな…

 牢獄は錆び付いていながらも、かなり頑丈なつくりになってそうだ。

 とりあえず脱獄は無理そうだ。

 看守か誰かがきたら村長の娘には悪いが、事情を説明して俺だけ出してもらうか。


 それにしてもこいつ、ボロボロの服なせいで露出度がかなり高いな…

 …一揉みくらいならいいんじゃないか?貴族に汚される前に俺の匂いを染みつかせておいてもいいんじゃないのか?

 …そうだな!そう、これは正義のためだからな!仕方ないんだ、貴族から可愛い女の子を守るためだからな!しょうがない!

 こういう時どうすればいいんだ…!どうすれば…!

 大丈夫だ…まだこいつは寝たばかりだから時間はたっぷりある!落ち着くんだ!地球産の知識だけはたっぷりと-


「んーっ、よく寝た〜」

「まだ、2時間くらいしかたってないんだけど…」


 寝起きのいい村長の娘は自慢げに、「フフフン、それは私にはとっておきの能力があるからなのです」とドヤ顔だ。


「どんな能力なんだ?」


 一応俺も能力が上がってるとはいえ、一般人レベルらしいので能力には興味がある。


「フッフッフ、知りたいとは思いますがそれは秘密ですね」

「そっかそりゃ残念だ」

「え、意外とあっさりね」

「一応、昨日出会ったばかりだしな、ちなみにどこが秘密なのか?」

「んー?魔人族はね、起きてる時は常に魔力を発散して…あっ…?!だっ…騙したわね?!」


 村長の娘はアホスキルも持ってたらしい。


「騙してないぞ。お前がアホなだけだ」

 魔人族の娘はバッと立ち上がり、

「秘密を知ったからには死んでもらうしか無いわね」

「ハイハイ、とりあえず秘密を教えてくれよ」

「えっ?!魔人族の死の宣告にも怖気づかないの?!」


 だって怖くないんだもん…



 ▽



 彼女の秘密、と言うよりは魔人族の秘密だった。

 魔人族は常に魔力を発散してるため個人差はあるが、様々な能力が発生しやすいらしい。

 彼女の場合、手先が器用になる能力らしい。

 …正直言って使えないんだが。

 それはおいといて、魔人族は魔力を常に発散してるため一日の活動時間があまり長く無いとの事だ。

 村長の娘は魔力の貯蔵量がかなり大きいから、動かないと魔力の発散も弱くなるので短時間睡眠でいいみたいだが、能力が残念すぎる…宝の持ち腐れってやつだ。


「まあ、お前が使えないって事はわかったしいいや。後で俺はこの牢獄から出るとするよ」

「え?出られるの?」

「転生者って言えば出して貰えるだろ、俺は何故かここに来ちまったわけだしな」

「馬鹿ねえ、転生者は捕まって実験道具にされて終わりよ?転生者を売ると一生遊んで暮らせるらしいわよ」


 ニシシと笑いながら彼女は言う。


 なん…だと…

 って事はつまり、最初から詰んでるって事じゃないか…!


 俺が絶望してると、

「ここで提案よ、私と一緒にここを出ない?」「よし、今すぐ出ましょう姉御」

 俺は即答した。


「フフ、決定ね、じゃあ美少女と雑魚の脱獄作戦会議を始めるわよ!」

「雑魚じゃないから!普通レベルだから!」


 こうして俺は異世界に来て早々脱獄するハメになりました。



 ▽



「まだね、もう少し警備が少なくなればやりやすいのだけどね」と、かなり真剣な表情で目を閉じて探知している。


 ―作戦はこうだ。

 警備が薄くなった時に騒ぎまくり、転生者の俺がかっこよく登場。

 転生者は本来、めちゃくちゃ強いのがこの世界の常識なので、無駄な争いはしたくないとか、戦いたくないとか、何とか、テキトーな嘘っぱちを言って正面からとんずらする、といった内容だ。


