第8話 割に合わない決心
「ラッァアアアア!!」
迫りくる鈍器のような攻撃を片手にもった剣によってできるだけ遠くに突き刺して体をそちらに引っ張り躱す、すると丁度俺がいた所をタイミングよくシュッとロッグレウスに矢が放たれる。
それにより、一瞬だけロッグレウスの視線が逸れる。
その間にまた、駆け出す。
ずんぐりとした体形に発達してない前足からは重鈍といったイメージが付く割には後ろ足が異常に発達しているため行動は早く、重い。
おかげで砂浜までメアリーと共に誘導してくるだけでもかなりの危険を冒しつつだった。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ! このままこの砂浜でできるだけあいつを相手するぞ!」
「わ、わかりました!」
叫びつつ、視線をロッグレウスに向ける。
森の中なら土を掘り返し、岩石などを頭で弾いたりするがこの砂浜ならせいぜい砂をまき散らすだけになる。足元も悪いのでお得意の素早さも少しばかり下っているためにイライラしているのが分かる。
それはこちらにとっては距離さえ間違えなければ脅威ではない。
さらにありがたいことにこのロッグレウスは年が若い。モンスターの皮膚は年月が経てば経つほど固くなったり、特殊なものになるものが一般的だ。
ロッグレウスは前者の固くなるほうだが、こいつはそこまで固くない。
ただ、攻撃は若いためか荒々しく中々こちらから手を出すのが難しいのが難点だ。
体は万全ではなく、防具がない状態では一撃が致命傷となる。
そのため距離を保ち、できるだけ無理はしたくないが……体力の差がありすぎる。攻撃して弱めない限り、こちらが先に倒れるのは目に見えてしまっている……メアリーの矢は今の所通じない…………。
味方は来てくれないかもしれない。
そうなったらこの作戦は失敗だ。
いざとなったら逃げる?
しかし、逃げられなければこいつは討伐しなければいけない。
誰が?
俺だ。
もちろんメアリーには手伝ってもらってもらう。彼女は何だかんだと言いながらも、信頼していないこちらを信頼してくれている。
ならそれに答え……うん?
何なんだこれは? うじうじと自分らしくない。作戦を考えた時から馬鹿みたいに何かを考えている。
それが行動を感覚を鈍らせている。なんだこれは?
…………。
……………。
………………。
「GYAAAAAAAッ!!!!」
ロッグレウスの攻撃が迫る。
先ほどと同じように避けると思っていたメアリーから矢が放たれる。
「……先輩っ!?」
その場から動かない俺に対してメアリーが声を上げる。
体を後ろに下げる。動きはロッグレウスの頭部が当たらない程度に最小限だ。
体を捻り、矢とタイミングを合わせて、頭部に剣を振り抜く。
「GYAA!!!???」
剣が頭部に切り込みを入れ、その場所に矢が突き刺さる。
あまりの痛さにロッグレウスも後ろに下がりながら、驚きの声を上げる。
「ああ、そうか」
無意識にやった行動のおかげで疑問がなくなる。
それはいつも通りの動きだった。体が痛い、万全じゃない関係のない。まぎれもなくいつもの動きだ。
……どうやら、俺は少なからずもこの新大陸に対して浮かれていたみたいだ。
なるほど、認めてほしかった人物から褒められたのがそれほどまでにうれしかったのか。
首にかけ、意識することさえ忘れていたお守りに触れる。
生きるか死ぬかだ。そこに信頼も信用も今は必要ないだろ。
ただ、生きることを考えるんだ。結果はそれについてくる。
遅すぎたが決心がやっとついた。あとは――
勇気だけだ――
「メアリー、すまない! 助けが来るか正直わからなくなった! 20分以上やって来ないなら失敗だ!」
「えっ! 先輩それは……」
「正直、逃げるのが一番いいんだろうが悪い、けじめとしてこいつは倒したい。手伝ってくれるか?」
ロッグレウスの攻撃を躱しつつ、メアリーに無理なお願いをする。
馬鹿らしい願いだ。
自信満々に乗せた作戦は失敗のくせに、自分の感情のために突き合わせる。
どう考えても最低な野郎だ。
「わかりました! その代り先輩一回だけ私のお願い聞いてくださいね!!」
だが、ありがたいことに彼女はそんな最低野郎の願いを聞いてくれた。
「助かる。俺が切り込みを入れる、メアリーはそこに矢をどんどん射ってくれ!」
返事はない。その代わりに俺がロッグレウスに刃をたてた所にはすぐさま矢が射られていく。
「Gyyyyaaaaaaa!!!!」
こちらの攻撃にイライラしてきたのか声を上げ、皮膚が赤く変色し始める。
「メアリー、興奮状態だ。できるだけこいつの目に入らないように気を付けろ!」
「なんて、無理な要求するんですか!? でも、やってみますよ」
視線が外れないように危険ではあるが常にロッグレウスの前に立ち、メアリーに標的が移らないように気を付ける。矢は背後から来る風切の音で判断する。
先ほどまでよりも早い頭部による打撃。
ズシャッ、ズシャッと砂浜を抉りつつこちらに迫る。
威力が増してるのか、まるでクレーターかと思うほどに大きな穴が開き、脚が取られそうになるが、そこらに弾かれて落ちているメアリーの矢を踏みしめる土台として使い回避する。
頭部が落ちてくるときに避け、避ける際に剣を頭部に這わせる。
小さくではあるがダメージを蓄積し、矢によって更に追い詰める。
ズキッ!
