第7話 岩石竜
チチチチッ……。
風は海から森へと小さく吹く程度。
朝日が昇ったばかりのためか、森の中はまだ小鳥のさえずりが聞こえる程度の静けさがあった。
隣にしゃがみ込み、弓を力強く握るメアリーはすでに集中した顔をしている。
草むらから見つめるのは昨日仕掛けたゲルググを使った罠だ。
肉食のモンスターが来やすいように血を辺りにばら撒き、肉はこの場所に誘導しやすいようにルートを作って配置している。
ルートのゴールとして小さな丘に肉塊を集めている。
万が一にも後ろから現れないように、後ろには聖水を撒いている。風の向きが変わらないことを祈るしかない。
後は、見つけてもらえる確率が高いこの時間帯に早くモンスターが現れることを願うだけだ。
遅くなれば、ほかのモンスターの声でこちらの意図する大きな音が味方に聞こえないかもしれない。
それだけは避けたい。
早く、安全なベットで味方に守られながら眠りたい。
と、考えていると願いが通じたのか、願いを打ち壊しに来たのか、大きな足音がゆっくりと聞こえる。
ズシッ、ズシッ――
「せ、先輩……」
「大丈夫だ。姿が見えても合図するまでは待てよ」
小声で、視線は音の方からそらさずにメアリーに指示を出す。
緊張の時間が数秒流れる。
そして、ゆっくりと餌場に現れたのは全長8メートルほどで二足歩行の肉食竜――ロッグレウス
岩石竜と言われる大型のモンスターだった。
その名前の所以ともいえる岩石がロッグレウスの頭部にはついており、ロッグレウスはそれを使い敵を排除する。
行動は単調であるがその破壊力と素早さのため、なかなかに厄介な相手だ。
主食は肉であるが、泥なども好んで食べる。
「……よっし、ロッグなら鳴き袋がある」
呟き、ロッグレウスの様子を観察する。
鳴き袋があるモンスターは怒らせると耳を劈くような叫び声をあげる。
モンスターが一番怒るのは食事を邪魔されたり、瀕死の時だ。
ロッグレウスがゆっくりと警戒しながら肉に近づき、食べ始める。
「メアリー」
「は、はいっ!!」
草むらから起き上がり、気づかれる前に素早く射る。
シュッ! と短い音を立てながら真っ直ぐに矢はロッグレウスの頭部に向かう。
カン……。
うん……まぁ、そうだな。一番堅いところだ。ましてや、ただの木を削って作った即席の矢だ、弾かれて当然なんだが……。
「なんで、頭を狙ったんだ?」
「えーと……一番的が広いから?」
呆れてしまっているとようやくこちらに気づいたのかロッグレウスは、ゆっくりとこちらに振り返り叫ぶ。
どうやら一応ではあるが食事の邪魔をされたことに怒ってくれたようで、耳をふさいでいても分かるほどの大声が響く。
音が静かにやむと同時にメアリーに視線で行動を伝える。
「さ、頼むから助けに来てくれよ」
そう、小さく呟く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
嵐のような一夜が明け、周りに眠っていた何人かの同僚が目を覚まし始める。
各自、昨日の疲れが取れないながらも自分の相棒ともいえる武器の手入れや、道具の在庫などを確認している。
各いう僕も同じように確認をしているが、視線はついつい、ギルドカードの色を見つめる。
それは未だに青を示しているが、持ち主が無事かを示してはくれない。
きっと無事であると信じているがここは未開の地。どうなるかなどわからない。最悪も覚悟するべきだろうが……まぁアキトなら大丈夫だと最後には思えてしまうから不思議だ。
問題はメアちゃんだ。まさか、あそこでアキトの方に引き返すとは思わなかった。
無事であればいいが…………。
「おい、ルーク。お前はどうする?」
物思いに耽っていると相も変わらず怒っているのかと見間違えてしまう顔の男――クレスが声をかけてくる。
新大陸までのリーダーであるこの男は現在、難破した船から救出した狩猟者や鍛冶師などをつれて本来無事につくはずだった拠点に向けて行動している。
かなりの大所帯であるが狩猟者の数はそれなりにいるので、ある程度安心して行動が出来ている。問題もなくいっているのはクレスの指揮がいいからだろう。
言動などは強く、反感をよく招くが実力で黙らせるという何とも苦手な男だ。
こいつがいると女の子が皆逃げるか、こいつの方に行ってしまう。まったくもって嫌いだ。二度と連れて行かないと決めた人物の一人だ。
「おい、聞いているのか?」
「ああ、聞いてるよ。どうすると言われても何がだい?」
「ちっ……聞こえてなかったのか。今、微かにだがモンスターの咆哮があった。もしかしたら付近に無事な奴がまだいるかもしれない」
「……っ! それは本当かい!?」
「ああ、こんな朝早くからモンスターが吠えるなんて早々ない。餌を見つけたか、そいつが怒るようなことでもしなければな」
アキトである可能性は低い。もしかしたら他の狩猟者かもしれないが、どちらにしろ見捨てることなどできない。
それはこのリーダーも同じなんだろう。
「助けに行くとしても、この人数でいくのかい?」
「馬鹿か貴様は? 少数だ。本当に狩猟者だったなら助ければいいが。違う場合は戦うにしろ、逃げるにしろ動きやすい方がいい。お前は使えるだから、わざわざ声をかけた居るんだ。で、どうする?」
「ひどい言いぐさだけど、僕は行く。けれど、道案内は君がいないとだめじゃないのかい?」
「ふん、別の奴にすでに任せている。第一に案内が必要なのは救助しに行く方だろうが」
確かにそうだ。と納得した所で支度が終わり、クレスと共にモンスターの咆哮が聞こえた方に向かう。
未だにつかみどころのないクレスに何となく質問をする。
「誰だと思う?」
「知らん」
冷たい返事が来る。
「…………あの状態から生きているのならしぶといバカだろ」
小さくクレスはそう呟いた。
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