 正直な所、かなり不安ではあるが自分でもこれ以上の作戦を思いつかなかったのでこの作戦にかける。

 彼女の探知は人間だけを探知すると言ったなかなかのスキルだ。そういえば初めて会った時も探知とかなんか言ってたもんな。


 急に目をカッ!っと開けた彼女は

「よし、今よ!騒ぐわよ!」


 そして二人で、

「「イエェェェイ!!」」


 二人してよくわからないノリで叫んだ。

 そして、俺はノリノリで歌い、彼女は美少女設定を忘れるような凄まじい荒ぶり方をしている。

 地獄絵図と比べても、地獄絵図が可愛く見えるほどの阿鼻叫喚っぷりであった。

 かなり五月蝿くしたせいか、すぐに看守がきた。


「おい!!うるさいぞ!!」


 よし、ここまでは計画通りだ。とりあえず話しをするために彼女を止めなければ。


「お、おいもう騒がなくていいから!」


 こ、コイツ!完全に壊れてやがる。

 美少女らしからぬ、やばい顔してるって!


「早く黙らせろ!耳がおかしくなる!」

「イェアアアアア!!!!えりゃえあああ!!!」

「わかってるって!オラ!黙れって、この!」

「フンゴー!!フンー!」


 口を抑えてもまだ彼女はブンブン手を振り荒ぶり続けるがとりあえず、かなり静かになった。

 少し時間が経つと魔人族の娘は完全に体力が尽きたのか足元に死体のように転がっている。

 さて、グダグダになったが本題だ。


「…ん?そういえばお前は誰なんだ?」


 看守の問いに「俺は転生者だ。わけも無くここの牢獄の中に転生させられて困ってるところなんだ」と説明する。


「な…!転生者…!」


 驚くのも無理もない。目の前には一生遊んで暮らせるだけの価値が目の前にいるんだからな。


「少々お待ちを、アンタル様をお連れしますので」

「早くしてくれよ?今はチカラを振るいたくてしょうがないんだ」と、嘘を言っておく。


 敬礼をし、看守は慌てて出ていく。

 アンタルってだれだ?ここの貴族の名前か?

 五分もしない内に上品な白を主体とした貴族らしい女性がきて俺に問う、

「あなたが転生者か?」

「そ、そうっす…」


 背が俺よりも少し高く、長い金髪にウェーブをかけた女性だ。

 というか、貴族ってオーラから違うんすね…後ろに「ゴゴゴゴ」とか見えそうだもん…


「そうかそうか!お前が転生者か!うむうむ、よく来たな私の領地へ!」


 とても素敵な笑顔だが、俺を騙すための罠なのはよくわかるぞ。


「俺を売りさばくつもりか?」

「む?何を言ってる?…あぁ、確かに研究者の中にはそういう者もいるがごく稀の話だな、闇取引の代表例としてよく扱われる話しではあるが基本、転生者は良い待遇をされてると聞くぞ?」


 さっきから静かに寝そべっている彼女を睨むとビクっとする。


「それと、この子はなんなんだ?俺が来る前からいたらしいが」

「こいつか?この屋敷でよく盗みという名のちょっかいを出しにくる。名前はニーファだ。魔人族出身でたまにこうして牢屋にいれて反省させてるんだ」

「こいつの名前って村長の娘じゃないんすか?」


 俺の言葉がおかしかったのかアンタルは笑いながら、

「ぶふっ、プククク。そんな名前のやつこの世界に多分いないぞ…」


 俺の言葉にアンタルは吹き出す。

 俺は村長の娘であるニーファに笑顔で詰め寄る。


「キミ、ニーファって言うんだ?」

「えへへ、見つかっちゃった」

「見つかっちゃった?じゃねーよ!このクソオンナァァアア!!」


 彼女の頭を横にシェイクしてやる。


「うわぁああ!ごめん!ごめんなさいって!!!許してぇぇえええ!」


 ニーファの声が牢獄に木霊する。

 異世界にきて二日目で、地球が恋しくなりました。

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