「っぅぅ……」
体を捻ったためか難破した際に痛めていた部分が悲鳴を上げ始める。
それと同じようにロッグレウスも声は弱々しくなり、動きは鈍きなり始める。
体に鞭を打ちロッグレウスの弱点である懐に飛び込む、チャンスは今しかない!
腹部に切り込みを連続で入れ、血飛沫を上げさせる。
「ラァアアアアアア!!!!!」
ただ一心不乱に剣を、腕を振るい続ける。
呼吸は忘れ、意識はすでに殺すことだけを考え、黒く染まる。
「GuuuuAaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
っ!
痛みによって意識が覚醒したのか、はたまた最後の悪あがきなのか一際、大きな叫び声を上げるロッグレウス。
耳栓もなしに、至近距離で音を拾ったために視界が揺らぐ。
脚の力が抜け始めたので、気合を入れ踏み込むが、ズルッと血で抜かるんだ砂に足が取られる。
あ、やばいと思った時には遅く、ロッグレウスが高く飛び上がる。
「先輩っ!!」
声がする。あと数秒後にはあの筐体が落ちてきて死が訪れる。
ふざけるな。
思考を回す、手にあるのは片手剣だけだ。アレを受け止めることはできない。
横に逃げるのも脚が取られており、あの大きさだ。飛距離が足らずに間に合わない。
「――っ!!!!」
声がする。
メアリーではなく、聞きなれたものだ。
視線は知らずにそちらに向く。
「アキトっ!! 受け止めろ!!」
視線の先には重装備に身を包んだ友。
ルークだ。
無事だったのかと思うがそれもすぐに消える。ルークの銃口がこちらに向いていた。それはロッグレウスではなく――俺に向いていた。
一瞬だった。
剣の腹をルークの銃口に合わせる。
ドドドンッ!!!
銃声が響く。
「ぐっぅぅ!!」
ロッグレウスが落ちてくるよりも早く、ルークの銃弾が剣に被弾し、爆発を起こす。
その爆風でロッグレウスの下から吹き飛ばされるが、衝撃に意識が飛ぶ。
「……っ!!」
意識としては数秒だ。けれど、現実では数分俺は気を失っていた。
そして、それは自然界においては致命的ではあるが……その時間があれば弱ったロッグレウスにとどめを刺すのは容易な人物がいた。
そいつは俺が意識を覚ますと同時に一言。
「何だ犬。いつから貴様は野良犬にクラスチェンジしたんだ? 俺の部隊の一員なら生存報告にはもっと早くしろ。助けが遅れただろうが」
「はは……助かった。リーダー…………」
腹立たしいが、その顔に安心してしまい。痛みが一気に襲って来て、意識が薄まる。
ああ、それにしてもよかった。穴だらけの作戦が何とかうまくいった。本隊ではないがルークとクレスだ。二人がいれば安心だ。
ああ……無理を言って悪かったメアリー――ありがとう。
そう、隣にいるような気がした人物に言葉が出たかどうかはわからないが伝える。
夢現だ。目が覚めたらもう一度言えばいい。
今は悪いが眠らせてくれ。
そこで完全に意識が途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます